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この世界の悪役は僕たちだけでいい  作者: おーやま辰哉
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8話 ニワトリはお疲れ

 それは一瞬の出来事だった。

 目が眩むほどの光に包まれ、光が収まると僕たちは森の中に居た。

 一体どこなのかと見渡すと、やけに見覚えのある木々と石畳が目に入る。

 僕がこの世界で知っている森など一つしかない。


「ここ、街の近くだが追っ手は大丈夫なのか?」


 アイアンマーダーが封印されていたこの遺跡は街から三十分と掛からない。

 同じ転生者とは思えないくらい強かった勇者が追って来ようものなら、次こそ殺されかねない。


「残存魔力が思った以上に少ない。もう少し遠くに飛べたら良かったんだがな」


 そう答えたのは横たわったニワトリだ。

 アイアンマーダーを仕留め、勇者の足止めをし、転移魔法の使用と大活躍をしたニワトリは魔力を使い切り魔王の膝の上である。

 名はクルトンと言うようで魔王軍の四天王らしいが、その姿ゆえに実力を間近で見た今もちょっと信じきれない。

 僕らは遺跡の入り口から離れた場所に空いた大穴の近くで休憩を取っている。

 その穴はアイアンマーダーが外へ出る際に出来たようで、中を覗くと壊れた扉と亡くなったサトル君が居た。

 そのままにして置く訳にはいかないので上着を脱ぎ、上下に分かれたサトル君を遺跡の正面入り口まで運ぶ。

 恐らく勇者を呼んだのはゴトウとアイカだろう。律儀に僕の指示に従うような人たちだから、きっとサトル君の遺体を迎えに来る筈だと思った。


「さてと、魔王様とクルトン様の体力は少しくらい回復しましたかねぇ」


 二人には勇者との一戦でだいぶ無理をさせてしまった気がする。

 てんで戦闘にも魔法にも僕は詳しくないので、どれほど疲れるものなのか知らない。

 だが、何かで上から押さえつけられる感覚の苦しさは理解してる。

 そのため二人には休んでもらい僕は僕の用事を済ませた次第だ。

 そうして時間を潰した僕は手に付いた血を遺跡の隣を流れる小川で洗い、二人が待つ場所へと戻る。


「おかえりなさい。埋葬してきたの?」


「んや、仲間が迎えに来るだろうから入り口に置いてきただけだよ」


 魔王ステラは僕が出る前と変わらず膝にクルトンを寝かせた姿勢のままだった。

 その隣に座るとクルトンの寝息が聞こえてきたので僕は小声で魔王ステラに話しかける。


「魔法って寝ちまうほど力使うんだな」


「今回は高位魔法を連続して使ったんだもん、そりゃ疲れるわよ」


「魔王様は疲れてないのかい?」


 魔王ステラは小さく頷き、魔法とか使ってないから。と言いながら欠伸をする。

 あなたこそどうなの?と聞き返してくるが僕もそこまで疲れてはいなかった。

 息が出来ないほど苦しい思いをしたかと思えば次の瞬間には立ち上がり勇者の剣と鍔迫り合いだ。

 あれでよく疲れないもんだとも考えたが、疲れてないものはしょうがない。


「あー……そういや僕、魔王様に四天王に任命されましたが本気でしょうか?」


「笑っちゃうから急に改まらないでよ。四天王の末席の話は本気、マジよ」


「んじゃいつも通り話させてもらうが、僕はアンタの……魔王ステラの部下を勝手に名乗っていたんだぞ?」


 どうもこの魔王様は年が近そう、むしろ年下に感じるものだから上司には思えない。

 無礼を結構働いてるつもりだが怒る気配も無いしな。


「ステラで良いわよ。勝手に名乗っていたのは理由は聞いたし、まだ知り合って間もないけど同郷の転生者である二人を守るために吐いた嘘でしょう。余は好きよそういうの。罪は全部被ってお尋ね者になった後どうするつもりだったのかは知らないけれどね」


 ええ、ホント僕はどうするつもりだったんでしょうね。

 他に知り合いも居ないどころか勇者に付け狙われたら即刻詰む気しかしない。


「ま、運良く再就職先が決まったし結果オーライだよ」


「へぇ?四天王やる気あるんだ。先に言っておくけどお給料とか期待しないでよね」


 にまにまと嬉しそうなステラはブラック企業へようこそと言った顔だ。

 この際就職先を選ぶような贅沢はしない。というか選びようがない。


「でもいきなり四天王って他の奴は認めないだろ。クルトン激怒してたじゃねぇか」


「そこは自分の力で黙らせてくれないと困るなぁ。というか勇者の剣止めたんだし十分じゃない?」


 そう、問題はそこだ。一体僕はどうやって止めたのだろう。

 火事場の馬鹿力という線が濃いが、そうじゃなかった気がする。

 もっとこう、僕の何かが疼いたんだ。

 僕のちっぽけなプライドみたいな……。


「もしかして【プライド】……か?」


「ん?それってレオのスキルの事?」


 だとしたら説明がつく気がした。

 だってそうだろ。会社だったら部下は上司に守ってもらう側だが、今は状況が違う。

 魔王を守るのが四天王の仕事なのだから、ステラに庇ってもらっていた僕が悔しいとか舐めんじゃねぇとか思うのは当然だろう。

 それにあの時、クルトンの魔法の詠唱が終わればどうにかなると思った。

 数秒でも時間を作ってやれたら僕らの勝利なのだと。


「なんていうか、気張らないと使えないスキルって惜しいよな」


「出来ればピンチになる前にどうにかしたいもんね」


 そういうことだ。ピンチにならないと本気出せない主人公にはなりたくない。

 【プライド】の発動条件が決まったわけではないが、僕はちょっと肩を落とす。


「余は良いと思うよ。ほら、ピンチになった所を救ってもらった方が多分燃えるし!」


「そこから始まる恋、か。いや、ピンチ作り出してる僕の罪重くない?」


 ステラは確かに!と膝でクルトンが寝ていることも忘れて大笑いする。

 流石に自動恋愛生成マシンにはなりたくないのだが、やろうと思えば出来ちゃいそうなので僕は苦笑いだ。


「とりあえずだ。四天王やるのは決まりなんだけどさ、ステラたちが僕をどう扱うつもりなのかは聞いておきたい」


「どうって……?」


 ある程度和んだので僕は本題を切り出した。

 勇者が現れる寸前にクルトンが口にした言葉の意味を僕は聞きたい。

 女神が暴走気味だった事、魔眼の事。

 肝心のクルトンはまだ夢の中なのでステラに直接話してもらおうってわけだ。

 ステラは覚悟を決め口を開く。


「そうだよね。まずは二年前の……ううん、もっと前。千年に渡る勇者と魔王の戦争の事を話した方が良いのかも」


 千年前。創世神アリアナはこの異世界ヴィ・ラインを創った。

 文明の進みは遅いが創世神は人も獣も魔物も魔族も平等に産まれるようにしていた。

 創世当時は全てが仲良く暮らしていたという。だが人の中で王が現れ、又魔族の中でも王が現れた。

 やがて土地の利権や食べ物を巡り争いが起き、国が出来て対立は加速した。

 それを面白がった創世神は魔王にこの世界の権限の一部を与えた。

 【摂理の魔眼】である。

 結果、魔王は魔族と魔物を統率し軍隊を作り上げ、それらを指揮する四天王を生み出す。

 やがて拮抗していたパワーバランスは崩れ、人々が窮地に陥る。

 そして創世神は人々の信仰を一身に集める絶好のタイミングで女神アリアナとして人々の前に降臨した。

 その隣に異世界からの転生者を連れて……。


「まてまてまて」


「え、ちょっと良い所なのに止めないでよ!」


 僕は思わずステラの話を止めてしまう。段々と盛り上がって来た所で遮られたステラは不満げだ。

 だが止めるだろうそんな話。


「それはこの世界全体に伝わる一般的な創世神話か?」


 だとしたら女神が慕われるのはおかしいだろう。

 魔王に力を与えてピンチになった人を見て楽しんでいたって事だろう?当時からド屑じゃないか女神。


「あー、これは魔王にだけ伝わってる真の創世神話よ。人間に伝わってる話ではもっと女神が輝いて、魔族が超極悪に伝わってるのだけど……」


 レオには聞いてほしくないな……って小声で言ったところまでバッチリ聞こえた僕は何も言えない。

 というかその魔王千年間ずっと魔王だったのかよ。


「そうよ、お父様は二年前に今代の勇者に討たれるまで魔王であり続けたの!」


 誇らしげに語るステラから如何に魔王が偉大だったのかが伝わってくる。

 その魔王を僕が見ることはない。


「で、話の続きなんだけど──」


 女神アリアナが連れて来た転生者はそのどれもが魔王を倒すには至らなかった。

 ある者は魔王との一騎打ちで死に。ある者は戦わずに愛する者と一生を過ごし。ある者は魔王軍に寝返った。

 だが三年前、一人の転生者が現れた。王国に所属するA級冒険者、勇者アラタである。

 彼の力は凄まじかった。

 まさに一騎当千の活躍で他の転生者とパーティーを組んでいたものの、ほとんどの敵をたった一人で屠っていた。

 それは明らかに女神が勇者アラタに力を与え過ぎたからだと魔王軍は思っていた。


「でもそれを証明する術は無いし、お父様は勝つ気で居たのよ。だって負けたらバランスが崩れてしまうから」


「バランス?崩れると何がマズイんだ?」


「世界が崩壊しちゃうの」


 僕はステラの言った意味が分からなかった。

 確かに魔王が討たれ、その後も魔族や魔物狩りを進めていけばいずれ滅びるだろう。

 だがそれで世界が崩壊するというのは突拍子もない。

 言ってしまっては何だが、種族がいくつか滅んだところで食べる物が無くなるわけではない。

 世界全体を悩ませていた種も消えることだし逆に繁栄するのではないか?


「うーん。レオに分かりやすい感じに教えるなら、RPGゲームって言うものが近いかな?」


 いきなり聞きなれた単語が耳に入ったものだから僕の心臓が一瞬高鳴る。

 異世界人から向こうの話を聞くのは新鮮だ。


「人々が魔王や厄災に苦しめられている世界を救う遊び。昔、魔王軍に居た転生者から聞いたの」


 僕はその転生者のことが気になったがまた話の腰を折るのは申し訳ないので静かに聞く。


「人々の願いは世界が平和になって幸せに暮らすこと。勇者の目的はその元凶を世界から取り除くこと。元凶にはそれぞれの目的があるけれど、そのゲームが続くのは元凶が倒されるまでだよね」


 ステラの言う通り、大半のゲームはラスボスを倒すを倒したら終わりだ。

 その後やりこみ要素で周回したり図鑑を埋めたりアイテムを集めたりするが、世界を救った後のストーリーは短い。


「それってさ、その救われた世界にはそれ以上の先は無いんだよ」


「いや、そんな訳無いだろ。それぞれの人生がその後続くさ」


 僕はステラの言葉に嫌な予感がして熱く反論してしまう。

 救った後の世界はそっからが本番なんだ。

 お役御免なのは世界を救うために戦った奴らで、そいつらだって好きなように生きていくだろう。


「うん、余もそう思う。でもプレイヤーは違う」


 俺は唾を飲んだ。

 確かにプレイヤーは違う。ずっとその世界にはいない。遊び終わったら違う世界を救いに行く。


「女神アリアナは、神でありながらプレイヤーでもあるのよ」


 そう言ったステラは今にも泣きそうな顔をしていた。

 女神アリアナが強大な力を与えた転生者を送り込み魔王を討たせたということ、それはこの異世界ヴィ・ラインを終わらせようとしたって事だ。

 だが、そう考えるなら何故女神はセーブデーターを消すように一瞬で世界を壊さないんだ?創世神ならば簡単な事だろうに。


「いや、この世界はゲームとは違う。だから一気には壊せない」


「レオは察しがいいのね」


 巨大な悪が滅びたところで人は欲望の権化だ。

 世界には小さな悪が蔓延し転生者たちがそれを解決する物語が始まる。

 それでも限界はやがて訪れるだろう。争い続けた人々の自滅によって。

 少しずつ転生者や冒険者の手で、この世界の平和を願った者の手で世界を壊していく。

 

「その様をあのクソ女神は一人でほくそ笑んで上から見てるわけかよ!」


 おぞましかった。

 やはり僕が最初に出会った女神はこの世界の女神だ。

 この創世神話を知らない全ての人たちがクソ女神に騙されている。

 僕は右手で目頭を押さえ、頭が痛くなる話に歯噛みする。

 そんな世界に追加で僕という転生者を送り込んだ意味も分からな……い。


「……冗談じゃない」


「どうしたのレオ?ごめんね、いきなりこんな話したから混乱しちゃったよね?」


 僕の様子が変わったことに気づいたステラはオロオロと心配するが僕に気遣う余裕はない。


「なぁステラ。この【摂理の魔眼】って元は魔王の眼か?」


「んーっと、そうだけど正しくは女神がお父様にあげた眼かな」


「この眼の機能は何だ?一体魔王は何を見ていた?」


 僕はステラに詰め寄りまくし立ててしまう。

 ちょっと落ち着いて!とステラは僕を諫めながら話してくれる。


「お父様は【摂理の魔眼】で女神に代わって世界の管理をしていたの。世界の情勢が分かるから人や魔物の数が増えすぎたり減り過ぎたりしない様にしていたし、この世界の悪は魔王に集約するんだって言って時には悪さをする人間を見つけるのにも使ってた」


 魔王の方が女神よりも余程神らしいじゃないか。

 世界を支配する為じゃなく、世界を存続するために魔王をやってたんだから。


「魔王が死んでその眼が女神の手に戻った。そしてそれを今度は僕に移植した」


 だが今の【摂理の魔眼】は本来の機能を失っている。

 それを聞いたステラは目を丸くする。

 それもそうだ、ステラは、いやステラだけじゃない。僕だってこの眼が壊れているなんて知らなかったのだから。


「じゃ、じゃあ何が見えるって言うのよその眼」


「世界が壊れていく様だよ」


 あのクソ女神は最後まで遊び尽くす気なのだと悟った。

 だから禁忌を冒してまで僕を殺して異世界転生を実行した。


 ──僕を世界崩壊を見届ける相棒に選んだんだ。

更新頻度を上げるかも知れない……!

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