6 雑誌
その授業が終わって家に帰る前、駅前のコンビニに寄ったら雑誌の立ち読みをしている真北に出会した。あ、と思って、声を掛けようとして、やめた。なにかおかしい。何がおかしいかは分からないけれど。
なんとなく俺がここにいることを気付かれてはいけない気がして、そそくさと1列奥の、電池やらボールペンやらが並んでいるコーナーに隠れた。運よく陳列棚の隙間から真北の様子が窺えた。俺はマーカーを物色する素振りをしながら、静かにその向こうを見ていた。幸か不幸か気付かれていない。少しして、ふいに真北は持っていた雑誌を置き、ふらふらと外へ出ていった。追って見るのも変な気がして、俺はそのまま買い物を続けた。
さっき真北に見つかりたくなかったのは、俺が先に気付いたくせに声を掛けなかった気まずさからだったのだろう。しかしなぜ、俺は声を掛けなかったのか。ぐるりと店内を一通り見た俺は、先ほどまで真北が立っていた場所に置かれている雑誌を手に取り、ようやくその理由を自覚した。
ファッション雑誌だったのだ。真北が読んでいたのがファッション雑誌だったから、俺は言い知れぬ違和感を覚え、思わず隠れるような真似をしてしまったのだ。だってあいつは、こんなものを読まない。身形に気を付けこそするものの、あくまでそれは「浮かないため」であって、わざわざファッション雑誌を立ち読みするようなやつではなかった。ひどく嫌な感じがした。真北が俺の知らない人間のように感じられた。あいつはこの雑誌を読んで、それから、どこへ行ったのだろう。そういえば買い物をしていた様子もなかったけれど、立ち読みするために寄ったのだろうか。こんなに気になるんだったら、多少の違和感など気にせず声を掛けてしまえばよかった。
さんざん探していたくせに、いざ見つけたらこの様だ。俺は何を買おうとしてコンビニに入ったのか忘れていて、仕方なく新作のスナック菓子を買って帰宅の途に就いた。