逆鱗
「ふぅ……。」
「疲れたね、白。」
「全くだ。」
俺と蝴蝶は模擬戦用の広場の隅にある木陰で休む。
俺たちがこの世界……『ラタトクス』に召喚されて一ヶ月が過ぎようとしていた。
俺たちは午前中に座学、午後に実践形式での戦闘訓練を行う、というのをほぼ毎日続ける事となっている。
衣食住は保証して貰えてるし、来たときのような怒りはもう薄れた。だが、この世界に来てから新たなヒエラルキーが生まれ始めた。
それは『勇者のランク』である。
Sランクの瞬と蝴蝶を頂点とし、A、B、C、Dと格差が生まれてきたのだ。
俺は最初からヒエラルキーの最底辺だから何とも思わないが元々のヒエラルキーで上にいた奴らが下になればそれはそれは反発がおきる。
そのため、今では『S.Aランク派閥』と『B.Cランク派閥』という二つの派閥ができてしまった。
……最も、俺はそのどちらにも所属してないけど。
「おい、白髪病。」
「……どうかしたのか?」
「戦闘訓練に付き合えよ。」
下衆な笑みを浮かべた山河が俺に話しかけてきた。
こいつはこの世界ではAランクらしく、前よりも横暴な態度が目立ち始めたが、誰にも止めることが出来なくなってしまっている。
無論、狩理も風武もAランクにだったらしく、この世界の住人に手をだしているらしい。
「……いいよ。俺、弱いごふぉ!?」
丁寧な口調で断りを入れようとした瞬間、腹に蹴りを打ち込まれる。
ぐっ……痛ぇ……。この世界に来てからこいつ、身体能力が上がっていやがる。
「あ?てめぇ、Aランクの俺様に逆らうのか?」
「止めて!」
山河は怒りに顔を歪ませながら俺の腹を蹴り続ける。
その様子を見かねた蝴蝶は悲痛そうな顔で俺と山河の間に入る。
「あ?なんでここにSランクのお前がいるんだよ。てか、何でそんなゴミを構うんだよ。」
「私の……友達だから……!」
「ッ!」
今にでも泣きそうな顔をしている蝴蝶を山河は下品な笑みを浮かべる。
あの表情は……本当に下衆の考えが浮かんだ時の顔だ……!
「へぇ……それが友達ねぇ……。」
「うん……!」
「なら、それの代価として……お前、俺様のペットになれ。そうすればいじめねぇよ。」
「ッ!!」
……あ?ペット?つまり、人間以下になれってことか?俺と対等に話しかけてきたくれた存在を?
―――――――ふざけんな!!
「……屑が。」
「へっ……?ぐぺっ!?」
俺は起き上がり、山河の顔を掴んで木に顔を叩きつける。
俺を人として見てくれたのは蝴蝶だけだった。それをペットに、人間以下の家畜になれだと!?俺のことなら別にどうでもいい。慣れているからな。けどな!蝴蝶を汚すことだけは許すことはできねぇ!!
「こっ……のお……!」
「死ね!死ね!死ねぇ!」
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も顔を木に叩きつける。
反抗の意志がありそうに見えれば叩きつける。抵抗しようとすれば叩きつける。痛みで気絶させ、痛みで起こし、気絶させ、起こし、気絶させ、起こしを繰り返す。
「【衝撃突っ張り】!」
「邪魔を……するな!」
空気の張り手を放ってきた風武に向けてぼろ雑巾のような醜悪な顔になった山河を楯にする。
お前も……同罪だ!
「ぐぺっ!?」
「な、山河君!?」
「逃がすと思うな!!」
「ぐぎゅ!?」
友達を楯にされて目を見開いてる風武に向けて山河を円盤投げの要領で投げつける。
避けれなかった風武に山河は直撃し、そのまま一緒に倒れ、風武の上に馬乗りになって山河の頭で風武の顔を殴り付ける。
こんな力、初めてだ……!これが火事場の馬鹿力って奴か?でも、そんなことはどうでもいい。
こいつを、殴れれば、後はどうでもいい。
「ひっ、風武君!?」
「な、なんだありゃ!?」
「Aランクの勇者の二人が……Eランクの勇者に圧倒されてる!?」
俺たちの騒動に気がついた奴らが驚きの声を上げているがそんなことは関係ない。止める勇気はない。
俺に対するいじめを黙認し、協力していた奴等だ、これにも関与できる度胸なんてねぇだろうが。
「ゆ……許し……て……。」
「俺がどれだけ苦しんできたか分かって言っているのか!!お前らのようなゴミが死んでいないことなんて許せねぇ!死ね!死ね!死ね!死んでしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
許しを請う風武の顔を今度は殴り付ける。
山河の頭は既にボロボロ、回復魔法でも使わないと死んでしまうため、適当に放り投げた。
勝手に死んでろ。
「も、もう止めて白君……!」
「……分かった。」
両手の皮膚が破れ、朱色の肉が見え始めたぐらいに蝴蝶が止めに入り、俺は手を止める。
そして、その背後で山河が怒りに顔を歪ませながら槍を突きだす格好をしているのを見えた。
不味い!
「くそがぁ!死ねよ、白髪病があぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「蝴蝶!」
俺は蝴蝶を押し退けて槍に肩を刺される。
こいつ、蝴蝶ごと俺を刺そうとしたな?この結果から分かるが、こいつ、本気で人を殺そうとした。それに、またこいつは俺と対等の存在を殺そうとした。許されるとは思うな……!
「ぐ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なっ!?ぐきょ!?」
肩に槍を突き刺されたまま疾走し、朱色の肉が見える拳で顔を殴り付ける。
肩が焼けるように痛い。けど、こいつだけは……!絶対に、許さない!
「も、もう止めろ!」
「……瞬か。」
殴りかかろうとしたところで鎧姿よ瞬に止められる。
ちっ、こいつに今の状況を説明したところで意味は……ない……だろ……
「あ……れ……?」
緊張の糸が途切れたのか、俺は倒れこむ。
体が重……い、眠た……い……。
「白君!?」
「すま……ない……少し、眠る。」
俺はそのまま気を失った。