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銅鏡と『仙』

「……ここは?」

俺は気がついたら真っ白な世界にいた。

白く、どこまでも続く世界。その中で一つだけ、奇妙な物があった。

それは身の丈以上の大きさの銅鏡。盤面には緻密な彫刻がされており、七人の乙女を巻く一匹の龍が彫られていた。

本当に、ここはどこだ?

「ここは運命を越えた先です。」

銅鏡から物静かな声と共に一人の女性が歩んできた。

スタイルの良い体は俺と同じ位、桜色の髪を足につくほど伸ばし、縦に割れた瞳孔を持つ赤い目には興味を持つ感情が現れてる。

そして、何よりも特徴的なのは『角』だ。桜色の髪を突き抜けて額に二本の白い角を生やしていた。

こいつ……見た目から見ても人間じゃない。けど、どこか俺と似ている気配がする。……何でだ?

「星には運命が輪廻し、そのなかで人々は生きています。ここは運命の外側の世界です。貴方がこの地に来たというのなら貴方は運命を越えたと言うことです。」

「あの……そんなことしたことはないのだが……。」

「……なるほど、産まれながら運命の外の存在でしたか。(何かしらの影響で門が開いた?もしくは漂流してきたの?)」

小声で何かを呟いた後、女性はこちらを向く。

……殺気を僅かに放ってる……。いつ攻撃してきてもおかしくない。

「なら、この銅鏡に触れてください。そうすれば貴方は元の世界に戻れます。」

「あんたは?」

「私も元の世界に戻ります……あぁ、それと。」

銅鏡に触れようと歩いていた時、女性は少し手を構える。

殺気が一段と増幅した。明確な敵意がある。警戒するか。

「運命を越えるには何かを糧にします。貴方はそれをせずにここに来た、つまりはこの先の運命に運命を越えるきっかけが有ると言うことです。もし、越えたのなら……貴方は怪物、または『仙』に至ることとなります。」

「……分かった、注意する。」

俺は久々に笑みを浮かべ、銅鏡に触れる。

すると、意識が遠退き意識が暗転する。


=======

「……戻りましたか。」

私は元の世界に戻った青年を確認する。

これでいい。運命の檻の中に入ると言うことは運命に守られているということ。そこには相応の幸せがあるということ。

この世界に来る、つまりは運命の外に来ると言うことはその幸せを放棄すると言うこと。

それは成してはならない。……かつての私のように。

「桜の仙、何故あやつを戻した。」

「たく……あいつが檻の中の運命は『仙』に至らなければ悲惨の一言で終わっちまう。それを言わないのか?」

古風なゴスロリの服を着た幼い少女とギャンブラー風の服を着た無精髭とサングラスを着けた男がこちらに歩いてきた。

この者たちもあの『仙』に至る存在に興味を持ちましたか。桃源郷で修羅となった者たちにも伝えなければ。

「……構いませんよ書の仙、運の仙。他のものたちに伝えて下さい。……ここに、新たな輪廻が生まれたことを。」


―――そして、おめでとう。君の苦難の道が始まる。


=========

「……ここは。」

目を開けると月明かりと石造りの天井が見えた。

硬いベッドの感触と馬小屋に近いから匂う獣臭から察するに俺の部屋か。

他の奴等は王城の方で過ごしているが俺はEランク勇者と言うことがあって兵士たちと同じ寄宿舎で泊まっている。

「……?」

動こうとすると何か乗っている。

……蝴蝶だ。蝴蝶が涙の後を残しながら眠っていた。

……こいつを泣かせてしまったのか、俺は。全く、俺は何をしているのだか。唯一の友達を泣かせるとか、自分を恨みたくなるぜ。

よく見れば手を見れば包帯を巻かれ、傷を隠している。多分、蝴蝶が巻いてくれたんだろう。

ホント、こいつはいい奴だ。俺以外に友達がいないのは勿体無い。こいつには幸せになってほしいな。

「……ちょっと、出掛けるか。」

俺は蝴蝶をベッドに寝かせた後、扉を開けて外に出る。

夜の王城探索といきますか。


========

「……凄いな。」

夜、静かな王城に月明かりに照らされた俺の影が写る。

王城の中は西洋のノイシュヴァンシュタイン城のような豪華な内装になっている。

俺がいるニブルヘルト王国は『オリオン大陸』の中で最大の国土を持っており、四千年の歴史を持つ最古の国でもある。貴族と王族という国家体制となっていて王族は神の子孫という伝説があり、その威光は絶対としている。所謂、王権神授説というやつだ。

数年前までは内部腐敗が進行し、賄賂や違法行為が横行していたが、現国王になってから行っていた者たちを粛清し、有能な者にそのポストを与えている。

土地も肥沃で王国の南側では農業が盛んでこの国の主食は黒パンである。また、臨海部や他国との国境線に面した場所は他国との交易が盛んに行われている。

「とっ……。」

俺は見回りの兵士たちの気配と足音を察知して物陰に身を隠す。

兵士たちに見つかったら一貫の終わりだからな、慎重に行かないとな。

「……ん?ここ、隠し扉になっているな。」

物陰の壁を押すと動いて書庫が現れる。

ここは……一体何なんだ?

「……禁書庫か。」

中に入り、扉を閉めて中の物を確認する。

中にあるのはこの国の緻密な地図に防衛戦用の城、過去数百年の星の運行図、果ては龍脈と呼ばれるこの星の魔力の流れの書かれた地図まであった。

もしこれを国外に持ち出したら国家存亡の危機になるのでは?

あ、もしかしてこの中に勇者に関する情報でもあるのでは?勇者の情報もかなり機密っぽさそうだし。


「かかっ、この禁書庫に入るとは、お主、中々良い目をしている。」


禁書庫の奥から幼い声が聞こえたと思ったら中央に置かれた机の上に幼女がいた。

古風な中華系の服を身に纏い、ツインテールにした茶色の髪を振り乱す。だが、その雰囲気はどこか超常の者を思い起こす。

「……何者だ?」

「私はフミ、ただの本好きだ。どれ、お主が必要としている本を探して見せよう。」


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