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2 深呼吸
「久しぶりに見たな…」
独り言が増えたのは、一人暮らしを始めてからだろうか。家族がいた実家暮らしの時より、今の方が余程喋っている気がする。寂しいから、ではないけれど。
淡々と簡単に朝の支度を済ませてアパートを出た。見上げた空は、やっぱり青い。あの夢を見た日の空が大抵青いということには、意識しだしてから気がついた。そして俺はその空の下を歩く。あの夢を見た日にはそうするのが、自分の中での決まり事になっていた。
並木道をのろのろと進んでゆく。この間まで小綺麗な葉桜だった木々は、今やすっかり青々しい若葉になっていた。ふと目線を下ろしたら、少し先に見知った人間が見えた気がした。路地にでも入ったのか、もう見えない。俺は再び上を仰ぎ、小さく吸って大きく吐いた。