3話 受付嬢と三馬鹿
おっとぉ!次の話は20日って言ってたのにどういう事だ?!
作者の奴自分が待ちきれなくなって投稿しやがった……。
下手くそな尾行をしてくるのは三人。
新聞の様なものを読みながら付いてくる長身の男が一人。
建物や柱の陰に隠れながら様子を窺ってくる小柄な女が一人。
店という店すべての店員に挨拶をしながら、一定の距離を保つ少年が一人。
僕が彼らの尾行に気が付けたのは自分が魔王の手先だと疑われている自覚があるからなのか、彼らの尾行がただ下手なだけなのか
僕は最初に後を付けられてると感じた時に一度、彼らを確認しただけだが明らかに浮いた存在だった。
それ以降振り向くことなく歩いているが、時折子供が「あのおねーちゃんヘンなのー」とか言う声が聞こえてくるものだから、笑いをこらえるのが大変だった。
ようやく冒険者ギルドに辿り着いた頃には尾行していたことを隠す気も無いのか、安堵で気が抜けていたのか三人でハイタッチしている。やっぱり尾行が下手なだけかもしれない。
僕は呆れながら冒険者ギルドの扉へ手を掛けた時、彼らは耳を疑う様な会話を始めた。
「いやー、アイツ全然気付かなかったっすね!アタシら尾行の才能あるんじゃないっすか?」
「……そうか?まぁ、そうだな」
「ま、ボクらみたいなB級冒険者ならね。アイツくっそレベル低いみたいだし気付くとか無理無理」
小柄な女はケラケラと笑いながら、長身の男はあまり自信が無さげな顔で言う。あの少年は後で締めよう。何だくっそレベル低いって。
確かに転生したてだからステータス上のレベルが低いのは事実なのだろうが、お前たちの尾行の方がよっぽどレベルが低いわ。
このまま聞き耳を立てて中に入らないのも不自然なので僕は扉を開く。
「失礼します」
冒険者ギルドは役所みたいなものだろうし挨拶は不要なのだろうが、なんとなく低い物腰で中に入る。
きっと気性の荒い冒険者などでギルド内は溢れ返り、ボードに貼られた依頼は取り合いになって喧嘩も日常茶飯事なんだろう。
そんな予想は何処へやら、ギルドの中は掃除が行き届いた石造りの内装。
正面には四つの窓口が並んだカウンターに、右手側には依頼を張り出すボードだろうか?こういう物は雑然と貼られているイメージがあるんだが、個々の職員の仕事は丁寧なようで好感が持てる。
そして左手側には休憩や会議様だろうか、テーブル席がいくつかあり呑気にトランプゲームで遊んでる冒険者が座っている。
もっと活気溢れる世界を想像していたので期待を裏切られるのもいいところだが、僕はある事に気付く。
「昨日酒場に居た奴らじゃん……」
「げっ!」「うわまじかよ」「よっ!昨日は楽しかったぜ」「なんだなんだ、おー!兄ちゃん来たのか」「誰あれ?」
揃いも揃って昨日僕の話を聞きに昼間っから飲み散らかした冒険者。
かなり人が集まっていたので異世界では昼から呑むのが普通だと思っていたが、この面子を見るに昨日の大宴会は僕を警戒したベルクさんが大量に呼んだ用心棒ってところか。
トランプなどもうどうでもいいのか、全員僕の所へ集まり肩を叩いたり握手をして来たり自由奔放過ぎてちょっとついていけない。
そんな冒険者の集団をかき分け、一人の女性がやって来る。
「ようこそ冒険者ギルドへ、噂の転生者さん」
凛とした声と裏腹に穏やかな眼差し。サイドを巻いた栗毛のロングヘアーが特徴的な女性の挨拶から察するにこのギルドの職員だろうか。
酒場に居なかった筈の職員の耳にまで届く噂は良いものではないだろう。
粗相なんてしたくないので、手招きをする彼女に僕は大人しくついて行くことにする。
「その……レオと申します。これ、ベルクさんから渡せと言われた手紙でして」
良く見なくても可愛いという言葉が似合う彼女に僕は少しドキッとしてしまう。
そんな少し気になってしまった女性に名前を名乗るのは気が引けた。
ベルクさんに名乗った時も着にはしたのだが、僕の名前は所謂キラキラネームというものでコンプレックスだった。
獅子と書いてレオと読む。意味と漢字が合っているのがせめてもの救いだったし、子供の頃はかっこいいと気に入ってもいたが、社会に出てからはホストみたいだのなんだのと馬鹿にされることも少なくなかった。
だからなるべく名字で呼んでもらいたかったし、レオ=サカキのサカキで通す気で居たのだが、ベルクさんが言うにはこの世界じゃ名字を持つのは貴族や功績を挙げた者、転生者くらいらしく、名前で呼ぶのが普通だから慣れなと言われた。
「レオさん、良い名前ですね!私は冒険者ギルド、ラウンドトップ支部のメリルです。当ギルドでのレオさんの担当になりますのでよろしくお願いします」
そんな経緯があったので、僕はメリルさん━いやメリル嬢と呼ぼう━に、頼もしくて格好良くて素敵で素晴らしい名前だと褒められ、僕の気持ちは気になるから惚れるへ昇格した。
冒険者や転生者が受付嬢に惚れるシチュエーションにもこれは納得だ。美人で可愛い受付嬢に相手をしてもらえる上に僕の専属だなんて言われたらオチるのは一瞬だ。そこまで言ってない?よく心の声を聞けばわかるさ。
「最高だろ、メリルちゃん」
「ああ、最高だわ」
さりげなく隣に立っていたつるっ禿げの冒険者と拳を合わせた僕は、気のせいだと思うが冷ややかな目になったメリル嬢に視線を戻す。
「コホン、マスターからの手紙は確認しました。本来であればステータス確認等こちらで行うのですが、酒場にてすべて公開されていたとの事でしたので省略いたします」
なんでも僕のステータスやスキルが手紙に書き記されていたようで、メリル嬢の差し出したタグを受け取り手続きは完了してしまった。
「ドッグタグみたいなものか。首から下げておけばいいのかな?」
「ええ、手首に巻く方や鎧に埋め込まれる方もいらっしゃいますが、ネックレスにされる方が多いですね。提示を求められた際に確認出来れば状態は問いません」
俺のはココだぜ!とつるっ禿げは肩を自慢げに指差す。
見れば鉄製の肩当てにドッグタグが溶接されている。
「タグは冒険者のランクに応じて下から順に、E級が銅、D級は鉄、C級が銀、B級金、A級白金、最後にS級がミスリルとなっています。色や素材で一目瞭然ですし、手数料さえ頂ければ再発行も容易なので好き勝手しやすいんですよね」
メリル嬢の説明を聞きながら、もう一度つるっ禿げの溶接されたタグを確認すると金だった。
という事はB級……。B級と聞くと中堅どころのイメージなのだが、この世界では意外と強い部類なのかもしれない。
「やっぱりA級やS級はそんなに居ないのか?」
せっかく教えてくれる人が居るのだから、かもしれないで終わらせるのは勿体ない。分からないことは何でも聞く、これは新人の鉄則だ。
メリル嬢は軽く頷きギルドの壁に掛けられた地図を指し説明してくれる。
「S級は現在は五人。このランドライズ王国の勇者パーティーの皆様だけですね。A級は二十人ほどで、各国に一つ又は二つの冒険者パーティーの皆様が。彼らは世界や国に認められた特別な冒険者ですので、一般的にはB級が最上位と言っていいでしょう」
「なるほど。じゃあオッサン意外と凄いんだな」
「おうよ、この街じゃ二つしかないB級パーティーがひとつ!『明けの剣』のリーダーをしてるくらいにはな!」
つるっ禿げの名乗りにギルド内は拍手喝采の大盛り上がり。かなり人気があるらしい。
「名乗るのが遅れたな、俺様の名はバルザン。困った事があればいつでも聞きな、レオ」
虫に強そうな名前のつるっ禿げは、僕の肩をバンバンと叩くと豪快に笑いながらギルドを出て行く。
メリル嬢いわく、このラウンドトップの街周辺の治安は彼ら『明けの剣』によって保たれていると言っても過言ではないらしい。
「もうひと組のB級パーティーはそこまで活躍していないんですか?三人パーティーですよね」
僕は尾行の下手くそな奴らを思い出し、メリル嬢に問いかける。
「よくご存知ですね……。彼らはその、問題児と言いますか……悪い子では無いんですけど」
歯切れの悪い返答から、それなりの問題児である事を察した僕はそれ以上聞くことをやめた。
関わらないで済むならその方がいい。既に僕は冒険者ギルド全体に目を付けられているのだから、わざわざ自分から問題児に関わりに行く気なんて無い。
「ご安心を、僕はメリルさんを困らせる様な真似はしませんから」
「わかりました。一応忠告しておきますが、彼らは転生者のパーティーです。どこの国に置いても転生者は女神の遣いとされ、我々は無下に扱うことは出来ないんです」
だから何かあっても簡単に助けることは出来ないと言いたいのだろう。
僕は頷き、どうせ街の周辺を見て周るなら、と簡単な木の実の採取依頼を見繕ってもらい冒険者ギルドを出た。
木の実の特徴が書かれた依頼書は僕の手に握られたままで、剣も無ければ服もボロい。
出掛ける前に攻めてポッケのある服と、暴力沙汰とは一切無縁だった僕でも扱える武器が欲しい。
ベルクさんから貰った地図を挟んでいたズボンから取り出し、先ほど通り過ぎた武具屋を次の目的地にして歩き出す。
もちろんギルドから出てきた僕に気付いた尾行三人組も一緒にね。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
武具屋を出た僕は黒いファー付きのコートと少し小振りの片刃の剣に心を躍らせていた。
店に入った時の僕は、他の冒険者を見習って鎧に長剣のスタイルにしようと考えていた。
だが現実はそんなに甘くなく、鎧は身に付けるのもひと苦労なうえ、長剣は重くてまともに振るうことも出来なかった。
その結果僕の買い物風景を見かねた店主が、闇夜以外では滅茶苦茶目立つからと売れ残っていた黒いファー付きのコートと、僕が振り回しても弱い魔物ならいけるだろうと言われた小振りの剣を見繕ってくれた。
ズボンと靴はお金が足りず買えなかったのだが、格好があまりにもダサくなってしまったため、店主が他の奴には内緒だぞ?とコーディネートを一式揃えてくれたのは非常にありがたかった。
ソシャゲのスタートダッシュ装備みたいな感じで滅茶苦茶な格好で過ごす事になったら目も当てられない。魔王の手先が変な格好して歩いてるとか噂になったら死ぬ。社会的に。
「それじゃ、木の実採取に行きますかね」
かくして僕はわざと大きな声で独り言を言って街の外へ出る。
街の周辺は安全と聞いたのだが、三人組の下手な尾行は街の外へ出ても続く様だった。
それならば次に僕が何をするか彼らに知らせておいた方が変なことはしないだろう、という考えだ。
誰かの指示で動いている訳では無さそうだが、十中八九面倒な目的で付けて来ているだろう。
適当に森の中で巻いてやろうと考え中だ。
しかし思ったより平和だな。もっと魔物が出たりするものだと思っていた。
目的の木の実が取れる森までは少し距離があり、僕は街道をのんびり歩いていた。
街中で見かけたのだがこの世界の乗り物は馬車が一般的な様で、街道は馬車に合わせてか道幅が広く、馬車が通る証拠に轍も出来ていた。
その街道を真っ直ぐ進めば森、振り返れば街、その他は辺り一面草原だ。
歩き始めて数十分、最初は珍しかった光景も変わり映えが無いからすぐに飽きた。
魔物も動物もこの辺りには居ないのか、武具屋で買った剣の出番もまだ無い。
「リーダー暇っすよぉ」
「バカッ、あんま大きな声出すなよアイカ」
「リーダーの方が声デカイっすよ」
この暇な道中で唯一の救いは、隠れる所も無いせいでバレバレの三人組が賑やかな事だろうか。
どうやら少年がパーティーリーダーらしく、アイカと呼ばれた小柄な女は終始少年をあしらいながらお喋りをしている。
長身の男は街を出てからも新聞らしきものを読んでおり、なぜかゴトウと名字で呼ばれていた。
まぁ、ゴトウって顔してるもんな、分かるぜ。
「でも本当に仲間にするっすか?ステータス見たっすけど、アタシらの役に立つ感じじゃ無かっ、モゴッムムゴッ!」
今アイカって奴、僕を仲間にするって言ったか?僕も転生者だから仲間に引き入れたいのだろうか?
もう完全に僕の耳に入ってしまったが、リーダーは本気で聞かれたくない様子でアイカの口を慌てて塞いだ。
「お、乙女の鼻に指刺さったっすよ!?」
「汚ねぇ……お前が不用意に口走るのが悪いんだろうが!」
「アタシの鼻は汚くないっす!」
焦り過ぎだろ少年。鼻に指はヤバいって。
しかもアイカさん、鼻に指刺さったこともう少し怒った方がいいんじゃないですかね?
そんな心底どうでもいい会話に呆れながら歩いていると、長身の男が隣に来た。
「煩くてすまない……」
「あー、なんつーかアンタも大変だな」
長身の男、ゴトウは謝っただけで戻って行く。
二人はギャーギャーと口喧嘩を続けているものだから、ゴトウの事など気付いてもいない。
メリル嬢が問題児だが悪い子じゃないと言うのも頷けるかな。
とりあえずゴトウ、もう尾行の意味が無いって気付いてるなら教えてやれよ。
僕は大きく溜息を吐きながらメリル嬢との約束を早速破ることにしたのだった。
本日はゲリラ投稿してしまいました。
今回みたいに不定期に投げることもあるかもしれません。
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