とある記憶の記録:1
青空を自由に飛ぶ真っ白な鳥。
透明なガラスを間に挟んで、その鳥を眺めていた。
眩しい日差しを浴びながら飛ぶその姿は、太陽にも負けないほど、白く輝いて見えた。
毎日毎日、授業の内容が違うだけで、講師の話を聞いて、用意された問題を解いていくだけの繰り返しだった。
学園には友達と呼べる者もいなかったからか、退屈で苦しいという思いしか知らなかった。
何も話さない、無表情な私。
誰も近づきたがろうとしないし、むしろ近づかれてもめんどくさいだけだと思っている。
家もそうだ。
両親は仲が悪く、毎日喧嘩していた。
そしてとうとう先日、母が出ていった。
父は私を置いて、というよりは、面倒事を押し付けられてイライラしていた。
飲んだくれの日々で、いきなり殴られることなんてしょっちゅうある。
耐えて耐えて、そして意識がなくなるかのように眠る日々。
見える所には意図的に殴られないようにした。
痣があるまま学園に行ったらいじめの標的になりかねないから。
こうして私の居場所は、学園にも、家庭にもなかった。
私は思った。
この世界は理不尽で出来ているのでは無いのかと。
生まれはどうも出来ない。
自分で選ぶことも出来ないし、なんせ最初だけは愛着をもって産んでくれたのだ。
生まれに文句を言うなど、命をくれた『神様』に失礼だと思っている。
だから私は家庭については何も言わない。
だけど、学園は違う。
これは完全に理不尽にまみれていると思う。
正義をふりかざす陰キャと、悪の道を進む陽キャ。
普通は正義をふりかざす方が物語的に優位な立場になる。
例えばそう、とあるアクション漫画の主人公と悪役みたいな感じだ。
だが、それは陽キャに限る。
陰キャが主人公のアクション漫画などありはしない。
物語と現実は違う。
物語の正義の主人公と同じ事をするとしよう。
正義の陰キャは、悪の陽キャに正しい事を教えようとするが、悪の陽キャは聞く耳を持たないだろう。
ここまでは物語と同じだ。
だが、物語は大抵物理的に解決するイベントが発生する。
しかしそれは現実でやったら大事になるであろう。
でも、可能性は低いが、聞く耳を持ったとして、それでも最終的に苦しめられるのは自分だろう。
陽キャの厄介な所は情報網だ。
無意味な程に友達が多い陽キャは、何時何処で誰と繋がっているのか分からないし、不満をもてば誰彼構わず悪口を他の人に拡散する。
そしてそれが、思わぬ事態を引き起こす原因となる。
主人公が悪役を倒すことが定番のように。
陽キャが陰キャを精神的にも、そして身体的にも殺すことが出来る事も定番となっている。
この世は弱肉強食だと、上手くいったものだ。
陰キャは陽キャに狩られる運命にある。
これこそ、私が思う理不尽な点だ。
…何故、この世界は陽キャにやさしくて、陰キャに厳しい世界なのだろう。
明るくならなければいけないのか。
面白くないことにも、笑っていなきゃいけないのか。
何にしろ、ただひたすら思うのは。
「─陰キャにやさしい世界があればいいのに。」
ポソりと呟いた言葉は、授業の終わりのチャイム音と共にかき消されていった。