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この世界の悪役は僕たちだけでいい  作者: おーやま辰哉
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6話 魔王に連なる者

さぁお待たせしました更新日!

古代兵器を目覚めさせてしまったレオは一人兵器に立ち向かう緊迫の第6話でございます。

 ゴトウとアイカと別れた僕はラウンドトップの街へと辿り着いた。

 平原の中央に位置する王国の流通拠点となるこの街は、封印されていた自律機動型兵器アイアンマーダーによって破壊され火の手が上がっていた。

 街の中から逃げる人々の波を抜け、何とか正面門を抜けた僕は武装した集団を見つける。


「敵は鋼鉄製の兵器が一体だ。まだ現れて一時間程度、死者はまだ出ていないが既に街の東側が半壊しているほどに強力な攻撃とスピードを有している。俺様たち『明けの剣』は兵器の討伐に当たる気を引き締めていくぞッ!」


 武装集団もといB級冒険者パーティー『明けの剣』のリーダー、バルザンが先頭で指揮を執っていた。

 他の冒険者は住民の避難誘導に当たっているようでこの場にはいない。

 総勢十五名のパーティーは規模が大きいのかは分からないが、統率は取れているようで頼もしさが伝わってくる。

 残念ながら彼らの出番はないわけだがな。


「よう、やる気十分って感じだなオッサン」


 僕は建物の陰から姿を現し気さくに声を掛ける。

 冒険者の何人かが剣を抜き警戒するが、バルザンはそれを止め僕と距離を取りながらも正面に立つ。


「新人がこんなところで何してる。避難誘導に行きな」


「僕がまだ新人冒険者に見えるのか? B級冒険者といっても大したことないんだな」


 バルザンは僕に避難誘導に行けと言いながら警戒はしているのだろう、背負った大剣に右手を掛けている。

 今にも斬りかかって来そうな相手に軽口を叩くのは肝が冷える。

 それでも僕は額にうっすらと汗を滲ませながら煽り続ける。


「魔王に連なる者、僕がそうである可能性を考慮しつつも自由を許した冒険者ギルドに所属するアンタらじゃまだ理解出来ないのも頷けるか」


「何が言いたい、新人」


 額の汗を髪を掻き上げる仕草と同時に拭った僕は挑発的な目でバルザンに語りかける。

 大剣に掛けた手には力が込められ、声には怒気が滲む。


「改めて自己紹介をしよう。僕の名はレオ=サカキ、魔王様の部下でありアイアンマーダーを回収しに来た者だ」


 僕はそう名乗った。

 魔王は既に勇者によって討たれたらしいが、残党くらいは残っている筈。だからそう名乗っても問題は無いと踏んだ。

 恐らく僕を転生させた自称女神は僕に勇者や英雄の様な役割を求めていない。

 きっとそんな生き方はさせてくれないと言うべきか。

 それを見極めるためにわざわざ危険を冒して魔王の手先を演じるんだ。

 そしてその嘘はひとまず明けの剣には有効そうだな。


「そのレベルの低さで魔王の部下を名乗り単身で乗り込むとはいい度胸だ。転生者が人類に仇なすことは度々あったが、まさか魔王側につくものが現れるとはな」


「魔王様は討たれたがその悪が滅びることは無い。現に僕たちは再起を図っている最中だ。そのためのアイアンマーダーの回収だったんだがなぁ、少々手違いで暴走させてしまった」


 バルザンはまだ動かない。

 それをいいことに僕はまだ挑発を続ける。


「手違いによる暴走、か。つまり貴様はラウンドトップを襲撃する予定は無かったと言いたいわけだな?」


 バルザンは僕の呼び方を変えた。認識の誘導は成功し、僕は晴れて魔王の部下と思われた訳だ。


「そうだ。街を破壊してしまったことも詫びよう。僕を疑いながらも良くしてくれたのに迷惑をかけた」


「迷惑をかけただぁ?」「ふざけやがってッ!」「兵器より先にやっちまおう」


 白々しく謝る僕に痺れを切らした冒険者たちは全員武器を手に取る。

 ここらが潮時だろう、あまり怒らせると戦う羽目になる。


「まったく、血の気が多くて嫌になるが僕の提案を聞く理性は残しておいてくれよ?」


「前置きはいらねぇ、話せ」


「アイアンマーダーは僕が止める。アレの相手はB級には荷が重いからな。アンタらこそ他の冒険者と同じように住民の避難誘導に当たるといい」


 冒険者を抑え僕の話に耳を傾けたバルザンは眉をピクリと動かす。

 僕に止められるのか、B級を舐めているのか、他の冒険者と同じことをしろというのか、どれが気に障ったのか否全部気に障ったのだろう。デカい溜息を吐き何かを言おうとした所を僕は割って入る。


「短時間でこれだけ街を破壊した奴だ、戦えば死者が出るかもしれないことは分かるだろう? それに先程他のB級冒険者とすれ違った。メリル嬢から聞いたが問題児のパーティーらしいが、助けでも呼びに行ったんじゃないか」


 だから今無理をして戦う必要など無いということだ。

 問題は明けの剣が僕を信用するかどうか。


「止めた後はどうする」


「大人しく立ち去るさ、何せ反撃の狼煙を上げるにはいささか早計過ぎるからな」


 バルザンは僕の答えを聞き冒険者を制していた片手を下げた。

 咄嗟に身構えるところだったが僕はあえて頭の後ろで手を組み余裕さを演出する。


「……全員住民の避難誘導に切り替えだ。一人残さず助けるぞ」


 その指示に信じられないといった冒険者の面々だが口に出して反論するものは居なかった。

 忌々しげにこちらを一瞥し散ってゆく様を僕は悠々と手を振って見送ると、最後に残ったバルザンが僕をみて呆れる。


「単身で俺様たちとやりあおうなんざ肝が据わってやがる。貴様がどうやってあの兵器を止める気か知らねぇが、ミスってみろ誰か死んだらタダじゃおかねぇからな」


 一体僕の何が信頼に値したのか気になるが、話している今も建物は破壊され、途絶えることの無い悲鳴が上がる。

 僕は無言で頷きバルザンの横を駆け抜けた。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




 街の東。

 此処にどんな店や建物があったのかを僕は知らない。

 満足に観光する前に崩壊してしまったからだ。

 どの建物も斬り裂かれた断面は滑らかで、繋げたら直ぐに元通りになりそうな気になる。それが辺り一面瓦礫の山となっていなければの話だったが。


「アレがアイアンマーダーか」


 ようやくお目に掛かった兵器の姿は二足歩行のロボットであった。

 頭は無く胴体と両手両足の姿で、特徴的な点は二つ。

 一つは両腕の先に手は無く黒光する刃が付いている事。

 もう一つは自律機動型と呼ばれながらも動体丸ごとが搭乗可能な剥き出しのコクピットである事だ。

 脚はいわゆる逆関節タイプの様で実にメカメカしい。

 建物や服装などの時代背景を考えると明らかにオーバーテクノロジーの塊だろう。


 そのアイアンマーダーを止めるのが僕の目的なのだが、何か作戦があるわけでは無く動向を探るしかないのが現状だ。

 そんな僕はもう一つ頭を抱える問題がある。


『配下のアイアンマーダーが建物を破壊しました。ラウンドトップ全体の15%を破壊、このまま作業を続行します』


 アイアンマーダーに近付いた途端、謎のメッセージが表示されっぱなしになったのだ。

 これが中々の問題で、ずっと目の前をチラつく上に内容は全て何を破壊したかというものばかり。


『新居を破壊した』


『思い出のアルバムを破壊した』


『手作りのおもちゃを破壊した』


 僕が壊したわけではないのに、破壊したと表示される上に心を抉ってくる。

 このまま誰かの大切なものが壊されていく様を見続けていたら僕の心が壊れてしまう。


「だからさっさと止めないとだが……」


 アイアンマーダーが生き物ならば打つ手は多く取れただろう、思考や感情を持つ相手なら気を引くなり罠に嵌めるなり出来る。

 だが鉄の塊の気の引き方など知らないし、何もかも斬り裂く奴が罠に嵌まった所で止まるのは数秒だろう。

 勇者や英雄と言った者ならばその数秒で片付けてしまうのだろうが、僕はクソ雑魚である。

 あまりの無力さに出来ない理由、やらない理由ばかり並べてしまったが僕は元エリートだ。

 自分で言ってしまう辺り現世での未練はタラタラなのだったが今はそんなことどうでもいい。


「ああッ! しゃーねぇ、行くぞッ!」


 僕は両手で自分の頬を叩き気合を入れるとアイアンマーダーの前に飛び出し仁王立ちになる。

 クマのぬいぐるみを執拗に裂いていたアイアンマーダーは僕の存在に気付くとゆっくりと身体ごと振り向く。


(逆関節の脚だから振り向きが遅い……?)


 アイアンマーダーの眼が何処にあるかは知らないが、獲物を見定めるように僕を睨みつけているに違いない。

 背中に付いたマフラーから煙を思いっきり噴射させ唸るその姿は、到底生身の人間が相手にしていいようなものじゃない。

 僕は恐怖に飲まれないよう声を張り上げて、耳の場所どころか人語が通じるかも分からないアイアンマーダーに命令を下す。


「配下、アイアンマーダーに命ずる。速やかに破壊行為を停止しろ」


 訪れる沈黙。

 排煙も無くなりアイアンマーダーは停止したと思った。


『命令の受諾を拒否』


 思いのほかハッキリとアイアンマーダーは意思を示した。

 謎のメッセージが初めて役に立ったと僕は思う。何故ならそのおかげで僕は命を繋げたからだ。


「まだまだ遊び足りねぇってかッ!」


 アイアンマーダーが唸りを上げその黒光りする刃で主である筈の僕を容赦なく斬りつけて来た所をギリギリのところで回避した僕は、転がるようにして背後へと回り込む。

 鋼鉄の脚に踏まれたら終わりだが、リーチの長い刃を相手にするよりかは遥かにマシなので今の行動は正解だろう。

 問題は回避など人生で一度もしたことが無い上に、ゴロゴロと破片が散らばる道を転がったものだから全身が痛くて堪らないことだろうか。

 幸いにも相変わらず眼が何処にあるか分からないアイアンマーダーは僕を見失いゆっくりと周囲を見渡すために全身で回転している。

 恐らく視野が恐ろしく狭い。そして直線状には動けてもそれ以外は致命的な程がら空き。


(命令が失敗だったから絶望しかけたが、もしかして勝てるんじゃないか?)


 剣をどこかに刺したところで倒せやしないだろうが、搭乗部分には乗れそうだった。

 僕はアイアンマーダーの死角になる位置を維持しながら、アイアンマーダーは僕を探すためにその場をクルクルと回り続ける。

 触ったら気が付くだろうか? 搭乗部分に停止スイッチや操縦桿はあるのだろうか?

 僕はとりあえずこの鉄の塊に謝るべきだろう。生き物じゃないコイツに思考や感情なんてものは無いと思っていたし、罠にも嵌まらないだろうと思っていたがそれは間違いだった。

 僕に対する執着心は強いし、思考がその一点に注がれ過ぎていて他が疎か過ぎる。

 その証拠にもう五週も回っているのに一向に止まらないし他の物を壊しもしない。


(このまま回っていればアイカとゴトウが連れて来たやつが倒してくれるんじゃなかろうか)


 そんな考えを巡らせもう一周アイアンマーダーの足元を回る。

 あまりの単純さにちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。


「面白い止め方ね」


「ああ、ちょっと楽しくなってきたところだ」


 唐突に子供の声が聞こえてきたものだから素で反応してしまった。

 僕は周回を続けながら辺りを見回すと瓦礫の上に座った少女を見つける。


「でもさ、いつまでも回っている訳にもいかないんじゃない? 止める当てはあるの?」


「勇者か誰かが止めてくれるだろうな」


 十歳前後だと思われる少女は興味津々で質問を投げてくるが、僕は興味がないので適当に返す。


「それは困るなぁ」


 少女は両サイドで結んだ金色の髪をなびかせながら瓦礫から降りると真っ直ぐ僕の方へ歩いてくる。

 僕はその姿にクソ女神を重ねてしまい、思わず足が止まってしまう。

 見た目や雰囲気は違うのに僕の口から言葉が零れ出た。


「女神……何でここに」


 その言葉に少女は顔をしかめる。


「余の部下を名乗っておきながら、よりにもよって、女神と、私を、間違えるかしら?」


 呆れているのか怒っているのか分からない表情の少女に気を取られていた僕は、その意味を理解する前に機械が唸る音で正気に戻る。

 僕が回るのを止めてしまったということは、アイアンマーダーもまた僕を見つけ止まったことになる。

 それに気付いた僕が振り向く頃にはアイアンマーダーの刃は振り被って準備万端だった。


 ──迫る刃。


 頭の中は真っ白で、何とか絞り出した感情は諦めだけ。

 そんな僕の横を少女の叫びと共に何かが掠めた。


「クルトンッ!」


 ──衝撃。


 それは何かと刃がぶつかり破片や砂埃と共に僕を襲う。

 それは一度ではなく二度、三度と起こり、僕は耐え切れずに尻もちをつく。

 やがて砂埃が収まり、視界が晴れると僕は目の前の光景に唖然とした。


「この程度、魔王様の手を煩わせるまでも無い」


 何故ならそこに居たのはスーツの上だけ着た様なニワトリと、破壊されたアイアンマーダーだったからだ。

次回更新予定は6月3日ですが、ペース上げるかもしれません!

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