5話 封印って大抵解いちゃいけない
本日更新とお伝えし、一日そわそわした方~~!
最終チェックも終えいざ更新でございます、それではお楽しみください!
メッセージの謎を抱えたまま僕はダンジョンを進んでいた。
祭壇をずらして現れた入り口から内部に侵入した僕とサトルのパーティーは最深部を目指している。
ダンジョンとは言ったが、内部に魔物は居らず宝も無い。
既に他の冒険者や研究員によって一応調査済みのダンジョンなので迷いもせずに進めている。
「着いたっすね。相変わらず厳重っす」
巨大な広間に出た僕らは目の前の扉に目をやる。
ファットラビットと同じ位のサイズの鋼鉄製の扉の前には魔法陣が浮かんでおり、アイカが槍で突くとバチバチと音を立てて火花が散った。
どうやらこれがA級冒険者でも解除出来ない封印の様だ。
「中に何があるのか知っているのか?」
「目的はどうでもいいんじゃなかったのかよレオ」
僕の問いかけに皮肉たっぷりに返答するサトルだったが、ゴトウの腰辺りを肘で小突いて壁にもたれ掛かる。
態度には難があるがどうやら説明はしてくれるらしい。
「中に何があるかは過去の研究から検討がついている。ほぼ古代の自律機動型兵器で間違いない」
「素人目に見てもヤバそうな封印だな……っていうか相当危険な兵器なんじゃないかそれ?そんなもんの封印解いてどうすんだよ……」
「かつて王国が魔王との戦争で使用したらしいが七百年以上も昔の話だ」
「つまりもう動ない筈だってこと。古代兵器の素材とか高く売れそうだし、自律機動型とか浪漫だよな。ほら、さっさと開けてくれよ。仮にヤバかったとしても責任取れとか言わねぇからさ」
ゴトウは緊張してるのか額に汗が浮かんでるのに対し、サトルは楽観的で目先のお宝に興味津々だ。
状況から考えて封印を解いたら必ず何かが起こるのは明白だ。あまりにも死亡フラグが立ち過ぎている。
力を貸すと約束した以上封印は解くしかない。
問題は解き方だ。職業である【破壊者】と僕の眼【摂理の魔眼】で解ける可能性が高いとアイカは言っていたが、僕には使い方が分からない。
とりあえず未だ活躍の場が無い小振りの剣を鞘から抜き、正面に構える。
「スキルに技っぽいものは無いがやるしかねぇ」
僕は意を決して振り上げた剣を薄く光る魔法陣にぶち当てた。
━━バチンッ!
まるでブレーカーが一気に落ちる様な音と共に、魔法陣を斬った手応えが僕の手に伝わる。
斬られた魔法陣は点滅しボロボロと崩れ落ちていく。
代わりに僕の前に先ほどとは様子が違うメッセージが現れる。
『封印の解除を確認。速やかに避難し、使用後は手順通りに停止、再度封印を行ってください。繰り返します。封印の解除を確認。付近の者は速やかに避難し、担当者は手順通りに停止、再度封印を行ってください。繰り返し━━』
速やかに避難。再度封印。嫌な予感は大当たりだった。
「ったく、逃げろお前ら!」
僕は封印が解けて喜ぶサトルたちに声を掛けて来た道をへと走る。
メッセージは僕にしか見えていないから緊迫しているのは僕だけだ。
「逃げろって、折角開けたんだから中見るだ、ろう……が……?」
サトルの様子がおかしく、僕は振り返る。
封印が解けた鋼鉄製の扉は斜めに線が入っており、同じ角度でサトルの身体にも線が入っている。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
その線がずれた。
ぼとりと腕が落ち鮮血が滴る。
何が起きたのか、僕は頭では理解しているが心と体が追い付かず動けない。
ゴトウは槍を手放し悲鳴をあげるアイカの手を引き僕の方へ駆け出す。
サトルは既に無い腕を伸ばし何かを言おうとしたが、それは叶わず大量の血を吐くと共に上半身も地面へと落ちた。
「レオ殿!しっかりしろ、逃げるのだ!」
ゴトウは呆然とする僕の手も冷や汗で濡れた手で掴み、振り返ることなく走る。
背後ではガシャンと扉が崩れる音がしたが、気にしてる余裕も無い。
「ゴトウ、ゴトウ!サトルがぁサトルがぁッ!」
「サトル殿は死んだ!今は我々が死なぬ様、逃げるのみだ」
泣きじゃくるアイカにゴトウは冷静に伝える。
いや、内心冷静では無いだろうが僕らがこんな様子なのだから生き残るために必死に頭を回転させているのだろう。
ゴトウは寸分の迷いもなくいくつもある角を曲がり出口を目指す。
ようやく頭が回るようになった僕はメッセージの事を思い出し、アイカに伝えようとする。
「サトル君が死んだメッセージを僕は見ていない。だからまだ死んじゃ……」
『B級冒険者サトルを討伐しました』
サトル君に意識を向けた瞬間だった。
討伐しました。その文字に僕の背筋はゾッとする。まるで僕がサトル君を殺したような言い回しじゃないか。
僕は動揺から呼吸を乱し、足がもつれ倒れてしまう。
「うおっ!」
ゴトウの左手に全重量がかかり、驚きの声と共にその足も止まる。
素早く周囲を見回しサトルを殺した何かが追って来ないことを確認したのか、ゴトウとアイカも腰を下ろし息を整える。
『訂正。B級冒険者サトルを配下アイアンマーダーが討伐しました』
目を逸らして見ないようにしたメッセージは再度僕の目の前に現れる。
訂正と書かれていたが内容は変わっちゃいない。否、より詳細になっていた。
アイアンマーダーというのがサトルを殺した奴、恐らく自律機動型兵器の事だろう。
それが僕の配下と言うのが気になる。
(もしかして僕が封印を解いたからか?)
鳥の雛は最初に見たものを親と認識する、と聞いたことがある。兵器を生物と同じように考えて良いのかは疑問だが、仮に同じだとすれば封印を解いてしまった僕を主として認識している事への説明はつきそうだ。
だとしたら僕がサトル君を殺したようなもんじゃないか。
何があっても責任取れとか言わないと言われたが、そもそも取りようがないじゃないか。
突然の轟音と揺れが始まったのはそんな事を考えている時だった。
「うわぁ!」「ぬぅっ!」「きゃぁぁ!」
凄まじい縦揺れが僕らを襲う。
パラパラと砂や小石が降ってくる中、僕らは通路にしゃがんで頭を守る。
「……収まったか?」
数十秒続いた揺れが収まると、僕は広間へ行く道の壁が崩れている事に気付く。
もう少し位置がずれていたら僕らは今頃あの瓦礫の下だ。
「アタシらも訳わかんない内に死ぬっすか……?」
俯くアイカに元気は無い。いきなり仲間を失ったのだから当然だろう。
「古代の自律機動型兵器アイアンマーダー。それがサトルを殺した正体だよ」
「そう断言できる理由はあるのか?」
「ファットラビットを殺した時にも見たメッセージが現れた」
僕は僕だけに見えるメッセージの事を二人に改めて話す。
ファットラビットの時には興味も持たれず聞き流されてしまった。
しかしそれが幸いしており、僕はファットラビットが殺されただの、サトルを討伐しただのという都合が悪そうなことは省く。
もちろんアイアンマーダーが僕の配下らしいことも言わない。
ゴトウは僕の説明を信じたのか、わかったと一言だけ言うと立ち上がる。
「その自律機動型兵器があの扉と同じくらいのサイズだとしたら、我々を追ってこの狭い通路を通ることは不可能だ。先ほどの震動は恐らくそいつが壁か天井を崩し外に出たと考えるのが妥当だろう。マーダーと言うからには向かう先は人が居る場所……街だろうな」
顎に手を当てたゴトウは冷静に予測を立てる。
アイカはショックが大きいのか膝を抱えて俯いたまま返事も無い。
「街なら冒険者が沢山居るよな……?そいつらなら倒せるよな?」
「難しいだろうな。扉とサトル殿が斬られたのは一瞬だった、あの速さに対応できる冒険者はそうそう居ない」
僕の頭によぎるのは崩壊した街の姿とサトルの様に死んでいく冒険者やメリル嬢、ベルクさんの姿。
まだ三日と滞在していない街に何の思い入れがあるというのだろう。
だが僕は思い浮かべた光景に背筋が凍り、吐き気を催す。
封印を解いた……いや、壊したんだ。もう一度アイアンマーダーを封印する手立てなど無い。このままでは街も人も全て僕の所為で壊してしまう。
「【破壊者】……僕の職業はやっぱり……」
僕は唇が切れ血が流れるのも構わずに噛みしめる。
剣を杖代わりによろよろと立ち上がったが足は震え、手には封印を壊した時ほどの力は入らない。
それでも駆け出していた。
外へ出るにはまっすぐ進むだけ、出た後は街までさらに走るだけ。
僕の所為で街が壊れ、誰かが死ぬ。それが嫌だから止めに行くのか、僕を魔王に連なるものだと疑えど親切にしてくれてた人たちを助けたいから行くのか。
もし誰も助からないのなら必要な装備やお金を拝借してどこかへ逃げよう、僕の事を知ってる人間は少ない。みんな死んでしまうなら何を盗ってもバレやしない。僕はステータスさえ見られなければ良い。
違う、助からないのならじゃない、助けるんだ。僕が招いた事態なのだから僕が責任をもって対処するべきなんだ。
アレに勝てるのか?B級冒険者を一瞬で裂いたアレを?訳の分からないスキルしか持っていない僕が?
(くっそが……頭が痛ぇ)
遺跡を出て森を走り平原に出るまで、僕の思考は滅茶苦茶だった。
ついに息を切らしてへたり込んだ僕は暖かな光に包まれる。
「レオ殿ッ!街が心配なのはわかるが落ち着くのだ」
ゴトウの回復魔法によって僕の疲労が軽減されたのだ。
「アタシが悪かったっす。サトルが死んだショックでアタシが使い物にならなくなったからいけないんっす」
「何言ってんだアイカ?」
後ろから涙と鼻水で顔を濡らしながら走ってきたアイカは突如そんなことを言い出した。
僕は息を整えながら聞き返す。
「だからレオさんは先に行ったんっすよね。あんな震えてたのに、C級冒険者のアタシやゴトウよりも先に街に行こうとしたっす。一人で助けに行こうとしたっすよね」
僕は言葉に詰まった。
確かに助けに行こうという気持ちはあった、だがそれ以上に保身や邪な気持ちもあった。
誰も真実を知らないのだからゴトウとアイカに全ての責任を押し付けてしまえばいい。
僕が封印を壊した証拠なんて誰にも分らない。二人ともここで殺してしまえばいいんだ。
何も言わない僕にアイカは首をかしげる。
「助けに行くつもりじゃなかったっすか……?」
べたべたになった顔を拭くことも無く、その表情は曇ったまま。
僕は一息つくとポケットから布切れを取り出し顔を拭いてやる。
一体僕は今何を考えた?殺してしまえばいいだと?そんなクソ女神みたいな考えをした自分が心底気持ち悪かった。
誰が何と言おうとこれは僕の責任だ。
「助けに行く……とは少し違うな。そう僕は自身の責任を取りに行くだけだ」
「責任っすか?封印を解いた責任ならアタシらにあるっす、レオさんは悪くないっすよ」
僕は静かに首を横に振る。
「悪いのは僕さ。魔王様に言われて回収しに来た配下のアイアンマーダーが暴走状態だったのだからね」
「配下……っすか?」「なんだと?」
唖然とする二人に僕は背を向ける。
僕は嘘を吐いた。最早この世界にはいない魔王の部下を語る盛大な嘘。
それを二人は信じてくれるだろうか?
「上手く出来過ぎていたとは思わないか?」
信じてもらわないと困るのだ。
「ステータス全開で人前に姿を現した転生者が、誰にも解けない封印を解く鍵かもしれない。それが都合良くキミらのパーティーの前に現れた」
僕は振り返りにこやかな表情で続ける。
「金も取らず、キミらの目的も積極的に聞こうとすらしない男は誰でも見られるステータスを読み上げることだけを条件に、封印を解くことを了承する」
ゴトウは段々と警戒を強め、アイカの表情は困惑から怯えへと変わる。
あともう少し、焦ってはいけない。
「無知を装うって大変なんだな、勉強になったよ。お礼にキミらは見逃がそう」
二人は逃がす、絶対にだ。
犠牲者は一人でも多く減らす。
「ま、街の人たちはどうするっすか!」
「僕の任務はマーダーの回収だ。それ以外がどうなろうと知ったことじゃない」
アイカは息を飲み僕の目をまっすぐと見つめる。
「だから、被害を広げたくないのなら助けを呼んでくるんだな」
悪役は全部僕が請け負おう。その代わり二人にはアイアンマーダーを倒せる冒険者を連れて来てもらう。
僕はそれまでの時間稼ぎだ。転生者は特別なんだろう、だったら何とかなる。
「アタシらと一緒に居た時のレオさんは嘘ついてるようには見えなかったっす。でも全部都合が良いのも事実っす」
「そして真偽を問い質す時間が無いのもまた事実。故に我らはレオ殿の話に乗ろう」
僕が嘘吐いてるって判断しやがったな。
それでも二人は僕の想いを汲んでくれた。
「レオ殿……我々が戻るまで無茶はなさらぬよう!」
「お前たちが戻る頃には全て終わってるさ」
ゴトウとアイカは駆け出す。
僕はそれを見送り、ラウンドトップへ視線を向ける。
思う存分悪に染まってやろう。
僕は【破壊者】なのだから。
次回更新は5月27日の予定です。
もしかしたら私が待てずに更新するかも←オイッ
見逃したくない方はプロフィールに作者の某青い鳥のID書いておきますんでチェックしてね☆
応援するぞ!って方はぜひ評価もお願いしまぁぁぁぁぁぁす!