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この世界の悪役は僕たちだけでいい  作者: おーやま辰哉
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7話 まるで決戦みたいな戦場

先程、私の別作品をこちらに投稿しましたぁぁぁぁぁ。

お詫びに更新しますぅぅぅぅぅ!!

ちなみに魔王の一人称も訂正しておりますぅぅぅ!!

 僕の窮地を救ったのはニワトリだった。


「魔王様、そちらの不敬なゴミは如何致しましょう?」


 そのニワトリは僕に立派な翼、もとい立派な羽を向け少女に指示を仰いだ。


「クルトン、彼は確かに失礼な人間だけどゴミじゃないわ」


 少女はニワトリをクルトンと呼び、僕の目の前に立つ。

 あのニワトリは少女を魔王と呼んでいた。

 僕の居た世界では、数多くの物語で数多くの見た目は少女な人物が魔王も勇者やっていたから不思議には思わない。

 だが、本当に少女が魔王である場合、僕の状況はアイアンマーダーと対峙している時と変わらず危険なままだろう。


「人間が余の部下を名乗るのも面白かったし、嫌いじゃないのよ」


 黒いドレスの裾をヒラヒラと遊ばせながら、少女は僕に迫る。


「この世界の現状は酒場に居た時に聞いたが魔王は死んだんじゃないのか?自称女神もこの世界は救われた後だと言っていた」


 女神の遣わした今代の勇者によって千年に渡る魔王との戦いに決着がついたのは二年前。

 魔王が統治していた魔族国はわずかに生き残った魔族が片隅に居を構えるだけで、ほとんどが王国、帝国、共和国を中心とした周辺諸国の領土になっている。

 魔物を操る余力もなく、当然世界を蹂躙せんとした魔王軍も無い。

 そんな話を聞いたものだから僕は魔王は完全に死んだものだと思っている。

 今回僕が魔王の部下を名乗ったのは、『真偽はどうであれその背景がありながら単身で乗り込んできた存在』という得体のしれない恐怖を味方につけ、僕のことをコイツひょっとしてヤバい奴なんじゃないかと思わせる作戦だったからだ。

 そんな状況で本物の魔王が現れたらどうなるか、魔王には何だコイツ勝手に部下を名乗りやがってとなるし、街の人間からは本当に魔王の部下だったとなる。

 そんな状況はご免なので無礼を承知で確認するわけだ、なんで死んでないの?ってな。


「貴様ぁッ!無礼にもほどがあるぞ!魔王様から即刻離れろ、すり潰してくれるわッ」


 あのニワトリが何でこんなに偉そうなのかは知らないが、魔王の忠臣だとしたら当然の反応だろう。

 見た目は完全にニワトリだがアイアンマーダーを破壊できるほどの強さはあるから侮ってはいけない。

 侮ってはいけないのだがやっぱりニワトリなんだよな……。


「やめなさいクルトン。彼の疑問は当然でしょう、お父様は……いえ、魔王は二年前に確かに死んだのだから……」


 その表情は寂し気で儚い。

 やはりこの少女が魔王とは僕には思えなかった。

 少女に怒られたニワトリは僕を睨むがまた怒られるからか何も言わない。

 僕の所為で悪くなった空気だ、何とかしよう。


「自己紹介、しませんか?」




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




 本日二度目の改まった自己紹介だ、僕はまた長々と転生の経緯を話すのかと辟易したが僕より先に少女が話を切り出した。


「まずは余からね。余の名はステラ、二代目の魔王を務めてるの」


 一人称が余。実際に使う奴初めて見た。

 少女は右手を胸に当て続ける。


「余のことを知っている人はほぼいない。今は生きることで精一杯で軍も無いから侵略なんて出来ないし」


「なら何でラウンドトップになんか居るんだ?魔族国の領土が全て奪われた訳じゃないんだろう?」


 思わず口を挟んでしまったが、魔族国はここからかなり遠い。

 それに少女は見た目こそ人間と変わらないが魔族なのだろう、見つかれば殺されかねないのだから敵国に居ること自体生きることと矛盾しているのではないかと思ったわけだ。


「その先は私めが引き継ぎましょう。私の名はクルトン、魔王軍四天王だ」


 ニワトリの一人称がわたくし……まぁスーツと言うか燕尾服と言うかそんなものを着ているから納得だが、どうやって着ているんだろうかあの服。


「へぇ」


「おい、四天王に対してへぇは無いだろうへぇは。この姿だから馬鹿にしているな?魔王様の目的がなければ貴様などあのスクラップと同じにしてやるものを……」


 ニワトリの四天王なんて居て堪るか。

 ギリギリと敵意をむき出しにされているが関係ない、実はコレままごとか何かに付き合わされているんじゃないか?


「で、目的って何さ」


「クッ……目的は貴様だ、転生者。女神の寵愛を受けながら魔王に連なる者よ」


 クルトンの言葉に僕の疑問は増える一方だ。

 寵愛なんて受けた記憶ないし、なんで僕が魔王に連なる者と呼ばれてるのを知っているのだろう。


「【摂理の魔眼】、それを貴様が何処で手に入れたのか教えてもらおう。あわよくばそれを置いて死ね」


 このニワトリ今死ねって言ったぞ。

 僕は視線で少女に訴えるが無視を決め込まれた。


「あんまり時間無いからさ、次レオの番ね」


「名前まで知ってるならする必要無いだろ……ってぇ?!」


 少女に名前を知られている事には驚かないが、ついにニワトリが僕の脛へ蹴りをかましてきた。

 ちょっと爪も食い込んだ痛みに顔をしかめながら僕は事の経緯を話す。


「──って訳で今に至りますっと。この魔眼に割と振り回されてる気がするんだが、そんなに凄いものなのか?」


 僕の説明を聞いた少女はブツブツとひとり言が止まらず、ニワトリは頭を抱えて蹲ってしまう。

 予想外の展開に僕は首をかしげる他にすることがない。

 それからしばらくしてようやく口を開いた少女はとんでもないことを言い放つ。


「レオを今日から正式に余の部下にします。丁度四天王の末席が空いてるからそこね」


 僕もニワトリも口をあんぐりと開け呆然としてしまった。


「魔王様、何をお考えであらせまするかッ。今の話を聞きましたでしょう、この転生者は危険です【摂理の魔眼】の存在を加味してもそばに置くべきではありませぬ」


「待てよニワトリが、お前たちだけで納得されても困るんだよ!説明しろ」


 さっきのお返しとばかりに僕はニワトリを掴んで揺さぶって説明を求める。

 揺らすな触るなとうるさいが構うものか、僕の今後が掛かっているのだから。


「ええい!貴様が自称女神と呼ぶ方は本物の女神だ。その女神が近ごろ暴走しているのは分かっていたがここまで見境が無くなっているとは思わなかった。よく聞け転生者、お前の眼はそもそも──」


 ニワトリは自棄になりながらも説明をしようとしたのだが、突然その目が開き言葉が詰まる。

 その目は僕を見ておらず、ひとり言に夢中だった少女も同じ方向を見ていた。


 ──それは鉄が擦れる音だった。


 背筋がゾッとした。

 僕が首を痛めるんじゃないかと思う速度で振り向くと、そこに立っていたのは一人の男だった。

 鮮やかな緋色の鎧、右手に握られた剣はうっすらと炎を纏い刀身が揺らぐ。

 その姿には見覚えがあった、酒場の隅で見た気がする。

 男の表情は硬く、その目は殺気で溢れていた。


「転生者レオ=サカキ。警戒はしていたが本当に魔王に連なる者だったとは驚いた。そこに居るのは四天王クルトンと魔王の娘ステラで間違いないな?」


 ──男の身体が揺らいだ。


「チィッ!伏せろ!」


 クルトンが僕の頭を踏み無理やり屈ませると両羽を前に突き出し言葉を紡ぐ。

 少女ステラも僕の横に滑り込むと、体が地面にめり込むほどの重さが全身に襲い掛かった。

 思わず態勢が崩れ息をするのもままならないが、それは僕だけじゃなかった。

 勇者アラタと呼ばれた男も何もない上空から押さえつけられ僕に刃が届く寸前で膝をついている。


「グゥ……魔王様申し訳ございません」


「今はそれより離脱が優先!」


 少女ステラは僕に覆い被さり、少しでも僕が潰れないようにと両手両足を地面に沈ませながら必死に耐えていた。

 クルトンは再び言葉を紡ぎ始めるが、勇者アラタはそれを阻止しようと立ち上がる。


「流石だな、そんな姿になっても魔法の質は落ちていない。だが逃がすわけにはいかないな」


 ──剣が交差した。


 一体何が起こったのか理解できなかった。

 勇者の剣がクルトンに届く寸前、僕は封印を壊すときに抜いたきりの剣でそれを止めていた。

 重力だか何か分からないものに潰されて息も出来なかった僕は立ち上がりしっかりと剣を握っている。


「四天王が魔王様に必死に守られてちゃ格好悪くて仕方ないだろうが」


 僕は荒い呼吸を最大限落ち着かせ冷や汗で汗だくになりながら勇者に目を向ける。

 勇者は信じられないものを見る目で硬直し隙だらけだ。


「クルトン、早くしろ!」


「貴様に言われずとも!【転移魔法】起動ッ」


 どうやらクルトンは数秒時間を稼げば状況を打開できるタイプの奴らしい。

 こうして勇者が我に返るころには僕たちの姿はラウンドトップの街から消えていた。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「アラタ様ご無事ですか!」


 栗毛のロングヘア―を揺らしながら駆け寄ってきたのはこの街の冒険者ギルドの受付嬢であるメリルだ。

 冒険者とギルドマスターのベルクを連れて来ているという事は住民の避難は落ち着いたのだろう。私は剣を鞘に納めメリルに問題ないと合図をする。


「とんでもない殺気を感じたから急いで来てみたが何があった?」


 流石はギルドマスターと言ったところか。ここから避難場所までかなり距離があるのによく殺気を感じ取れたなと感心する。


「魔王の娘ステラと四天王のクルトン、件の転生者レオ=サカキと交戦し逃げられた」


 隠す理由も無いので私は事実をそのまま告げる。

 敵のトップが現れた話は冒険者の連中には衝撃で、一時騒然となったがベルクとメリルが何とか収める。


「四天王クルトンか、あの次元卿と呼ばれた奇才が生きていたって事は、魔王軍四天王の内三人の存在が確認出来ちまった訳かよ。その上魔王の娘が今のトップか」


「魔族の総数を考えると直ぐに動き出すことは考えづらいかと。ですが転生者が魔王側に付いたのは厄介ですね」


 ベルクもメリルも苦い顔をして状況を整理していく中、私はもう一つ告げる。


「四天王の末席はレオ=サカキだ。不完全とはいえ魔王軍が再始動するのはメリルの言う通り時間の問題だろうな」


「冗談はよせ。レオが四天王だと?」


 信じられないのも無理はないだろう。

 低いレベルにステータス、見たことも無いスキルに職業を持った異世界に来て数日の転生者だ。

 いや、行き倒れていたのが演技だとしたらもっと前から転生しているのかもしれないが。

 そんな奴をいきなり四天王だなんて私は呼んだのだから胸ぐらを掴まれても文句は言えまい。


「お、落ち着いてくださいマスター」


「うるせぇ!じゃあお前はレオが四天王だなんて話を信じられるのか?魔王の部下を名乗っていたのはまだ分かる。だが、あの雑魚が四天王なわけねぇだろうが!」


 必死になだめるメリルの甲斐もむなしく、ベルクはヒートアップする一方だ。

 それを一瞬で黙らせることは出来る。私のプライドと引き換えにというのが癪だが、この手札を切るしかあるまい。


「私の斬撃を止めたんだよ」


 その効果は絶大で全員が沈黙し、ベルクの手が私から離れる。


「次元卿の異名をもつクルトンの魔法の中でも強力な部類の【重力場】はみんな知っているな。一定の範囲内に入ったあらゆるもの重力を自在に操る魔法だ。私の速度に間に合わせるため放たれたその魔法は私と魔王の娘、レオ=サカキを押し潰した。何とか動けた私はクルトンの殺害を試み、斬りかかったが止められたんだよ」


 僕は一息つき拳を握りしめた。


「娘に庇われ息も出来ずに潰れていた筈のレオ=サカキの剣にね」


 動けた理由は分からない。いや、状況から考えてレオ=サカキの持つスキル【プライド】が発動したのかもしれない。

 レオ=サカキは想像していた以上に危険な存在だと私は思った。


「ギルドマスターベルク。貴方がレオ=サカキを四天王と認めずとも私が彼を認める」


 そう言い残し私はその場を後にした。

 私は認めてやろう、だから私は必ずこの手で葬ってみせる。

明日も更新しますので安心してください!

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