8 貧血
「まったく災難だったね」
「ほんとだよ。何が楽しくてこんな日に汗をかくようなことをしなきゃならんのか」
「三浦マジメだよなぁ、俺なら絶対サボってる」
「俺は出席点なんかで評価落としたくないの」
「俺は出席点で単位落としそうだってのに……」
とほほといった感じでわざとらしく項垂れる真北に、思わず笑みがこぼれた。さっきまでにやにやしながら俺の寝坊を珍しい珍しいとからかってきていたのに、ころころと表情の変わる奴だ。
「それより喉乾いたし何か食いたい」
遅刻に気づいた俺は、目についた服をとりあえず身に付けて、どうにか出席扱いにしてもらえる時間までに到着しようと家から全力疾走してきたのだ。だから今日は何も食べていないし、それどころか何も飲んでいない。正直教室に着いたときには吐き気さえしていたが、吐く物の入っていない体は深呼吸を繰り返して授業をやり過ごすうちにただの空腹の体に戻ってくれたようだった。
「じゃ学食行こうよ、次まだ2限だから空いてる」
いつのまに荷物をまとめたのか、きっちりファスナーの閉まったリュックサックを背負った真北は早くも教室のドアの辺りへ向かっていた。俺もばたばたと持ち物をしまって、真北に続いて立ち上がった。しかし。
「あっ、……」
「え、うそ三浦?」
視界がぼんやり白けたかと思うと、すぐに何も見えなくなって宇宙みたいな闇に覆われた。貧血だ。蹲って動けない俺のもとに寄ってくる足音が聞こえたが、もうそんなものどうでもよくなってしまっていた。