事故後(現実)
私が目を覚ましたのは事故から2日後のことだった。
あぁここはきっと病室だ、そして警察の人が教えてくれるのだろう、事故のことを
そして知らされるのだ、お姉ちゃんの死を、お父さんとお母さんが意識不明の重体だということを
「お、目が覚めましたか、呉羽ちゃん」
そう話しかけてきたのは夢で見た警察の人だった
「は、はい」
「大変だったね。腕は痛むかい?」
あ、そうだ、左腕を骨折しているのだった
「え、骨折してない…どうして?」
「あぁお医者さんも驚いていたよ、あんな大事故だったのに打撲ですんだのは奇跡だって」
違う、私が見た夢と、違っている…私は骨折するはずだ…
まさか、違う未来に変わったってこと?
じゃあお父さんもお母さんもお姉ちゃんも無事ってこと?
「あ、あの!お、お父さんとお母さんは無事なんですか?お姉ちゃんは生きてるんですか?」
「じゃあ、ちょっと見に行こうか」
見に行く?どういうことなのだろう。
夢では確か警察の人からお父さんやお母さん、お姉ちゃんの病態を聞かされるはずなのだが
1025号室と書かれた部屋に着いた
「失礼します、火神さん」
1025号室にはお父さんとお母さんがいた
「お父さん!お母さん!無事だったんだね!」
「呉羽!無事だったのか!良かった、意識が戻ったんだな」
「怪我は何ともないの?動いて平気?痛くない?」
「お母さん心配し過ぎだよ、お母さんとお父さんこそ大丈夫なの?」
意識不明の重体………ではないようだ
やはり未来が変わっているのだ
「えぇなんとか、お父さんもお母さんも平気よ」
「ねぇ、お姉ちゃんは?ここにはいないの?」
未来が変わっているならお姉ちゃんは生きているはずだ
「鈴音は別の部屋にいるんだ、今はまだ眠っているそうだ」
良かった、お父さんの言い方からして死んではいないとわかった
それだけで安心した
お姉ちゃんを救うことができた
「お姉ちゃんは何号室の部屋にいるの?」
「1036号室だよ」
「わかった、行ってくる」
「呉羽!待ちなさい、お姉ちゃんのところに行ってもいいけどくれぐれも騒がないようにね」
「うん、わかった」
そう言って、私は1025号室を後にした。
1036号室の前にやってきた私は一度足を止めた
お母さんがなんであんなに静かな声で注意してきたのだろう
あまりお姉ちゃんの容体がよくないからだろうか
覚悟を決めた私は病室の扉を開けた
「お姉ちゃん…大丈夫…?」
小さな声で問うが返事はない
「お姉ちゃーん、寝ているの~?」
まわりがカーテンでかこってあるベッドが1つだけあった
私は少し怖いと感じたが開けてみた
するとそこにはお姉ちゃんがいた
ただ眠っているようだった
私はお姉ちゃんが生きている、ということにまず安堵した
しかしいくら待っても起きる気配がない
不思議に思った私は1度お母さんがいる1025号室に戻ることにした
「お母さんちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
「おぉ呉羽か、今お母さんは検査中でいないんだ」
「そっか…じゃあお父さんでいいや」
「お父さんでいいやってちょっと傷つくな~」
「あのさ、お姉ちゃんって生きているんだよね?なんでいつまでたっても起きないの?」
「……………」
お父さんの反応を見て少し嫌な予感がした
「お父…さん…?」
実にたっぷりと間をあけてお父さんは口を開いた
「鈴音はこのまま一生起きないかもしれないんだ…」
心の中では少し感じていた
死んではいない、ただ起きないかもしれない
それは死んだも同然ではないか
「起きたとしてもお父さんたちの記憶がないかもしれないし、一緒に歩くことができないかもしれないんだ…呉羽…お姉ちゃんを…お姉ちゃんが起きるように…起こしてきてくれ…!」
初めてだった、お父さんの泣く姿を見たのは
お母さんの前では必死に我慢していたのだろう
苦しそうに、自分を責めているように泣いていた
私はそんなお父さんにかけてあげる言葉が見つからず、ただただお父さんが泣きやむのをとなりでずっと待っていた