のどかな日常
「ふわぁ……ん……。くぅ~!」
温かい陽射しの中、まだ眠い目を擦りつつ僕は体を伸ばす。
小高く開けた丘には天然の芝のベッド、ここは僕のお気に入りの場所だ。
軽く一休みのつもりが、すっかり寝過ごしてしまった。
僕の名前はアルミッド・カーター、先月に誕生日を迎えて16才になったばかり、村ではアルって呼ばれてる。
でも……僕の本当の名前は元木はじめ。
都内に住む中学二年生だったけど、こっちに異世界転生してきた。
しゃっくりを100回やったら本当に死ぬのか。
友達と試していたら100回目のしゃっくりで心筋梗塞になり、倒れてそのまま亡くなった。
「暇だなぁ……ご飯はまだかな」
少し先に見える村の風景に目を飛ばした。
何の変哲もないのどかな村。
目に映るのは耕作に励む農夫と、目玉である製粉用の風車、あとは延々に続く畑。
この村の周囲は広大な田園地帯で、耕地は麦栽培によって占められている。
牛、豚などの畜産に長けた農家もあることで備蓄は余るほどあり、交易に乏しくとも自主産業で村はまかなえている。
ただし他村との交流が無いため話し相手は身内ばかりで、浮いた話もなく今年は豊作だとか鶏を締めようだとかくらい。
自然の恵み豊かな農村だけれど娯楽には乏しい。
広がる景色は田舎の情景そのものだ。
大人達は各々の日課を果たしたら、エール酒を煽ることで生活に充足感を得てる。
僕にお酒の良さは分からない。あんなの苦くて不味いだけだ。
無造作にあくびをしていると、こちらに向かって手を振る人影が遠目に留まる。
「アル~!ごはん~!」
遠くで何かを訴えながら、こちらの丘に向かって来る人物から視線をそらす。僕は姿勢を変えずにしばらく到着を待った。
そして丘を登り、まっすぐ隣に来た彼女はペタンと座り込み、じぃっとこちらの顔を覗いてくる。
「なにしてるの?」
「ん~……、一番楽できる姿勢を探してる。」
にまーっと。屈託の無い笑みを浮かべてから、上体を投げ出すように飛び込んでくる。
「いっしょにやる!」
「ああ、分かったからはしゃぐな」
人の体の上で転げ回る無邪気な妖精の頭を撫でる。
シルキーベージュの髪色で毛先がくるくると纏まっており、触れると撫で心地が良い。
洒落っ気のない質素なシャツとスカートを身に着けていて、普段から機能性と耐久性に優れた服を好んでいる。
そして、ぱちくりと見開いた瞳は無垢に満ちた輝きを放つ。
この子の名前はシャール・クリフソン。僕より二つ下の14才。
一緒にこの村で育った幼なじみで、僕によくなついている。
「アルって、好きな人いるの?」
「別に、いないけど」
そっかぁと、思案気に空を眺める少女。大方の返答は予想がつく。
「わかった……じゃあ、わたしがアルのお嫁さんになってあげる!」
「はいはい、分かったから」
「ほんと?約束だからね!」
満面の笑みで嬉しそうに上体を揺らしてくれる。
この幾度目かのやり取りも慣れたもので、幼い頃から婚姻の約束を何度も取り付けさせられている。
「それで、何か言いに来たんじゃなかった?」
「……そうだ、ごはんできたよ!」
「ん、行くか」
一息ついたあとに、寄りかかっていたシャールを無造作に転がしてどかす。
そのまま二回ほど転がって、少女はむくりと起き上がった。
半ば不当な扱いに腹を立てているようで、不満の色が顔から滲み出ている。
「ちょっと、突然なにするのよ」
「い、痛ぇ!」
お構いなしに飛んでくる一撃が僕の肩に炸裂し、軽快な音が見事に響く。
幼い頃から農家のお手伝いを続けた甲斐もあってか、華奢な容姿からは想像できない威力に肝が冷える。
「ごめんって!悪かった」
弁解するために慌てて起き上がった僕は、むくれっ面のシャールを制して、ばつの悪そうに手を差し伸べた。
「反省してよね。い~い?」
先程の様相から一転、全身を喜色で滲ませながら手を受けとる少女。
どうやら機嫌を直してくれたようで、その様子に胸を撫で下す。
そして僕たちは手を繋いだまま、村の郊外にあるシャールの自宅へ向かうのだった。
自分の文章力上達と、構成力の勉強を兼ねております。
とある助言を頂いたことで考えた作品です。
まだ全体の流れは決めていませんが「桃太郎」や「オズの魔法使い」のようにしたいなと思っています。
更新頻度は遅いですが、ひとまずは完結を目指します。
意見、叱責、改善点は随時募集中です。
遠慮なくもの申して貰えるとすごく嬉しいです。