56,85日目(月)(6月27日)②
電磁抜刀オルガノン
「スペルビア、あの黒い水溜りどうにか出来ますか?」
普通のボスを相手にするように戦おうにもまずはあの黒いミニバッタの大群をどうにかしない限り詰むかもしれないのでいのちだいじを頭に入れてミニバッタから対処しつつ戦おうと思っているとアケディアさんがそう叫び、
「今相手してるヤツらを完全に無視できるなら!」
とスペルビアさんが両手で握った刀の大振り横一線で群がっていた群れをまとめて吹き飛ばしながら答えました。群れをいくら削っても大元の水溜まりをどうにかしないと無限湧きするパターンの可能性もありますからね。
それを聞きながら私は召喚した偽腕に大盾を持たせて即席のバリケードにしつつ、その後ろから銃火器や魔法、分裂させて擬似的なビットのように使っているフラガラッハを使ってミニバッタの集団を削っていました。
「わかりました。少し準備するのでシオンはそのまま削っていてください」
するとスペルビアさんの返答を聞いたアケディアさんが左手で首から下げた十字架のペンダントを握り詠唱を始めました。握られたペンダントからは十字に光が伸びています。
「『天にまします神々よ、どうか我が声を聴き届けたまえ』」
「『その神威をもって悪なるもの、害あるものの悉くを阻み、我らにそれらを討ち倒す力を与えたまえ』」
見た目と演出が相まって雰囲気は本当に聖職者のようですね。
「展開━━━『討魔聖域』」
そうアケディアさんが告げると、彼女を中心にして複雑な紋章が足元から部屋全域を覆うほどにまで広がりました。
さらに紋章が広がり終わるとHPバーの上、プレイヤーネームの横の普段バフデバフを示すアイコンが表示される箇所に交差した3本の剣をバックに某元祖シールダーの英霊が持つ十字架型の盾と似たようなものが描かれたアイコンが着いていました。
見たことの無いアイコンなのでおそらく固有バフの一種でしょう。
「『聖十字架の枷』」
そう呟くように唱えたアケディアさんが握っていた十字架から手を離して杖の上部側の先端に着いた装飾でミニバッタの群れを指すと、指された数匹ごとのミニバッタの周りに十字架の紋章が浮かび、その行動範囲を制限していきます。
完全にミニバッタを拘束し終えたことでフリーなのは黒い水溜りと1部の装甲が液状化したことで素の本体が見えるようになった機械バッタの2種だけになりました。
そして視界の端でスペルビアさんがその装備を今までの軍服風のものから金属感のある藍色のコートと黒くて装飾もそこまで多くない細身のパワードスーツのようなものへと変更しました。
そして腰に吊るしていた機械的な見た目をした刀を切っ先を右手に持って上に向けて掲げると、次の瞬間、その体に紫電を纏い、詠唱を始めました。
「『|解枷:始鍵《エンチャント:ビギニング》』」
そう告げると、機械風の見た目をした鞘がガチャりと音を立てて部分ごとに分離し、変形しながら篭手のような形を作り刀の柄を握る右腕を覆いました。
そして、体に纏っていた紫電が篭手に吸われていきます。ある程度吸われて篭手がバチバチと短く電撃を放ちながら紫色に光り始めると彼が口を開きました。
「『始世解刃』」
一言目で刀身の根元、鍔のあたりから黒と白の渦が噴き出し、刃を中心に右巻きと左巻きの二重に螺旋を描くようにして覆い始め、
「『陰陽混淆』」
それらは二言目でその渦が混ざって揺らめく灰色のオーラに変わり、
「『終界結刃』」
三言目で灰色のオーラが刀身に染み込み刀身の色を元の鋼色からオーラと同じ灰色に変えると、
「人機一体、全霊開放ッ!!」
その言葉と共に、鍔から勢いよく金色の中に赤や青の光が星のように浮かぶ不思議な色の炎が吹き上がると、オーラによって灰色になっていた刀身は、まるで本物の灰を固めて作られていた様にその炎に焼かれて崩れていきます。
そしてボロボロの細かい粒子にまで崩れた灰は全てそのまま炎の中へと消えていきました。
そして鍔から伸びる刀身は先程までの金属光沢があった刃から、刃から崩れた灰を取り込んだ後に揺らぎが消えそのまま見た目だけは元の刃と同じ形に変化した炎へと変わりました。
「焼き払え━━━ッ『征火燎剣』」
そして片手で掲げていた刀を両手でしっかり握り込むと、次の瞬間、空中に篭手が放つ雷光と刀身の炎が放つ金色の光を残しながら勢いよく振り下ろされました。
そして振り下ろされると同時に、刀身を形作っていた炎はその形を崩し、篭手に吸収されていた紫電と共に扇状に広がると、十字架の紋章によって拘束されていたミニバッタ諸共水溜りを全て蒸発させました。
さらに炎雷はそこで止まらず、水溜りよりさらに奥にいた本体にまで届きその動きを鈍らせました。これで私も攻撃できますね。
そこで私と同じことを思ったのか装備を元の軍服風のものに戻したスペルビアさんが今までと違い両手に刀を持って斬りかかって行くのが見えました。
今は防御方面にリソースを回す必要はほとんどありませんからね。某RPGで言うならガンガンいこうぜ状態と言うやつです。
まずは『呪蝕の鎖』で拘束しつつスリップダメージを稼ぎ、『思考拡張』による補助込みで『並列思考』と『念動力』を使ってフラガラッハと『複製の魔眼』で複製したナイフをほぼ全てマニュアル操作で動かします。
ほぼマニュアルだと『精密動作』の補正が乗ることでオートの時よりも圧倒的に自由に動かせますが思考のほとんどを操作対象に割くことになるので私自身が動けなくなってしまいます。ですが今はそれも問題ありません。
まずはボスが跳び上がろうとしたところをナイフの群れで叩き落としてフラガラッハで追撃。
次に装甲を変化させようとしたら変化する前にその装甲に重点的に攻撃してキャンセル、隙があればナイフかフラガラッハを飛ばして相手の動きを邪魔します。
回避や防御しきれなかった攻撃で時々削れるHPはアケディアさんの回復が定期的に飛んで来たりミリ単位の減少であればリジェネ効果も含まれていた固有バフによって即座に回復したりするので無視しても問題ありません。
スペルビアさんはボスの周りを立体的に跳び回りながら攻撃してるので当たらないようにボスの攻撃をキャンセルしてサポートします。
サポート中スペルビアさんを見ていると時折刀の刀身がボスの体に刺さった状態で根元から折れ、その度に新しいものを取り出しているのが分かります。
私のように複製スキルを持っているのかアイテムバッグのような別枠インベントリに詰め込んでいるのか分かりませんがよく数が持ちますね。
そして段々とスペルビアさんの跳び回る速度が上がり始め、それに比例してボスの体に刺さる刀の数も増えていきます。
こうなってくると邪魔しないようにと言うよりもそもそもスペルビアさんの跳ねる軌道上に攻撃を置くのをやめた方が良さそうですね。
とりあえずナイフとフラガラッハを手元に戻してと、ダメージ稼ぎはスペルビアさんに任せて私はサポートに回るとしましょう。
まず既に使っている『呪蝕の鎖』と併せて『水銀魔法』、『操糸王術』『錬金術・王』による3重拘束も追加していきます。この時ボスの姿がはっきり視界に入りましたがスペルビアさんは何本刀を消費したのかボスの体は無数の刀の残骸が刺さって剣山のようになっています。
拘束を追加し終えるとスペルビアさんが戻ってきてそれを見た今まで後ろから回復やバフデバフ等のサポートをしていたアケディアさんも私とスペルビアさんの方に出てきました。
それにしても、あれだけスペルビアさんが跳ね回って攻撃したのに加えてこういうボスは普通なら分裂体と本体のダメージが共有されることが多いので今回もそのタイプならそろそろHPが半分を切ってパターン変化があっても良いと思うんですが・・・・・・見た感じまだ変化が起きる気配はありませんね。さすがにHP多すぎでは?エリアボスやフィールドボスにあるHPバーもありませんし。
「・・・・・・シオンは今高火力を出すことが出来ますか?私は可能ですが万が一足りなかった場合の後詰め役が必要です。スペルビアのアレはさっきとは比べ物にならない時間稼ぎが必要になるので後詰め役には不適切です」
「私も高火力を出す手段はあります。ですが最高火力を出すならボスの拘束を解く必要があります。拘束解除が不可なら準最高火力になりますけどどうしますか?」
「拘束を解いた結果死亡なんてことがなく最大火力を出すまでの過程が安定してるなら構いません。それでは私は準備を始めます」
「わかりました。過程は安定しているので何も問題ありません」
まず取り出すのは蝕断の呪鎌、フラガラッハは分裂を解除して1本に戻してから後ろに浮遊させておきます。そして転魔の指輪を装備してからスキルを使用して指輪以外の装備を一括変更。そして『魔王化』を発動します。
足元からモヤが噴き出してそれが晴れると共に変化し触れた相手に呪いの状態異常効果のあるオーラを放ちます。呪鎌と指輪の効果で二重にスリップダメージが入っていますがこれも最大火力を出すための必要条件なので問題ありません。それに万が一HPが0になった時の対策もしていますしね。
そしてフラガラッハには私自身が持つ『極光魔法』『冥魔法』『虚無魔法』『混沌魔法』『竜魔法』『水銀魔法』による6重の付与と6重の属性強化、さらに『魔法剣』で現段階で可能な強化、付与の全てを乗せて準備完了です。
アケディアさんは杖を地面に突き、上部分にある球状の装飾に両手を重ねると仁王立ち状態で目を閉じました。
そして私は2人より前に出てボスの方へ歩いていき攻撃範囲に入った状態で相手の拘束を全て解除します。
それによってボスは体の装甲を槍のように伸ばしてきたり鞭のようにしならせて多方面から攻撃してきたり炸裂装甲のように装甲を内側から外に爆散させることで散弾のようにしたりしてきました。
ですが予見眼で見える軌道のうちそのまま回避、防御しなかった場合即死や部位欠損の可能性があるものは避けたり打ち落としたりしますがそれ以外はあえて受けにいきます。私に少し遅れて攻撃に参加してきたスペルビアさんのおかげでヘイトが2分割されるので少し余裕が生まれてますね。
さらにアケディアさんの固有バフに含まれるリジェネのおかげでこの間エイに使った時よりダメージ計算に使われる戦闘中被ダメージ総量が増えています。
今更ながら右手に長剣、左手に大鎌と言う周りから見たらかなりアンバランスな組み合わせです。ですが『肉体制御』『曲芸師』『精密動作』『上級剣術』『思考拡張』『並列思考』『二刀流』『武芸者』『調律躰導』と言う体を動かす行為に補正がかかるスキル郡のおかげで理想の動きに近い動きになるように修正しながら動けています。
舞うように、踊るように。頭のてっぺんから足のつま先まで全身を使った動きになるように心がけて動きます。
ごく稀にある回避不能な致命傷になり得る攻撃は『調律躰導』発動時に纏う粒子を防御に回して防ぎ、それ以外の相手の攻撃を避けたり叩き落としたりして防ぎながら被ダメージを稼いでいると後ろからアケディアさんの詠唱が聞こえ始めました。
「『宙を巡る星々の如く』」
詠唱が始まると1節目で地面に紋章と光の輪が現れ、だんだんと上に浮かび上がると、上部にある装飾の下で止まりました。
「『天を翔ける陽光の如く』」
2節目で光の輪は杖に取り込まれ杖の輪より下の部分が輪と同じように光を放ちます。
「『空を駆ける雷鳴の如く』」
3節目で杖の下部から光の糸が伸びボスの周りを縦横無尽に囲みました。しかし私は既にその内側にいるのでこのまま最高火力をぶつけに行きます。
「『廻る刃の群れ、我が意に従い全てを斬り裂け』」
4節目で重ねていた手を離すと右手でこれまでとは上下逆に持ち、1度軽く胸元に腕を引いて杖を当てると水平に倒して左手を柄に添えました。
「『竜骸之怨撃』」
何をするのかわかりませんが私はアケディアさんの詠唱が完成する前に私が唱えると大鎌の刃から赤黒い粘性の泥のようなものが染み出し、私の体から放たれていた呪いのオーラが大鎌の刃を覆いました。
それによって刃の見た目は元の刃と比べて一回り程大きく、そして禍々しくなります。そして今回はそれに加えて黒い刃が大鎌の刃部分から生えたことで以前使った時よりさらに威力と禍々しさが増しています。
するとここでスペルビアさんが1度足を止め、顔の前に持ってきた左手で印を組みました。
「『皆刀爆陣』ッ!!」
そう叫ぶように唱えるとボスの体に刺さっていた無数の刀群が個別に爆発していきます。それによりボスの行動が出始めから全てキャンセルされます。
私は爆発の中『調律躰導』で爆風を防ぎ限界まで強化した状態の大鎌を構えて体を思い切り捻り、勢いをつけて横一文字に切り裂きます。
大鎌でボスの体を切り裂くと、アーツ発動によって纏っていたライトエフェクトが霧散し、振り下ろした刃から血色の泥が分離して私の頭上で魔法陣のような形へと変化し始めました。そしてその魔法陣が完成するとそこから6つの目を持つ竜の頭部が現れボスに向けて緑色の炎を吐きました。
炎に焼かれるボスの前で私は止まることなく今度は背中側に浮かせていたフラガラッハの柄を握りボスの体に振り下ろし、振り下ろした直後に真上に切り上げ、そのまま腕を回して右と左から往復するように切りつけて斬撃の軌跡が十字になります。
そしてそのまま肩幅に足を開き、腕を限界まで後ろに引き絞ると、その斬撃の軌跡が重なった部分目掛けて突きを放ちます。
踏み込みによる加速に限界まで引いていた腕を突き出す勢いを加えて放たれたその一撃はボスの体を真正面からノックバックさせました。
そしてノックバックしたボスが周りを囲んでいた光の糸に当たる寸前でアケディアさんが体の前で構えていた杖を振り下ろし、
「『刃環ノ杖剣』」
そう呟くように締めの言葉を唱えた瞬間、ボスの体に無数の線が走ると、そのまま一切動かなくなりました。




