1話 ようこそ、異世界へ
3日間連続更新の2日目です。
基本お昼ごろに更新予定なのでよろしくお願いします。
「ほぉ、じゃあ兄ちゃんはそこで死んじまったのか。でもよぉ今こうして生きてんだろ?それに兄ちゃんをこの世界に連れてきた女って何なんだ?」
店を挙げての大宴会が始まって一時間。
酔い潰れる者、踊りだす者、もう僕の話に興味が無く仲間内で楽しく会話する者と酒場の中は混沌を極めつつあった。
もう僕の話を聞いてくれるのは正面に座るこの店主だけだ。
入口の方で緋色の鎧を着た男がすかした顔で壁にもたれ掛かっているのが気になるが、まぁいい。
ボルテージが最高潮に達する酒場で僕の話はまだまだ続く。
「それをこれから話そうじゃないか。あの女の正体をたっぷり語ってやるよ」
話しているうちにエールは既に三杯目、ちょっと酔いが回ってきたが問題は無い。
なんせココからが本番だ。この女の話を抜きに僕の異世界転生は語れない。
そう、あのクソ女神について話さないなんてありえないのだ。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
──身体が痛い。
なんてことは無く僕はスッキリと目覚めた。
暗くもなく明るくもない空間。例えるなら宇宙空間に放り出されたかの様な空間に僕は居た。
たしかバスが事故に会いトンネルから脱出しようとしていた筈だ。あともう少しで脱出できそうな所で金髪の女を見つけたんだ。それで僕は爆発に巻き込まれて重傷……いやあれは確実に死んでいた。
だがどういうことか、黒髪の短髪を触っても焦げている様子は無いし、ジム通いで少しついた筋肉にも怪我の一つも見当たらない。
鏡が見当たらないのでわからないが強烈な光でダメージを負った僕の黒い瞳も問題は無いだろう。
それで此処は一体何処なのか。どうして怪我をしていないのか。
後者はわからずじまいだが、前者の答えはすぐに解決した。
「おはよう。随分と良い夢でも見ていたのかな?全然起きないから死んじゃったかと思ったわ」
知ってる女の声がした。
「あ、ゴメンゴメン。私が殺したんだった」
「これはアンタの仕業か?まさかあの事故も……」
何が良い夢だ、最悪の悪夢だったしあれは紛れもない現実だろうと思ったがそれは口にしなかった。
目の前のブロンドの髪に白いシャツ、ジーパン姿の日本語が達者な女は笑顔をこちらに向け立っている。
僕と一緒に爆発に巻き込まれたはずだが、煤一つ付いていない。
立っているとは言ったが、僕とその女以外居ないこの空間は足元も天井も壁も無い空間だ。せめて床が見えたらいいのだが、おかげで平衡感覚が狂って仕方がない。
女は僕の問いに心底悲しそうなフリをして応える。
「やだなぁ、キミが新天地で気分一新して仕事に励めるようにするために必要な事だったのよ?知らないかしら、異世界転生って言うんだけど……」
聞き覚えのあるワードだった。弟に勧められて読んだネット小説のジャンルであり、トラックに跳ねられたり、不慮の事故に会うなどして死んでしまった人間が違う世界で人生をやり直す話だ。
「どうせ創作の妄想世界とでも考えてるんでしょ。ま、実際に異世界に行った人って元の世界に帰れないから妄想の産物なんて思われても仕方ないよね。みんなが知らないだけで異世界は沢山あるのよ?それぞれに異世界の神様が居て、『ああ~、貴方は死んでしまいましたが異世界で勇者となり世界を救ってくださいませんか!』って言うテンプレも完備してるし。もちろん私も異世界の女神で、今まで数多くの人間を私の世界に送ってきた一柱な訳。崇めてくれていいわよ」
随分と早口で説明してくれたところ悪いが、そう簡単に信じるほど僕は馬鹿じゃない。
それに崇める?僕を殺した張本人を?冗談じゃない。
仮にその話が本当だったとして何故僕を殺したのか。
──『イイ所紹介してあげる』
ああ……そうか、僕の発言が切っ掛けかよ。
「いや、僕が探していたのは再就職先であって新天地じゃない。何が異世界転生だ、僕一人転生させるためにあんな事故を起こしたのかお前は!」
「キミ一人?まさか。そんな非効率的な事する訳ないじゃない。あの事故にあった奴全員殺すつもりだったのよ?でもキミの世界っていうかキミの住んでる国、神様多過ぎ。私だけじゃキミ一人殺すのが精一杯で他の奴には干渉しきれなかったのよね」
明らかな殺意がそこにあった。
それって邪魔されなければもっと殺したかったって事だろ。狂ってやがる。
そして自称女神は僕を殺した事も事故を起こした事も悪いとなんざ思ってない。
「異世界転生ってさ、殺して連れてくるの禁忌なのよね。あくまで死んじゃった人が対象。でも好奇心には抗えないって言うか?やってみたくなっちゃった。面白そうだと思わない?女神に殺されて無理やり異世界転生させられた奴がどうなるのか。しかも転生する世界はもう他の転生者に救われちゃった後で使命とか何にも無いの」
この自称女神の言葉をもう理解したくなかった。
異世界は救われた後で、転生者を必要としていない。それなのに好奇心で人を殺して転生させてみたかったという身勝手な理由で僕を殺した?
冗談じゃない。偶々犠牲になったのは僕だけだが、そんな理由で何十人という人間を事故で死なせようとしたのかこの悪魔は。
「ふざけるなよ……何が女神だ、お前は最低最悪な悪魔じゃねぇか!」
僕の命は自称女神に弄ばれていた。
本当にこの女が異世界の女神ならば僕の全てがこいつに握られている。
そんな受け入れ難い事実に僕は絶望した。
「悪魔は酷いなぁ。でももう何言っても無駄、キミは私の玩具になりました。良かったね、再就職おめでとう!」
目は笑っちゃいないのに口調だけは底抜けに明るい。
どこから取り出したのか、ご丁寧にクラッカーまで鳴らして祝いの言葉を口にする。
何が再就職だ、そんなものを認めるわけにはいかない。
「ブッ殺す……。このクソ女神がよぉッ!」
僕は拳を振り上げクソ女神に向かって駆け出した。
だが、クソ女神はやれるもんならやってみろと言わんばかりのふてぶてしい態度を崩すことなく僕を見るだけ。
「残念ですが時間切れですぅ。キミにピッタリなスキルと職業をプレゼントしてあげるから頑張って私を楽しませてね。それと他の転生者と一緒じゃつまんないしぃ~、特別なアイテムもあげちゃうね!」
僕の拳がクソ女神の眼前に迫った瞬間、まるで時が止まったように体が動かなくなった。
耳元で囁くように、時折わざとらしく息を吹きかけ言いたいことだけ言ったクソ女神は、か細い指を僕の目の前にチラつかせる。
「う~ん、第三の目なんて付けたら魔族に見られちゃいそうだし、こっちの方がいいよね」
クソ女神は笑顔で僕の両眼を抉り抜いた。
「ぎやっぁぁぁぁぁぁあっっあぁぁ!!!!」
「煩いなぁ……。代わりの眼をあげるから叫ばないでよ、涎や鼻水まで出しちゃって汚い」
視界を失い、僕の絶叫とクソ女神の声、激痛なんて言葉では生易しいほどの痛みだけが僕を支配する中、クソ女神の痛みを堪えるような呻き声がかすかに聞こえた。
そしてクソ女神は僕の眼球があった窪みに何かを嵌め込み、続いてクソ女神が何か呪文のようなものを唱えると、僕の痛みが徐々に引いていく。
「はぁ、はぁ、何しやがった……。僕の、眼は……」
上手く呼吸が出来ないながらも、僕はクソ女神を睨みつける。
「私の綺麗な顔しっかり見えてるみたいね、その眼がプレゼント。世界に一つだけなんだから大切にしてね?」
そう言ったクソ女神の眼の色はブロンドの髪と似た金色から黒へと変わっている。
いつの間にか自由を取り戻した僕は辺りを、自分の身体を見回し、視界に異常が無い事を確かめる。
気味が悪いほど良く視えた。まるで自分の眼じゃないような……。
「まさかこの眼……」
「うん、交換しちゃった!」
相変わらず張り付けた様な笑顔で吐き気を催す様な台詞を吐いてくれる。
冗談じゃない、こんなクソ女神の眼が自分の眼と入れ替えられているなんて気持ちが悪いなんて言葉で片付けられない。
こんな眼直ぐに外さないと。
そう思って目の前に自分の指を持ってきて、硬直する。
「自分で眼を抉れる?ねぇ、あんなに叫んでたのに。あんなに痛い思いしたのに。それを自分でもう一回出来るのかな?それにキミの眼は私が持ってるよ、先に私の眼から抉らないとね?」
クソ女神は嘲笑う。まるで玩具をねだる子供をあやすように僕に声を掛けながら。
確かにあの痛みを味わうのはキツイ。キツイなんてもんじゃない、耐えられる気がしない。それにクソ女神の使った呪文の様なものがなければ眼を取り返した所で視えるようにはならないだろう。
冷静になれ。
僕は無言でクソ女神を睨みつける。
「これでキミが何かを諦めたのは二度目だね。あと何回キミは諦めて諦めて諦め続けるのか私は楽しみだよ」
そう煽るクソ女神の顔を眼に焼き付ける。
絶対に復讐してやると心に誓う。
その言葉を最後に僕の意識はプッツリと途絶えた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
次に目覚めた時は酷い倦怠感で直ぐに身体を動かすことが出来なかった。
うっすらと目を開けると木製の天井と吊り下げられたランプが確認できる。
手足を動かす気にはなれなかったので首だけ左右に動かすと、左側はレンガの様な壁で右側は小さなテーブルと椅子が一組に窓と扉が一つずつある。
簡易的な休憩室の様な、少なくとも近代的な日本の病院では無かった。
「ようやく異世界にご到着って訳か……」
声に出してようやく今までの事がすべて事実であることを再認識した僕は、渋々ながら起き上がる。
フカフカとは言い難かったが快適な寝心地のベッドを下りた僕は、窓に近づき覗き込む。
「街、か。ちょっと奥に壁が見えるな。あれは冒険者ってやつかな?」
まるでゲームの様な洋風の街並みに、町全体を囲っているのかそれなりの高さの壁もある。
中でも目を引いたのは大通りであろう道を行く人の存在だ。
重厚な鎧や魔法使いの様なコートを羽織る者たちの背や腰には剣やら杖やらが見受けられた。
気持ちを切り替えるなんて直ぐに出来るものじゃないが、見慣れぬ光景に僕は少なからず心が昂っているのが分かる。
まともな異世界転生をしたのなら、もっと素直にこの昂ぶりを受け入れられたのだろう。
まぁ、まともな異世界転生というのがどういうものか分からないが、少なくとも殺されて放り出される異世界転生はまともではない筈だ。
「しかしこのままって訳にはいかないな。まずは何からするか」
いくつかの異世界転生作品を読んだが、ある程度『異世界転生もの』のお約束というものがあったことを思い出す。
時期によってそのお約束も多少変わるものだが、僕が読んでいた時期はステータス画面やスキル画面、レベルが上がると貰えるポイントを割り振って成長するゲームの様なシステムが取り入れられていたことが多かったなと感じる。
「確かクソ女神もスキルやら職業やら言ってたな。試しにやってみるか」
僕を殺して眼も入れ替えて好き放題してくれた女神に貰った、というのが解せないが、職業やスキルという存在に年甲斐もなくワクワクしていた。
「ステータスオープン」
右手を前に突き出し、元居た世界じゃ恥ずかしくて口に出来ない言葉を堂々と言い放つ。
大抵の場合、これで目の前に数値や文字が書かれた画面が浮かぶものだが……。
「おかしいな、言葉が違うのか?スキルメニュー起動」
僕の予想とは裏腹に、目の前にメニュー画面の様なものが現れる気配は全くない。
言葉を変えてその後もいくつか試してみたのだが、まったく出なかった。
「これは冒険者の証みたいなものに記載されてるパターンかもな」
先ほど窓の外を見たときに居た冒険者の事を思い出した僕は、その可能性に賭けることにした。
冒険者ギルドの様な所でステータスが書かれたカードを貰う作品もあったし、この異世界もそういうパターンかもしれない。
「なんにせよこの異世界には沢山の転生者が居るみたいだしな。ということは魔王軍やら魔物やらも居るだろうし、冒険者ギルドくらいあるだろ」
もう一度窓の外を覗くと、先ほど見た者たちとは違う冒険者っぽい集団が目に入る。
世界が救われたといっても、帯剣しているのを見る限り脅威はあるわけだと予想する。
それならば勇者や英雄にはなれずとも日々の食い扶持くらいはきっと稼げるだろう。
冒険者ギルドっていうのは大抵依頼が出てて金が稼げるシステムになってるしな。
そんなことをしている内に全身の倦怠感は抜けていた。
僕は扉に向かい部屋の外に出ることを決め、歩き出す。
「なんだ、鏡があるじゃないか」
扉には小さいが鏡がついていたことに気が付いた僕はコホンと咳払いをして鏡で今の自分を確認する。
黒髪の短髪は変わりなし、髭も剃った時のまま。変わった所は黒かった両眼がクソ女神色になっている事。
「んでもって服が村人みたいな物に変わってるって事かな」
全然気にしていなかったが僕のブランド物のパーカーやら身に着けていたものは何一つ無かった。
意識するとゴワゴワした質感の服に不快感を感じるようになってしまったが仕方がない。
どうせ初期装備だろうし、仕事があるならさっさと稼いで着替えるまでだ。
「じゃ、行くとするか」
僕は扉を開け廊下に出ると、下に降りる階段を見つけゆっくりと降りて行く。
これが僕の異世界転生の始まりだった
明日の投稿はお昼の12時を予定しています!