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姫百合荘マジやばい  作者: 嬉椎名わーい
1/6

1、菊と枕とシーツのシミ

女性専用シェアハウス姫百合荘(ひめゆりそう)オープンから8ヶ月がたった、10月の土曜日。

管理人の紅鬼(くき)は、住人専用玄関ホール(事務室)から電子ロック付きのドアを抜けて、ゲスト専用エリアの玄関ホールへ。

このエリアは男性も立ち入りが許可されており、ホールには金属製の丸テーブルと椅子が置いてあって、おもに業者との商談などに使用される。

今、そのテーブルでは17歳のアリスンと7歳のアンが、仲良くプリンを食べていた。

紅鬼「ちょっと、あんたたち・・・ ここはお客様専用スペースだから、入っちゃダメって言ってあるでしょ」

赤毛に灰色の瞳のチビっ子アンは紅鬼に見つかってガクガクブルブルしていたが、ブロンドのボブカットに緑の目のアリスンはふてぶてしく、「この家の総工費2億円のうち1億8千万円は私が出してるんだから、ほぼ私んちでしょ! どこで何しようと私の勝手」

「もお~! すぐにそういうこと言う!」

まだこのころは長い黒髪の紅鬼、両手を腰に当てて、しばらく2人をにらんでいたが、やがて再び住人専用玄関ホールに引っこんでいった。

アリスンはアンに目くばせ、「ほらね! 私の方が紅鬼より強いでしょ。私が姫百合荘のボスだから!」

アンは尊敬のまなざしでアリスンを見上げる。「すげー!」

しばらくして紅鬼が戻ってきた。

折りたたんだ白いシーツをもっている。

「これさあ、ローラが捨てないでとっておいたみたいなんだけど」

シーツを広げてみせ、「洗ってはあるけど、まだシミみたいのがうっすら・・・」

衝撃を受けるアリスン、「あーっ!」

紅鬼がニンマリ「誰かさんが14歳にもなってオネショしたらしいんだよねー」

悔しさにワナワナ震えるアリスン、「わかった!わかりました!」

子供2人はそれぞれカップをもって、テーブルを離れる。

「アンは5歳の時にオネショしたのが最後だよ」

「ハイハイ、アンはいい子だね!」

全員、住人専用のホールに移動した後、電子ロック付きのドアがガチャリと閉められた。


後日、アリスンはパートナーのローラにプリプリ怒った。

「ローラがけっこうケチで物持ちがいいのは知ってるけど、なんであんなシミのついたシーツとっておくの!」

アンの母親で、同じく赤い髪に灰色の瞳、唇の左下にホクロがあるローラは記憶をたぐりながら、「はて? たしかシミが消えないから、何かのゴミをくるんで捨てたと思ったけど・・・」

「それじゃ、あのシーツは? うっすらと黄色いシミがあったけど」

「うーん・・・」

眉間にシワをよせて深い記憶の海へとダイブしていくローラ、「まさかアレかな・・・ しばらく前に紅鬼とセをした時、私のテクも伝授してたんだけど、あんまり気持ちよくて紅鬼がお漏らししちゃったことがあるんだよね・・・ シーツは捨てるって言ってたけど・・・」

アリスン、開いた口がふさがらない。




姫百合荘オープンから8ヶ月がたった、10月の金曜日。

夜烏子(ようこ)は事務室で経理関係の事務処理を終えた後、姉の紅鬼(くき)に報告をしていた。

奥二重の涼やかな目が似ている2人だが、血のつながった実の姉妹ではない。

姉は勝気な濃い眉、妹は薄幸そうな下がり眉と、第一印象がかなり異なるのも道理である。

姉が大きな虫眼鏡を取り出すのを見て、妹はイヤな予感がした。

「手相でも見てくれるの?」

「いや、夜烏子の顔をこれでジックリ見たいんだよね」

「手相じゃなくて人相ってこと?」

紅鬼は真面目な顔で、「人間は誰でも、顔に『顔ダニ』という生物が住んでるらしい。夜烏子の顔ダニを観察して、もっと夜烏子のことを知りたいなー、って」

「ねえさん・・・」深い絶望が夜烏子を包んだ。

「これまでもねえさんに言われるままに、私の体のあらゆるところを見せてきたけど! 顔ダニってなに! 人間の尊厳を踏みにじるのもたいがいにしてよ! そもそも虫眼鏡で見えるモンなの!」(注:見えません)

マジギレする妹にあわてる紅鬼、目に涙を浮かべて「ご、ごめん・・・ そんなつもりでは・・・」

「じゃ、どんなつもりよ! 変態も限度ってもんがあるよ!」

2人して涙があふれてきたが、紅鬼がグッと自分を押さえて、

「ホントにごめんね。ほら私、17歳で爆弾テロで家族を失くして、それから風太刀(かざたち)家の養女になって、ずっと父の仕事を手伝ってきたじゃない? で、あまり学校の勉強してこなかったから・・・ 今になって人間の体とか世界の歴史とか、宇宙ってどうなってるんだろうとか、興味が湧いてきて・・・」

「え・え・え、そういう科学的な意味での関心があるの?」

「知識欲と性欲を同時に満たせればなー、とか」

深い沈黙が30秒ほど続いたろうか・・・

夜烏子はずっと頭をかかえていたが、「ねえさん・・・ 一度精神科を受診してみる?」

紅鬼はあわてて、「そんなシリアスな話?」

「尻、ASS・・・ で思い出したけど、この前もねえさん、私のお尻を30分くらい熱心に観察してたことあったよね?」

その時、夜烏子はうつ伏せのままスヤーッと眠ってしまい、尻の上にかがみこんだ紅鬼は、ノートに一生懸命何かを書きこんでいた。

「あの時、目が覚めたら隣りでねえさんが寝落ちしてて! 私のお尻はむき出しのままで! タオルケットくらいかけといてよ! 下半身冷やすのはよくないんだから、もう! そういうところ優しさが足りないんだよ!」

「ごめん、ごめん、堪忍して」

「で、ノートを見たら・・・」

夜烏子は真っ赤になった顔面を両手で覆った。

「なんで・・・ あんなものスケッチしてたの・・・」

紅鬼は赤くなった目を拭いて、鼻の詰まった声で必死に説明を試みた。

「あのさ・・・ たとえば手相ってさ、人間みんなちがってて、手に刻まれた線がその人の運命を暗示する・・・じゃない? で、もしかしたら肛門の・・・ 肛門相っていうのかな、あの模様もみんなちがってて、もしかしたら人間の運命を・・・」

「ねえさん、やっぱり病院行こう」


その夜、「女性専用Bar 秘め百合」店長で夜烏子のパートナー、そばかす顔のロシア人女性クリスがヘトヘトになって帰宅した。

「ごめん夜烏子、金曜は一番シンドイ・・・ 今日はセは休みでいい? 明日必ず相手するからさー」

「OK、ゆっくり休んで! そのかわり寝てていいから、お尻見せてもらってもいい?」

「うん、よく洗っとくから好きに見て」(注:疲れすぎて頭がまわってない)


「第2和室」の布団の上で、クリスはうつ伏せになってグッスリ眠りこんでいた。

パジャマのズボンもパンティーもずり下ろされ、筋肉で固くなった尻がむき出しになっている。

夜烏子が2つの肉の山をかき分け、「どうですか先生」

紅鬼がかがみこんで、虫眼鏡で詳細に観察する。

「これは・・・ 素直でのびのびした、下心のないまっすぐなシワです。この人はきっと幸せになるでしょう。ただちょっとヘタレなところがありますね・・・」

「思いつきで適当なこと言ってんじゃないでしょうね」

クリスは寝言で、「うーん・・・ やめてくれよう・・・」

「肛門相」という呼び名があまりよくないので、2人で考えて「菊紋相(きくもんそう)」という美しい呼び方が採用された。




姫百合荘オープンから8ヶ月がたった、10月の木曜日。

黒髪の姫カット、二重のくっきりした猫目の美女・真琴(まこと)とともに、紅鬼は新しい枕カバーをもって、各寝室を回っていた。

「枕ソムリエが参りました! 枕を拝見いたします」

まりあと燃子(もえこ)が使用する2階の「第4ベッドルーム」に入ると、枕をひとつ取り上げ、顔を埋めてクンクンと匂いを嗅ぐ。

紅鬼「これはミディアム・ボディ・・・ 林檎の花の香りにじゃっかんの汗が混じって・・・ほのかにミルク臭が・・・」

真琴「ちょっと紅鬼さん、枕カバー取り替えるから早くかしてよ」

と言いつつ、枕を受け取ると自分も嗅いでしまう真琴であった。

2つ目の枕に鼻をこすりつける紅鬼、「これは・・・ ダメだ! シャンプーがみんな同一メーカーのを使ってる上に、そもそも枕自体がみんなで使い回されてるから、匂いが混じりあって全部同じだー! 枕ソムリエは企画倒れだー!」




姫百合荘の豆知識(19)


風太刀(かざたち)記念会館・本館11階に日本獣畜振興会・広報部がある。

ここに紅鬼は毎週月曜日のみ出勤。(週一勤務でも月収は手取り10万円以上、小遣いにはなる)

毎週火~木曜はパートナーのミラルが出勤、月に手取り30万近く稼ぐ。(これは全額、姫百合荘の「家賃」として献上)

ミラルは金曜・日曜は「Bar秘め百合」で本職の占い師をしており、これは固定給ではないので収入は一定ではないが、平均して月に20万以上は稼ぐ。(ここから毎月5万円を紅鬼に小遣いとして渡し、残りは全額自分の小遣い)

紅鬼は月曜日に朝礼や会議に参加、ミラルの1週間の仕事の割り振りを決めておく。

机の上もきれいに整理整頓しておくが、翌日にミラルが出勤すると「使いにくい!」とまたゴチャゴチャにしてしまう。

紅鬼・ミラルともに休みシフトは週1日、土曜日しかない。




姫百合荘オープンから8ヶ月がたった、10月の水曜日。

夜、「アリスンに何かあった!」と湯香(ゆか)に呼ばれ、紅鬼は3階のアリスンの寝室へ。

先に駆けつけた褐色の美女ミラルの膝の上で、アリスンはかつて見たことがないほどワンワンと泣きじゃくっていた。

ミラル「よしよし、そういうこともあるよ・・・」

紅鬼「どうしたの?」

アリスンはこみ上げる嗚咽を押さえ、顔をクシャクシャにして、

「よんせんまん、ぶっとんだ・・・」

「なん・・・ ですと・・・」

紅鬼の膝がカクカクしてしまうので、湯香が支えてやらなければならなかった。

見ればたしかに、机の上のPCにはオンライン株式取引の画面が。

ミラルは優しくアリスンの髪をなでてやり、「仕方ないよ、今までが順調すぎたんだよ。投資なんてトータルで見て利益が出てればいいんだよ」

紅鬼「だいじょうぶ、まだだいじょうぶだから」

短い髪を後ろで2つに縛り、茶色く日焼けした湯香が、ちょっと説教したそうな顔で、「お嬢、まだ17歳で青春真っただ中なんだし、株で損した以外に、もっとたくさん涙を流すことがあるんじゃないかなあ」

アリスンがすごい剣幕で「世の中に金より大事なものなんてあるか!!」と怒鳴るので、「ひーっごめんなさい!」

ミラルが感心して、「名言誕生・・・」

紅鬼は苦笑いして湯香の肩を叩くと、「湯香の言いたいこともわかるけどさ」

一転して怖い顔になり、「お金を笑っていいのはお金を稼ぐ人だけなんだよ!」

湯香「わーっごめんなさい!」

ミラル「名言第2号・・・」


アリスンは翌日には3000万円の利益を出し、損害をかなり埋めることができた。




後日、クリスが紅鬼に「うちの嫁が、肛門で運勢がわかるという怪しい宗教にハマってしまったんすけど!」と抗議してきた。

ミラルもまた、「いつもは私の占いをバカにするくせに! 占いは科学なんだぞ! 勝手に変な占い作るな!」とプンプン。

さらに夜烏子も、「どうやって私を洗脳したの? いつの間にか変態研究所のメンバーに!」と不満爆発。

これには紅鬼も、「調子いいこと言ってる! クリスのお尻を観察しようって誘ったらノリノリでのってきたくせに・・・ この変態!」

夜烏子「変態に変態って言われたよ!」

ここで真琴が、「紅鬼さん!みんなにメールで、枕はシェアしないで自分専用のものを使うよう伝達しといた! これで枕ソムリエできるよ!」

紅鬼「真琴、いい子」

最後にアリスンが紅鬼の前に立ちふさがり、「ローラから聞いたよ、紅鬼! あのシーツ、あんたがお漏らしした・・・ あれ、ちょっと待って、ローラのベッドで漏らしたの?」

「うん」

「ローラと私のベッドで・・・」

がっくりと膝を落とすアリスン、「これからはアンの部屋で寝る・・・」




それは金曜日、ローラが休みシフトの日。

娘のアンが部屋で、熱心にTVを見ているところに出くわした。

そもそもローラ、あらゆるTV番組を好ましく思っていない。

娘がどんな番組を見ているのか、親としてチェックしておかなければ・・・

それはアニメ、しかもアンパンマンのようなかわいいものでなく、今時珍しいロボットアニメだった。

OPでタイトルが叫ばれる。

「トイレ付き超高級ロボ フンバルトデルベン!」

ここにいたって、「湯香! 湯香はどこー?」と呼びかけるが、今日は湯香の出勤日だったことを思い出した。

スマホを出して、湯香を呼び出す。

「湯香?あのね」

「ローラさん?今勤務中なんだけど!」

「娘がすげーくだらなそうなアニメ見てるんだけど! これどーすんのよ?」

「だからなんで毎回私に言うんだよ! 娘に見るなって言え!」

「そんなことしたら娘の心を傷つけるじゃない! いや、そうじゃなくて、どうすれば・・・」

「どーして見てはいけないのか、ちゃんと理由を説明して、他の遊びを提案するんだよ!」

「なんて説明すればいいかな、とにかく下品そうなんだけど、下品なものを見てはいけないって、どう話したらわかってくれるかな、私が嫌われないかな? え、なに、聞こえない、落ち着いてよ・・・」

あーでもないこーでもない、と延々とスマホで話していたが、やがて番組が終了。

アンはサッカーボールを抱えて、「お庭で遊んでくるねー」と出ていった。

「あ、湯香・・・ さんきゅ」

スマホを切って、「もおおお~!」と身悶えるローラであった。



第1話 おしまい

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