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天使と女神と。

長い階段を上り始めて、早くも五分くらいたったのではないだろうか。

それでも、目の前にはまだ階段が続いていた。

このペースでは頂上に着くまでに日が暮れてしまう。

下手したら明日の朝になっても頂上まで辿り着いていないかもしれない。

そう思い始め少しペースを上げる。

体力はそこそこある方だと思うが、階段ということもあってか歩いているより体力の消耗が激しい。

だが、この世界から元の世界へ戻るためには休んでいる暇などなかった。

一歩一歩進んでいく度に足取りは重くなっていくが、時は規則正しく、一定のリズムで進んでいく。

赤いカーペットの上を踏み、しばらく上り続けてやっと階段がひとまず途切れた。

休憩をはさんでからまた次の階段に上がろうと考え、階段に腰を下ろし周りを見渡すと、左右に石像があることに気がついた。

ユーキに言われたことを思い出し、そっと近づいてみる。

左の石像の目の前に来ると、石像の大きさは自分の身長を遥かに超えていた。

見上げるほどの高さがあり、迫力がある。

くまなくみると、人間がほんとに彫ったのか疑いたくなる程細かい部分まで再現されていた。

服の柄やシワ、髪など下から見るだけでも一本一本線がはいっていた。

目線を下にさげると、石像が乗ってある土台に名前らしきものが彫ってあった。

「…ユーキ?」

一瞬先程まで一緒にいた人物を思い浮かべるが、『唯の』と言っていたので別人だと考えた。

もう一度見上げると、何かキラキラとしたものがはめてあることに気がついた。

少し後ろに下がり確認してみると、どうやら瞳として宝石らしきものがはめられているらしい。

ユーキの瞳は、虹色に輝いていた。

光が差し込む度キラキラと眩しく輝く瞳は、オパールのようだった。

時間のことも気にせず、いつの間にかもう片方の石像へ向かっていた。

右の石像は先程のユーキの石像と同じく、見上げるほどの高さがあって細かく彫られており、また瞳にはキラキラとした金色の光が見えた。

名前もきちんと確認すると、ジュンと言う名前が彫られてある。

先程のユーキの瞳と違い、金色に輝くそれは、高貴な雰囲気をかもし出していた。

真面目な顔をするその天使は何処と無く面影を感じたが、なかなか思い出せず断念する。

なら、ユーキとジュン、この二人の天使の瞳として埋められている宝石はなにか意味があるのだろうか。

「ジュンの瞳は、一体なんの宝石で出来ているんだろう…?」

宝石の意味などがこの世界のヒントになるのだとしたら宝石の名前がわからないといけないのだか、宝石の名前など有名なものしか知らず、花のようにそれぞれ意味があるのかなど、知るはずもなかった。

分からないのなら考えても無駄だとすぐに思考を切りかえ、次の段にある石像を思い浮かべた。

この上にどんな新しい石像があるのか興味を持ちはじめ、疲れも忘れてそわそわしながら階段を上って行った。

また長い階段を上り、教会の中を照らす光が薄暗くなる頃、最初と比べて時間は一時間くらい早く着いたと思うが、正直言うとキツかった。

そもそも、これだけの段数、普通なら心折れても仕方ないきがする。

上る前から行くの止めたって誰も責めない程だよね?

心の中で愚痴りながらも、自然と足は石像へ向かっていた。

昼の頃とはまた別に、夜に見る石像は何故か少し不気味だった。

それでも、月明かりに照らされて輝く瞳は、少しだけ不気味さを緩和させてくれた。

早速石像をくまなく見ると、男天使よりも柄などの彫りが凄かった。

それは女天使はドレスを着ているからだと思うが、やはり男天使同様、装飾品などは細かく彫られていた。

瞳も確認して、ジュンと似ている色だなと思ったが、よく見たら黄色の宝石がはめられているようだった。

名前はユリーナと言うらしい。

反対側の石像に行くと、瞳は黒だった。

名前はルミーナと言うらしいが、じっと石像を眺めているとユリーナとの共通点を見つけた。

ユーキやジュンの服装は別だったが、ユリーナとルミーナの服装は同じなのだ。

レース生地の薄くて短いポンチョに透けた、シンプルなデザインのドレス。

だが、男性陣の服の装飾より断然繊細なレース部分のみならず、ドレス全体にまであしらわれている薄いレースまでも、丁寧に彫られている。

女性陣の服が統一されているのは彼女達の役割が近しいものなのか、それとも仕事着か、真相は分からないが頭が段々働かなくなり眠気が襲ってきた。

軽くあくびをしていると喉の乾きも思い出し、色々と今までの行動に後悔してきた。

「何やってんだ、俺…」

頭をかかえながら石像に背もたれ、そのままズルズルと地面に座る。

水分もろくに取れず、こっちに来てから飯も食わずにユーキの言う通り階段を上って石像を見ると言う謎の行動をし、なんかもう、何してるんだと自分でも思うほど自分の行動は軽率だった。

学園では成績優秀運動神経抜群、計画を立てて行動する完璧人間と言われてきた俺が、無計画でここまでやってしまうとは余程焦っていたようだ。

今更引き返せる段数でもなく、かといって無理して上に行こうとするなどそれこそ無謀であり。

そしたら、今夜ここで一晩過ごすしかないということになる。

野宿なんてした事がないから、正直言って怖いし眠れない気がする。

そう思ったが、膝を抱えて腕の中に顔を埋めると、案外すぐに眠りについていった。

******

教会の外、ファヴォーリ街は暗闇につつまれ、街頭が微かな光で暗闇を照らす、皆が寝静まる頃。

教会に、一筋の光があらわれる。

光り輝くそれは、ゆっくりと、眠りについているいつきを目指して階段を降りてくる。

いつきの側へ来ると、光の中から現れたのは女性の姿だった。

ふわりとしたドレスに身をつつみ、暖かな色の光を全身にまといながらいつきの頬に触れる。

すると、暑さで火照っていた頬が徐々に引いていった。

いつきは起きることも無く、女性の腕の中でぐっすりと眠って行った。

女性は拒むこと無く、ゆっくりと、いつきを抱きしめながら瞳を閉じる。

いつきの頭をゆっくりと撫でるその姿は、まるで迷子の子を慰める聖母のようだった。

******

─目を開けると、白い光が真っ先に飛び込んできた。

あまりの眩しさに目を細めるが、数秒後には慣れた。

頭も段々冴えてきて、冷たい石の床から起き上がる。

バキバキになっているであろう体をほぐそうと、腕を上に伸ばした─が。

「─?…痛く、ない?」

屈伸したり腕を横に伸ばしたり、後ろに仰け反ったりしても、どこも痛くなかった。

他の人はどうだか知らないが、自分は家のフローリングや硬い場所で寝ると体がバキバキになり、場所によっては痛くなる事だってあるのだ。

なのに。

「─まさか、ね。」

後ろにある女神像をちらりと見るが、すぐにそんなわけないと思い上の階段へと視線を移した。

「…上るか。」

流石にもう時間をかけて上るのは、体力的にも精神的にもキツかった。

少しの時間でも、一二段上れることを考えるとなおさら立ち止まってる時間が惜しく感じた。

昼の鐘が鳴る頃。

三段目の像へとつき、シュンとピアの二人の男天使の石像が並んであった。

細かく確認して違いや共通点を探し、瞳の宝石の色から名前を当てる。

シュンは青紫色の宝石、ピアは薄めの黄色の宝石だった。

服はやはり男天使はそれぞれ違うらしく、模様も複雑だったりとバラバラらしい。

特に変わったことは何も無く、確信が得られただけだった。

そのまますぐに最後の四段目へと向かい、階段を上りきった瞬間に膝が笑い始めた。

その場にペタンと座り、深呼吸して息を整え顔を上げる。

するとそこには、すぐ目の前の真ん中に二人の女の人の像があった。

今まで見てきた像は左右端の方に石像が一人ずつ置いてあったのだが、今目の前にいる二人の女の人の像は二人でひとつの大きな像になっており、真ん中に置いてあった。

後ろの真っ白の壁には幕が降ろされ、大きな炎の翼とそれに包まれた円球を囲む六つの交差する輪が描かれていた。

ゆっくりと、微かに痛む足を引きずりながら二人の石像の前へと移動する。

見上げると、あの本に書いてあった通りの女神、リディ・アンファーレがそこにいた。

リディが横座りして、何かを手に持ちながら傍で眠るもう一人の女の人の首にそれをかけていた。

それが気になりそばへ寄ると、薄いピンクのような、赤い色のような宝石の瞳をしたリディがその人を見つめて、微笑しながらも悲しそうな顔をしていた。

何故か、何処かで見たことがあるような気がしたが、思い出せずに終わり、諦めて今度は眠る人を見た。

その人は、瞳は閉じていて何色の宝石の瞳かは分からなかったが、整った顔をしていて、静かに眠るその姿はまるで死人のような眠りだった。

首にかけられているのは、細い立体のひし形の宝石らしきものがついているネックレスだった。

これがなんの意味を示しているのかわからないが、他にもなにかないかくまなく探す。

二人の石像は他とは全く違っていて、全て本物のようなつくりだった。

他とは明らかに違うと分かるほどの空気感や、この二人は一緒にいるべき存在だと思ったり、色々あるが、だが、何よりも、他と違う所は『生きている』みたいだった。

正面のほうに名前がほってあると思わしきプレートを見つける。

プレートを見ると、

リディ・アンファーレ

ポム・ピアーナ

〜目覚めぬ眠り〜

と書いてあった。

何処の石像にも書いていなかった作品名みたいなものが、ひとつの芸術品とでも言うかのように書かれてあった。

また視線を二人に戻し、じっと見つめる。

この石像に、どんな意味があるのかなんて、考えなくても何か奥深いものを感じ、リディを見つめる。

もう少しで思い出せそうなのに、思い出せない。

こんなにも似ているのに。似ているはずなのに。

分からない。

パズルのピースが一つかけているかのように、何か記憶の一部がかけているかのような感じがする。

なんで、なんで思い出せない。

だって、その姿が、あまりにも似ているんだ。

その悲しい瞳が、印象に残っていたはずなんだ。

なのに分からない。

なぁ、なんで分からないんだ?

知りたい、貴方の事が。

貴方が何を考えているのか。

貴方の見つめるその先に、何があるのか。

貴方は彼女に、何を思い、その瞳を向けているのか。

もし、叶うのならば。

今度こそ。

─俺に、貴方の手助けができたらいいのに。


「─っ?!」

一瞬、頭の中が真っ白になった。

先程まで何を考えていたのか、全く覚えていなかった。

だが、一瞬、ほんの一瞬だけ。

リディと重なった、とある一人の女の人。

一人の時に見せる、もう一人の、いや、本当の彼女。

寂しい、悲しい、色んなマイナスな感情の顔をした、普段明るく見える彼女には似合わない顔。

…なんで、彼女が出てくるんだ?

俺は─俺、は…

あの時、本当は彼女に─

考えるよりも先に、無意識に、リディのネックレスに添える手に自分の手を重ねた。

そして、悲しそうな顔をするリディに微笑む。

「─大丈夫、俺も手伝うよ。」

何となく、そうしなくてはいけない気がして。

だが、そんな考えはすぐに消える。

繋いだ手の隙間から眩しい光が溢れ出した。

咄嗟に、片方の空いている手で目元を覆い隠す。

だが、完全に防げるはずもなく。

手の隙間から目に見える全てが、真っ白に染った。

******

青白い月の光が夜を照らし、月を背に窓枠に腰掛ける女のシルエットが浮かび上がる。

シルエットの女は、一言も喋ることなく月を眺める。

「…………。」

「?…どうかされましたか?」

そんな彼女の側で、静かに紅茶を入れていた青年が少し様子がおかしい主に声をかける。

青年にとっては主─彼女は自身の真っ白な手をじっと眺めながら、鈴の音色のような声を室内に響かせた。

「…何でもない。最後のお客様がお見えになるから、新しいお茶の用意を。」

「かしこまりました。」

黒い燕尾服を着た青年は、主に軽く頭を下げてから暗闇へと消えた。

彼女は左手の甲をさすりながら、空中へ浮かぶ孤島を眺めていた。

皆さんお気づきになりましたでしょうか?

主人公の名前が変わっております…申し訳ございません、珍しい名前にしたくて…。

長らくお待たせ致しましたが、どうでしたか?

次回も楽しみに待っていただけると幸いです。

たくさんの可愛い天使やかっこいい天使をご用意しますので、お楽しみに!


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