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始まりは異世界

遅くなってすみません。1話目です。

柔らかい日差しと草の感触に包まれながら、どこまでも続く広い野原の中で目を覚ました。

「っ…どこ、ここ…?」

体を起こし、周りを見渡すと、野原があるだけで、建物ひとつなかった。

遠くには山らしきものも見えるが、この距離ではっきり言いきれないのだから相当遠いのだろう。

そんなことを考えていると、喉が渇いてきた。

自分の置かれている状況を理解しようとするのよりも先に、喉の渇きが襲ってきたのだ。

このままじゃどの道まずいと思い、行動を移すことに決めた。

「人、探そ…」

今の状況を知る為と、水分補給の為にも、前の記憶を辿りながら歩くことにした。

人を見つけたら水を恵んで貰えるかもしれないし、貰えなくても川のある場所などを聞けるかもしれない。

といっても、なにも覚えてないが。

そんなことを考えながら数十分歩いていると、少し先に森が見えた。

そこまで行くと、森の奥を指した看板がたっていた。

『この先ファヴォーリ街』

そう書かれた看板を見て、森の中に入る。

街があるなら人もいるだろうし、何か手掛かりが見つかるかもしれない。

その一心で入ってきたのはいいものの、先程の森の入口からの不安が拭えきれないでいた。

森に入る前の看板はボロボロで、森の中へと続く道らしきものは怪しさを感じ、薄暗い森のその先に街があるとは到底思えなかったのだ。

だが、罠だと疑っている時間も暇もなく、ポジティブな思考に切り替えた。

そんな事もあり、はやく森を抜け出したくて段々と小走りになる。

すると、道の先に光が見えた。

森の出口だろうか、そこを目指してさっきよりも速いスピードで光の中へ突っ込む。

「っ、はぁ、ここは…?」

息を整えて顔を上げると、そこは見たことの無い景色だった。

レンガ造りの家並があり、通りには大勢の人々にテントを張った飲食店が並んでいる。

最初はまだ現代の技術が進んでいない未開拓な場所があるのかと思ったが、流石に自分が知っている技術だけでも10年以上は経っていた。

例えで言えば今目の前で荷物を運んでいるロバ。

現代だと車があり、ロバで荷物を運ぶなど確実に現代では見かけなかった。

馬で荷物を運ぶのはまだしも授業で昔そうしていたという知識があるが、ロバは見たことも聞いた事もなかった。

何かがおかしいと感じ始め、よく周りの人を観察する。

すると、最もこの世界がおかしいと感じる決定的なものがあった。

それは、街を行き通う人々の服装だった。

民族衣装のような服を着て歩く女性が印象的だった。

男の人はシャツみたいなのを着たりしている人が多かったが、どれも薄汚れていた。

改めて自分が着ている制服を見てみると、綺麗とまでは自分で見ると言えないが、今目の前で歩いている男の人たちよりは随分と綺麗だった。

これでは目立ってしまうため、ブレザーだけは脱いで手に持つ。

だが、来たことも無い土地に来たせいか、ここは実は異世界なんじゃないかと思い始める。

現代で友達のしゅんが読んでいた、異世界ものの小説。

主人公が交通事故にあい、死んだと思ったら異世界へ来ていたというパターン。

…あるあるだ、あるあるすぎる。

今この状況は、前しゅんに貸してもらった異世界ものの小説によく似ている。

という事は、ここは異世界なのか。

じゃあ俺は死んだのか。

いつの間に死んだのか、皆にもう一度会いたいとか、話したかった人の事など、次から次へと頭に思い浮かんでくる。

気が沈みかけていると、ゴーンゴーンと鐘の音が聞こえ、意識が引き戻される。

空の明るさ的にも、昼の知らせなのかなど考えていたが、どうでもいいと頭を振り、自分の頬を軽く叩く。

「何マイナスなこと考えてんだよ、俺!あの小説でも、とにかく歩いてたんだ。歩けばどうにかなる!」

喉の乾きも何もかも一気に吹き飛ばし、小説の主人公と同じようにすることに決めた。

あまり目立たないように端っこを歩き、まずは地図を探す。

とにかく歩き回っていると、木製の掲示板を見つけ覗き見る。

よーく見ると、この街の道案内が書かれている地図が貼ってあった。

ざっと見るとこの街の真ん中には水に囲まれた所があるらしく、橋を渡れば街の人達がよく休憩がてら行く広場のようだ。

「ここに行けば、歩き回らなくても沢山の情報が集められるかもしれない。行こう。」

広場までの道をしっかりと覚え、また目立たないように端っこを歩いて移動した。

橋の手前までつき、もう一息と橋を渡り始めた瞬間、何処からか声が聞こえてきた。

「─ん!!すいませーん!そこの人ー!!」

「ん?」

自分が呼び止められたのかと思い振り返ると、此方に向かって手を振る聖職者みたいなやつが走ってきていた。

周りを見ても誰もいないので、自分のことを呼んでいるのかと確信を持ち立ち止まると、男は目の前にくるや否や、息切れしながら手に持っていた分厚い本を開いてとある一文を指さして話し出した。

「あ、のっ!ごれ、貴方っでずよね!!」

「い、一回息整えてよ…」

そう言うと男は「すっ、いません…」と言って深呼吸を何回か繰り返し落ち着いたのかまた同じように聞いてきた。

男が指さす文には、短く『いつき』と書かれていた。

「─あー、確かに俺の名前だけど…どうして俺だと思ったの?」

「全ては我らが母、リディア様のお教えによるものです。」

「リディア様?」

そう言うと男は「ささっ、詳しい話はあそこで…」と、俺と一緒に広場のベンチへと向かった。

ベンチへ座ると、男は分厚い本をまた開き、あるページを開いた。

「このページは、先程も言った通り我らが母、リディア様こと『リディ・アンファーレ』様について書かれたページです。」

「リディ・アンファーレ?」

「はい。こちらをご覧ください。」

そう言った男は本を俺の方に寄せ、リディ・アンファーレの詳細が書かれたページを見せた。

するとそこには、紫がかったキラキラとした黒髪を一つに束ねた女性の絵が書いてあった。

おそらくこれが彼の言うリディア様なのだろう、後ろ姿で横に顔を向け、どこかを見つめ髪をなびかせている。

あまりの美しさに魅入っていると、男が隣で説明しだした。

「私は、この本にあなたの名前が書いてあるのを見て呼び止めました。」

「もう一度言うけれど、俺の名前が書いてあるってだけで俺を呼び止めた理由にはならないはずだよね。」

少し呆れながらも先程聞いたことをもう一度言う。

すると彼は何かを思い出すように、少し微笑みながら話し出した。

「…これは、ある日のことです。いつも道理自分の役目を全うしていた時でした。」

********

「─ユーキ。あなたにお願いがあります。」

呼び止められた私は後ろを振り向くと、そこにはリディア様がいました。

すぐさま膝まづき、最大の敬意を払いましたが、リディア様はそれを好まず、私を立たせました。

するとリディア様は、どうしてもやって欲しいことがあるのだと、私に頼み事をしてきました。

最初はリディア様がまさか私の前に現れるとは夢にも思わず、固まっていましたが、ずっとリディア様は私に呼びかけていて我に帰りました。

「もっ、申し訳ございません!!リディア様の願いならば、すぐにでもやらさせていただきます!」

「えっ、あっ、ありがとうございます…では、貴方にはこちらを…」

そう言って渡されたのは、一つの分厚い本だったのでした。

*********

「─それが、今ここにあるこの本なんです。」

「えっ?!そんな凄いものが、こんな近くにっ?!」

男の持っているこの分厚い本が、女神様直々に手渡しされたものだと認識すると、何故か輝いて見えた。

目を擦っては見ての繰り返しをしていた所、男は我慢していたのか、体をふるわせていた。

恥ずかしさと少しの苛立ちを感じ、むっと男を見る。

「…何ですか。」

「ははっ、すみません、私もそんな感じでしたし。私でも未だに信じられません。ですが、この本がある限り、あれは現実なんだと思わざるを得ませんでした。」

そう言って話す男は、ずっと片思いし続けてやっとその恋が叶ったかのような微笑みをしていた。

「…本の経緯は分かったけど、だから何で俺だと思ったわけ?」

「それも同じ理由ですよ。リディア様の記憶を貸してもらいました。」

「記憶を?」

「えぇ。」

意外な返答が返ってきて少し頭がはてなマークだらけになったが、まぁ女神様だからとわり切った。

「ですが、その記憶からわかるのはこのリストに書いてある子達の顔だけでした。」

そう言って何ページかめくったところに、先程の名前が書いてあったページがあった。

そこには、自分の他にも、知っている同級生の名前が10人くらい書かれていた。

「…だから、俺を呼び止めた、と。」

「えぇ。詳しくは話せませんが…まぁどうです、他の天使達も見てみましょうよ。何かが見えてくるかもしれませんよ。─貴方にとって、ね。」

綺麗な唇がやわらかな弧をえがき、先程までの天然さは感じられない程妖艶な雰囲気を醸し出していた。

…だが。この、笑みは。まるで─

「…どうされました?」

ハッと我に返り、「あ、あぁ、何でもない。」と返すのが精一杯だった。

─さっきの笑みは、本能的に危険と感じた。

この男、あまり心を許さない方がいいかも知れない。

油断したら、こっちが食われると思った方がいいな。

男はこちらを見ずに、本に書いてある天使達の名前やどんな事をしているのか等をスラスラと話していた。

自分も余計なことを考えずに、必要な情報を逃さぬよう話を聞く。

「─つまり、この七人は、リディア様に必要不可欠な存在なのです。誰一人として、欠けることは許されません。天界の掟にもなっている程です。」

「この七人が、絶対天界にいなくてはいけない…」

この七人とは、天界で絶対的な地位を持つリディア様の重要な天使達らしく、男4女3に分けられているらしい。

女天使はユリーナ、ルミーナ、ポム・ピアーナで、男天使はユーキ、ジュン、シュン、ピアという名前らしい。

唯一、天使か女神か、どちらか分からないポム・ピアーナは天使として人数に入れているらしいが。

それぞれの特徴としては、女天使のユリーナはお転婆で、面白いことには首を突っ込まずにはいられないらしい。

だが、仕事となるときちんとするらしく、ミスは一回もないという。

ルミーナは真面目で機械などに強いらしく、その才能を仕事にいかしているらしい。

リディア様とは仲がよく、お茶をよく共にしているらしい。

ポム・ピアーナは謎に包まれているらしく、本にも詳しいことは書かれていなかった。

天使かどうかも怪しいという。

ただ一つ分かるとすれば、リディア様はこのポム・ピアーナに執着している事くらいだ。

ユーキは礼儀正しく何事もそつなくこなすらしく、完璧と言っても過言ではないらしい。

心優しく、リディア様はそんな所が気に入っているらしい。

ジュンは頭脳明晰で頭が良く、執事としてリディア様につかえ、執事の鏡と呼ばれている程だという。

物静かだが、リディア様は静かな方が好きなので互いにとって性格の相性がいいらしい。

だが、リディア様に何かあるといつもの雰囲気は無く、とても冷ややかな目でリディア様に害をなしたものを排除しようとするらしい。

シュンは雑学系で分からないことを聞けばなんでも教えてくれるらしい。

他の人はそこまで覚えていないという所まで知っていたりする。

何故か紅茶を入れるのがとても上手いらしく、リディア様は毎日飲む度に褒める程だという。

ピアは紳士系だと言われているが、これも詳しい詳細は書かれておらず、重要な役割をリディア様から命じられているという。

と言うふうに、どの天使もリディア様がゾッコンしているということが丸分かりな訳で。

誰一人欠けてはいけないと言うのも頷ける程だった。

だが、この七人はそれだけの為にいる訳では無いという。

この七人は、リディア様の抑制の鍵の役割を持っているという。

いつリディア様が暴走するかわからないため、それぞれが違う場所でしっかりと監視しているらしい。

「とまぁこんな風になっていまして、リディア様の力はこの世界を滅ぼす程だといいます。」

サラッといいのける男に、一瞬聞き間違いじゃないのかと思ったが、「?世界を滅ぼせますよ?」ともう一度言った事により聞き間違いでは無いことがわかった。

だとしたら─

「─それほどの力を持っていたら、いくらリディア様に認められた六人だとしても、到底抑えきれないんじゃ…?」

そう言うと、男は一瞬硬い表情になったような気がしたが、すぐに「その時は…」と呟いた。

「─その時は、勇者が真の役に立つ時…つまり、勇者が自分の持ちうる限りの力と命を使って、リディア様を止めるのです。」

────は?

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

普通はありえないだろう。

今、こいつはなんと言った?

世界を滅ぼす程の力を持つ相手に、その天使達の力でさえ抑えきれない、その以下であろう俺達に、命をかけ、負けるとわかっている勝負に挑めって言うのか。

元の世界では、そんな事は日常的にありえなかったから余計に緊張する。

鼓動が速くなって心臓がズキズキと痛む。

胸あたりを掴み、痛みを抑えようとする。

その様子を見て、男は俺の肩に手を置き優しい声音で言った。

「…大丈夫ですよ。それはあくまで特殊な例ですから。この七人だと、きっと抑えられますよ。だけど勇者達は別に、彼等には出来ないことをする役目があるんです。」

「役目?」

痛みも和らいできて男の方を見ると、男は本を片手に抱え席を立った。

「─全ては、リディ・アンファーレ様がお教えになられるでしょう。ついてきてください。」

突然の行動に驚くものの、言われるまま男の後ろについて行く。

特に話さずに歩いていると、男が向かったさきは大きな教会だった。

「ここは、先程話した通り、リディア様とその眷属、七人の天使達の像があります。貴方は、リディア様の像を目指して階段を登ってくださいね。」

「え?いきなり言われても、意味がわかんないんだけど─」

俺が話している間に、男はトントンと大きな扉を指先でつつくと、大きな扉はひとりでにあいた。

驚きのあまりその場に立ち尽くしていると、男が俺を呼んだ。

「何をしているのですか。はやく中に入ってください。閉め出されたいのですか。」

「あ、あぁ、今行く…」

中に入ると、先程の扉の大きさとは比べ物にならないほど綺麗な純白の教会だった。

真っ白な石の床には、自分たちの足元が写る程ピカピカに磨かれており、その床に敷かれている真っ赤なカーペットは主祭壇の後ろの長い階段の頂上へと続いている。

だが、自分の知っている教会とは少し違う造りだ。

それでも…

「すげぇ…」

それしか思い浮かばなかった。

それほどまでに綺麗だったのだ。

一つ一つ繊細につくられている細かい部品や、ステンドグラス。

装飾もゴテゴテしてなく、むしろ程よい感じになっている。

見とれていると、俺の前にいた男がこちらを振り向いた。

「それでは、私はここまでです。ここから先は貴方だけでいってください。」

「─え?ちょ、ちょっと待ってよ!どうしたらいいんだよ、これから!」

「言ったはずですよ。リディア様の所まで行けばいいと。」

そう言って指さしたのは、主祭壇の後ろの階段の頂上を指さした。

…え。あれを登れと?

明らかに桁違いの段数だと見てわかるうえ、頂上なんて石像があるかなんて遠くてわからなかった。

ギリギリ、見えるとしたら黒い点が階段の端に左右一個ずつ見えるだけだ。

なんとか見えないかと背伸びをしていると、男は頂上に指をさしたまま、

「あそこに、リディア様の像があります。貴方はそれに触れるだけでいいのです。本に書いてありますから。『世界の母、創造神、全ての聖なるもの達の瞳を射止める先の者に触れられよ。さすれば道は開かれん』と。」

っと、それだけ言って男は話すことがこれ以上ないとでも言うかのように出ていこうとする。

そこで俺はずっとある事を聞くのを忘れていたことを思い出した。

急いで呼びかけ、男を振り向かせる。

「ねぇ!…そういえば、名前、聞いていなかった。今更感すごいけど…教えてくれない?」

そう言うと男は目を一瞬見開いたあと、ふっと笑った。

「─ユーキです。唯の、ユーキ。」

「ユーキ?天使と同じ名前なんだな。まぁそんな事はいいか。…礼を言う、ありがとうユーキ。」

「えぇ。こちらこそ、良い体験をさせて頂きました。どうぞご無事で。」

そう言い残し、また歩き出して教会の外へとユーキは消えていった。

俺は主祭壇の後ろの階段の手前まで行き、呼吸を整える。

「ふー…。よしっ、行こう!」

力強く一段目を登り、どんどん進んでいく。

ユーキの言葉を思い出しながら、上を見続けて階段を登って行った。


次回は天使達が出てきます。

お楽しみに!

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