騎乗と醜悪な悪意
「では、今日から魔大陸に行くことになる。」
日が登り、朝食を食べ終えた俺らは運動場に呼ばれ、教官でありこの国の騎士団長のハインツが取り仕切る。
ハインツは体の筋肉が丸太のように太く、顔もゴリラのように厳ついがその闘い方は慎重で相手の弱点を突きつけていくという方法を取る技巧派だ。
実際、俺ら総出でかかっても全員あっさりと負けたしな。チート染みた能力を持っていても技術が素人なら意味がない、ということの証明にもなった。
因みに魔大陸とはアンタレス大陸の別名だ。
「今回、ペガサスに乗っていくので二人でペアを作るように。」
そう言ってハインツは後ろに下がり、俺たちはざわめきだす。
ペガサスとはこの世界の魔法生物と呼ばれる魔力を行使することが出来る人以外の生物ある。基本的に魔法生物は通常の生物よりも魔力が多く、高い。
今回乗るペガサスは基本的に温厚で俺たちも何度か乗ったことがある。この世界に来てはじめての訓練はペガサスや馬に乗ることだったし、これをするためか。
因みに、魔力とは俺らの生命エネルギーらしく、使えば魔力が回復するまで傷の治りが遅くなるらしい。
「ねぇ、蝴蝶さん。僕と一緒に乗らない?」
「…………。」
「俺様と乗れよ!」
「……白と乗る。」
向こうでクソイケメンの瞬とクズ野郎の山河たちが蝴蝶を誘うが、あっさりと断られて蝴蝶は俺の方に向かって歩いてくる。
俺としては一人でも別に構わないけどさ……人の事を言えた立場ではないけど、友達付き合いちゃんとしようと。
「白、一緒に乗ろ?」
「……借りは返したぞ。」
「ありがとう。」
蝴蝶は少し口元を綻ばせ、俺の背中に抱きついてくる。。
おいおい、いじめられっ子との関係を疑われるような行動をされると……お前までいじめられるぞ。
俺はそれを望まない。けど、受けてしまった恩はちゃんと答えないといけない、いやはや、これは面倒なことになりそうだ。実際に山河たちがこっちを憎たらしそうに見ているし、瞬は……他の人とペアを作っているからいっか。
「よし、それでは乗り場に行くぞ。」
ハインツの言葉と共に俺たちは歩きだす。
さて、俺はどうしようか。
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「では、乗れ!」
ハインツの言葉と共に俺らはそれぞれのペガサスの背中に乗る。俺は前に乗り手綱を握り、蝴蝶は後ろに乗り体に抱きつく。
これはまあ普通なのだが……おかしいな、他の奴等から殺意のこもった視線を浴びている気がする。まぁ、蝴蝶は見た目も綺麗だしみんなに人気だし、当然か。
「てか、蝴蝶。俺の背中に胸を押し付けるのは止めてくれ。」
「うん……。」
蝴蝶は少ししょんぼりしたような顔をしながら体を少し起こす。
背中から強く押されると態勢を崩して上手く飛ばすことが出来ないからな。
「では、行くぞ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
ハインツを先頭に俺たちは大空に飛び立つ。
体を風が掠め、高度が高くなったため肌寒く感じるが俺はある程度のところで上昇を止める。そして団長たちの後を追う。
これは飛行機が速度を下げずに飛ぶのと同じで最適な高さを飛び、ペガサスや俺たちに対する負担を軽減させる目的がある。
「ねぇ、白。」
「どうかしたのか、蝴蝶。」
「私たちってどこか似ているような気がする。見た目だけじゃなくて……何て言えば良いのかわからないものだけど……。」
高度かま安定して飛んでいるなか、余裕が出てきたのか蝴蝶が話しかけてきた。
似ている、か……。確か十三代が月読、十四代が白鈴の名字だったな。よくよく考えてみれば蝴蝶はともかく俺の月読はかなり珍しい名字だしな。
「俺には分からん。けど、大切なものだからそっとしておくのが大切だと思う。」
「ありが、とう……。」
感謝の言葉共に蝴蝶はまた俺の背中に胸を押し付けてくる。
こらっ、止めろっ、体勢が崩れるから止めてくれー!
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「くそっ!」
俺はペガサスの腹を蹴り飛ばしながら悪態をつく。
何で俺じゃないんだ!?なんであんな人以下のゴミとあの蝴蝶が一緒にいるんだ!?
俺のどこが不服なんだ!?俺はあの男の何よりも優れているんだぞ!?なのに何であの男を好いていやがるんだ!?
「なあ……山河……殺らねぇか?」
「分かってる、あいつが蝴蝶さんから離れたら……すぐにでも。」