異界転移
「……はぁ。」
俺は深いため息をつきながら憂鬱そうに学校に向かう。
俺の名前は月読 白。高校生一年であり、いじめられっ子だ。特徴を言うのなら病的なまでの白髪と赤い目ぐらいで後は他の奴らとそう変わらない。
いじめられる理由?そんなもの知らん。理解するつもりもない。まぁ、親はどっちも俺をおいてどっかに行ってしまったし、この見た目は黒髪黒目の奴等から見たら異端的にみられるのだろう。
「おい、『白髪病』が来たぞ!」
「おいおい、大丈夫かよ!」
「そのまま消えちまったほうがいいんじゃねぇか?」
「「「はははははははははははははははっ!」」」
服装をチャラチャラした物に改造した男とガリガリの学ランを着た男と制服がはち切れそうな程の巨漢の男が俺を見た瞬間罵倒を始める。
赤く染めた髪に色つきサングラスをかけた男は卯月 山河。暴力的な行動と横暴な態度が特徴のいじめっ子の筆頭頭。
ガリガリで分厚い黒の丸眼鏡をかけたのは狩理 勉。特に俺と話さないけど何故か陰湿な行動ばかりする。
相撲取りのようなデブは巨寒 風武。相撲部に所属していてこの中で最も筋力がある。
この三人は俺の幼なじみでありながら何故かいじめをする奴等である。しかも、俺をいじめるためだけに俺と同じ高校に進学するほどの執着心がある屑だ。
因みに、『白髪病』は俺のあだ名みたいなものである。
「…………。」
「チッ、立場が分かってないみたいだなおい!」
「……………。」
「なら分からせてやるよ!」
山河の罵声を無視して歩いていると後ろから凄まじい殺気を感じて体を右に傾ける。
すると、俺の頬を掠めて拳大の石が後ろから飛んできた。
全く、長年いじめられ続けてきたせいか殺気や悪意に異常なまで敏感になってしまったよ。こんな技術、この世の中じゃいらないのに。
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「ちわーす。」
『おい、白髪病が来たぞ。』
『移る移る。』
「………………。」
俺が挨拶をして中に入るとクラスメイトの多くが俺を煙たそうに避け、汚物でも見るような目で俺を見ながら陰口を言い合う。
全く……自分の身が可愛いと言ってもあの屑どもの考えに無理矢理賛同する必要なんてないのに。
最も、抵抗する行動をしない俺も悪いのだろうが……大人ほど信用出来ない者は知らない。抵抗したところで何の意味も無いのなら抵抗しないのが効率的だ。
「よっと。」
机がバケツの中身をぶちまけたかのように濡らされ、その上に菊の花が入った花瓶が置かれていたので適当に後ろに置いて持ってきておいた乾いた雑巾で机を拭く。
こっちが何年地獄みたいないじめられっ子として生きてきたのか分かってるのか?こんぐらいの事なら小学生の頃に既にやられているから対策ぐらいは出来ているんだよ。
「おい、てめぇどうゆうことだ!!」
拭いている途中にやって来た山河がへらへらとした笑いを一瞬で真っ赤な顔に変えて近くの机を蹴り飛ばし、近くにいた男子生徒の胸ぐらを掴む。
この反応から見ても分かるのだが山河が他のクラスメイトにメールか何かで指示を出しているわけだ。しかも、毎日違う奴に指示を出し、内容も変えているらしい。
「てめぇ、よくもまあしくじったなおい……!」
「ひっ、ひい!許して、それだけは許して!」
「許すわけねぇだろゴミがぁ!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
胸ぐらを掴まれた恐怖に顔を歪ませる男子生徒を床に振り落とすと風武がその上にジャンプして腹に乗る。
男子生徒は推定体重百キロ+落下の衝撃が腹に伝わり、歪んだ顔から吐瀉物を撒き散らせて失神する。
全く……毎日吐瀉物を撒き散らすなよ。片付けるのは俺なんだぞ?止めてもらいたいね。
「次の日の奴はしくじるんじゃねぇぞ!」
「そうでやんす!私たちの命令に従うやんす!」
風武や勉が失神した男子生徒の腹を蹴りつけながら満面の笑みをしているなか、俺がそそくさと吐瀉物を片付ける。
本当に……こいつら滅びないかな?俺が苦しまないからこいつらが怒りの捌け口にクラスメイトを傷つけていると考えるとよい気分がしない。最も、抵抗しない奴が悪いのだけどな。
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「えー、この文はこうしてこうで」
あのあと、SHRが終わり一時間目の授業である国語の古典を受ける。
先生は城見 萩という若い男の先生だ。明るく生徒に真摯に向き合っている上顔が整っているから生徒たちに人気だ。
……最も、俺のような言葉にならない悲鳴を上げている者に気づかない、上っ面ばかりしか見ていないダメ教師の典型例みたいなものだけど。
「……この部分、どう言うこと?」
「えっと、この部分はこうやってこうするんだ。」
俺は隣の席の白鈴 蝴蝶に尋ねられ、問題を一緒に解く。
白鈴は学校内で一二を争う程の美少女で俺と同じ白い髪をショートボブにし、片目を髪をおろして赤い右目を隠し、水色の左目を見せている。
整った美しい顔立ちに豊満で整い、丁度いい大きさの胸、女性にしては背が高くて長い脚、あまり人と関わらず窓を見る神秘的な姿、確かにモテるだろうな。
最も、俺はどうでもいいけど。さっさと三年過ぎないかだけしか考えていないし。
「……ん?」
「……どうかしたの?」
「いや、変な気配がしたが……気のせいか?」
ふと、体をゾクッと襲われるような寒気を感じて辺りを見渡すが何もない。
やっぱり、ただの気のせいか?白鈴も感じていないし……。
だが、その杞憂は現実になった。
「な、なんだこれは!?」
「えっ、うそ、何っ!?」
「なんだこりゃあ!?」
突如、床が光りだし幾何学模様の陣が写し出される。まるで、魔法陣みたいに。
「くっ……!!」
床の魔法陣は更に光り始め、俺たちを呑み込む。
―――――この日、とある高校の生徒と教師は謎の失踪を遂げた。