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アイコン三国志  作者: 小金沢
第十章 秋風五丈原
PR
99/126

〇九八   夏侯楙の智略

~~~蜀 北伐軍~~~



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「――ってなわけで、趙雲将軍と合流した俺らは、南安城に夏侯楙を追い詰めたんだ」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「でも南安の守りは固くて簡単には攻め落とせないッスよ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「貴様らには困難でも余には造作もないことだ。すでに手は打ってある。

後は急ぎ、柴を用意しろ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「柴と言われますと……城を焼き討ちするおつもりですか?

しかしこれだけの城を焼き落とせるだけの柴はとても用意できませんぞ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「馬鹿め。せっかく余のために用意された城を、自ら灰にしてどうするのだ。

今は冬だ。心優しい余は将兵が凍えることのないよう、

焚き火をして身体を暖めよと言っておるのだ」



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「おお……丞相の温かい心に触れて、

火なんか無くてもあったまっちまいそうだな!」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

(…………絶対、何か企んでいるな)



~~~魏 安定(あんてい)~~~



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「と、止まりなさい! お前は何者だ!?」



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「私は夏侯楙様の副官で裴緒(はいしょ)と申します。城門を開けてください」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「か、夏侯楙様の……? そ、それは失礼いたした! すぐに門を開けろ!」



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「ありがとうございます。夏侯楙様から崔諒殿へ書状を預かって参りました。

知っての通り夏侯楙様は南安城で蜀軍に包囲されています。

崔諒殿には救援に来ていただきたいのです」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「き、救援にですか?

い、今すぐそうしたいのはやまやまですが、

この安定の守りもおろそかにできませんし……」



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「これから私は天水(てんすい)にも回って援軍を要請してきます。

天水とここ安定の兵をあわせ、さらに南安城からも夏侯楙様が打って出れば、

蜀軍も一たまりもありません。

……それとも、夏侯楙様を見殺しになさるおつもりか?」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「め、滅相もありません! すぐに出撃の準備を整えさせていただきます!」



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「快く承諾いただきありがとうございます。

私はすぐに天水に向かいますので、失礼します」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「………………こ、これは困ったことになったぞ。

夏侯楙のバカが多少の敗残兵は連れているだろうが、

天水と安定、南安の三郡をあわせた程度の兵では蜀軍に太刀打ちできまい。

い、いったいどうするべきか……」



~~~魏 安定 数日後~~~



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「崔諒殿!」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「こ、これは裴緒殿。こ、今度はなんの御用でしょうか」



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「何をグズグズしておられる。すでに天水の太守・馬遵(ばじゅん)殿は兵を発したぞ。

私はこれから南安城に戻るところだ。一刻も早く出陣なされよ!」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「む、むう……。

しかたあるまい、兵は出すが

蜀軍に遭ったら敗れたふりをしてさっさと引き上げるか……」



~~~魏 崔諒軍~~~



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「こ、これはどうしたことだ……。一向に蜀軍に出くわさんぞ。

このままではもうすぐ南安についてしまう……。

ああっ!? あ、あれは……南安城の方向からものすごい量の煙が上がっているぞ!

バンザーーイ! 南安は落ちたんだ! これで帰れるぞ!」



挿絵(By みてみん) 王平(おうへい)

「おっ。こんなところにも魏軍がいやがったか。

やいやいやいやい、その首ここに置いて行きやがれ!」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「い、いかん! 退却だ! 退却するぞーーっ!!」



挿絵(By みてみん) 王平(おうへい)

「てやんでい! 一戦も交えずに逃げるなんざこの臆病者のこんちきしょうめ!」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「なんとでも言え! 私は安定城に帰るのだ!

安定……城、に…………!?」



挿絵(By みてみん) 馬忠(ばちゅう)

「お帰りなさいませ崔諒殿。城はありがたく頂戴したぞ」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「ば、馬鹿な……。ほんの少し城を空けた隙に、蜀軍に乗っ取られている……」



挿絵(By みてみん) 王平(おうへい)

「てめえの帰るところなんざ無えんだよ!

わかったらおとなしくお縄につきやがれ!」



~~~蜀 安定城~~~



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ほう。南安の太守を説き伏せると言うのか」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「は、はい。私は南安の太守・楊陵(ようりょう)とは幼なじみです。

私が説得すれば必ずや夏侯楙を捕縛し、開城に応じることでしょう」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「夏侯楙とやらはどうでもいいが、城が労せず手に入るのは大助かりだ。

見ての通り将兵は寒さに凍えておる。

慈悲深い余は早く彼らを焚き火から解放し、屋根の下に入れてやりたいのだ」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「し、諸葛亮丞相の御厚情には感動しています!

全力を尽くし楊陵を説得して参りましょう!」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「…………出て行きましたな。

まさかとは思いますが、奴を信用してはおられないでしょうな」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「馬鹿な。余は自分以外の何者をも信用せぬ。

余に比肩しうる頭脳の持ち主などこの世には存在せぬのだからな」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「あ、あの……そういう話ではなくてですな」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「あの者は煙が火計ではなく、焚き火だと知っても顔色を変えなかった。

余にはめられたと怒るでもなく、驚きもしなかった。

つまり最初から余と戦うつもりのない、

臆病で卑怯な保身だけを考える小人物だったというわけだ。

そんな者の言葉のどこに真実があると?」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「………………さ、差し出がましいことを申しました」



~~~魏 南安(なんあん)~~~



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「??? ぼくちゃんにはみんなの言ってることがわからないんだけど」



挿絵(By みてみん) 潘遂(はんすい)

「つ、つまり崔諒殿らは蜀軍を騙し打ちするつもりなのです」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「そ、そうです。いいですか、もう一度最初から説明しますぞ。

まず我々は夏侯楙様を捕縛したと言って城門を開き、蜀軍を招き入れます」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「うわああっ! ぼ、ぼくちゃんをホバクなんてしないでよう……」



挿絵(By みてみん) 楊陵(ようりょう)

「で、ですからそれは嘘です! 蜀軍を騙すための嘘です!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「なあんだ……。嘘なら嘘って言ってよお。ほっ…………」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「そ、それからですな。蜀軍が城内に入ったのを見計らい、門を閉じます。

そうして彼らを包囲殲滅するのです!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「ホウイセン……? もう!

難しい言葉を使ったらぼくちゃんわからないでしょ!」



挿絵(By みてみん) 楊陵(ようりょう)

「つ、つまりですな……。

蜀軍をみんなで囲んで、みんなでワーッといじめるのです!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「ショクグン……?」



挿絵(By みてみん) 潘遂(はんすい)

(そ、そこから説明しなけりゃいかんのか……)



~~~南安 城内~~~



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「おう、ご苦労だったな崔諒殿。無事に夏侯楙は捕らえたか?」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「は、はい! ご覧のとおり捕縛いたしました!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「うわーん。ホバクされちゃったよー。たすけてー」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「……死ぬほど棒読みなのは気のせいかしら?」



挿絵(By みてみん) 楊陵(ようりょう)

「さ、さすがは夏侯惇将軍の御子息です!

捕縛されてもなおあの余裕っぷり。豪胆ですなあ!

あ、申し遅れました。私は南安太守の楊陵と申します!」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「あんたが楊陵さんか。おとなしく降伏してくれて助かったよ。

丞相から褒美を預かってるんだ。ほれ、手渡すからもうちょっとこっちに来てくれ」



挿絵(By みてみん) 楊陵(ようりょう)

「ほ、褒美だなどと恐縮です。

我々はただ、諸葛亮丞相の優しい心根に共感しただけで――」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「なあに遠慮することはねえ。――冥土の土産だからなッ!」



挿絵(By みてみん) 楊陵(ようりょう)

「ぎゃああああああああああ!?」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「な、な、な、な、な、何を!?」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「丞相はみんなお見通しよ!

あたいたちを閉じ込めようったって、そうは行かないんだから! えいっ!」



挿絵(By みてみん) 崔諒(さいりょう)

「ぐわああああああああああ!!」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「それ、魏軍を蹴散らしちまえ!」



挿絵(By みてみん) 潘遂(はんすい)

「か、夏侯楙様! 策は失敗です! 早く逃げましょう!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「えーん。縄をほどいてよー。

…………あれ? もう演技はしなくていいの? なんで?」



挿絵(By みてみん) 潘遂(はんすい)

「で、ですから事は全て露見しましたので……露見じゃわからないか!

つ、つまり全部バレちゃったから――」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「………………ッ!」



挿絵(By みてみん) 潘遂(はんすい)

「うぎゃああああああ!!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「う、うわああああん!

潘遂も斬られちゃったよおお!! ふえええええん!!」



挿絵(By みてみん) 王平(おうへい)

「……俺は夏侯楙を捕らえるように命じられて来たんだけどよ。

こんなのを捕まえただけで手柄になるなんて、なんか気が引けちまうな……」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「関興の言う通り、あたいたちもみんな不意打ちで

こいつら討ち取ってるし、別にいいんじゃないかな?」



~~~魏 天水(てんすい)~~~



挿絵(By みてみん) 諸葛均(しょかつきん)

「――というわけで夏侯楙様は南安城で孤立しています。

一刻も早く援軍を出してくださるようお願いします。

それでは私は安定城に急ぎますので……」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「フッ……。裴緒殿の言葉を聞いたか諸君。

夏侯楙様といえば皇帝陛下の一族に連なる高貴な御方。

もしその命を救うことができれば、我々の出世は疑いない!」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「おう、こんな田舎暮らしからおさらばして、都に行けるぞ!

蜀軍は大軍だが、この天水と南安、安定の兵を結集すれば恐れるに足りん!」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「その通り! 我々の栄光への道はここから始まるのだ!

さあ、今すぐ出陣の準備を――」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「――天よ。永遠と刹那の間の刻、私に言の葉を紡ぐことを赦し給え」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「姜維? 何を言っているのだ?」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「おでに意見があっからちょっと待てと姜維は言ってるだ」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「……いつもながら姜維の言葉は意味がわからんな。

ちゃんと通訳してくれよ梁緒」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「先刻、此処天水に流れ着きいま再びの旅路に着いた裴緒という男。

私は彼の口から零れ出た音の欠片に誠実に非ざる響きを感じた」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「さっき来た裴緒っての。あいつ嘘ついてんぞ」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「一、孤城から生まれ落ちし堕天使と華奢なその影。

二、安定と吾が故郷。その距離は月よりも遠く太陽よりは近しき。

三、彼の顔に穿たれた黒き虚ろに刻まれし偽りの輝き……」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「一つ、包囲された城から出てきた割にはあいつ普段着だったぞ。

二つ、安定より遠い天水になんで先に来たんだ?

三つ、嘘ついてる目ぇしてた」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「な、なるほど……。三つ目はともかく、他の二つは言われてみればその通りだ。

これが蜀軍の罠ならば、我らが出撃した留守を攻撃してくるつもりかも知れんな」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「いくら幼なじみだからって、よくこいつの言うことわかるよなお前」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「別に姜維の言葉は難しくねえぞ」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「姜維、お前の考えはわかった。

だが夏侯楙様が南安で包囲されているのは確かな事実だ。

罠だからといって、それを見殺しにするわけにはいかんぞ」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「故郷に束の間の別離を告げ――昼なお暗き森の深奥に潜む。

彼の者が久遠の果てより来たれば、汝賢き者よ、

其の背に祝福の息吹をそっと解き放て……」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「馬遵様は出撃すると見せかけて付近の森に潜むだ。

しばらく待ってもし蜀軍が攻めてきたら、それを背後から襲えば大勝利だぞ」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「ふうむ……。もし姜維の考えが的外れで、

蜀軍が攻めてこなくても別に我々に損はないな」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「よし、その策に乗ろう。

姜維は私とともに出撃しろ。尹賞と梁緒は城を守れ」



~~~天水付近 蜀軍~~~



挿絵(By みてみん) 馬雲緑(ばうんりょく)

「あんた、天水軍が出撃したで!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「それ、がら空きの城を乗っ取るッスよ!」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「おおっ! 姜維の言う通りだ。蜀軍がのこのこと出てきたぞ!」



挿絵(By みてみん) 鄧芝(とうし)

「ややっ! て、天水には意外と多くの兵が残っていますよ!」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「おめえらは姜維の策にはまっただ。ほれ、後ろを見てみい」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「今だ! 蜀軍の背後に襲いかかれ!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「くっ! 罠にはめられたのは自分らの方だったッスか!

ここは退却するッスよ!」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「地獄門の蓋は今開かれる……」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「アンタは邪魔ッス!」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「長坂坡も今は昔……。趙雲とて時の流れには逆らえぬか」



挿絵(By みてみん) 陳到(ちんとう)

「!? あの男、趙雲将軍の槍を受け止めた!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「よくわかんねッスけど、自分を年寄りだと馬鹿にしてるッスね!」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「否。我が刃は増長せず。ただ静謐に煌めくのみ……」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「何語をしゃべってるスか!

自分にもわかるようにしゃべるッスよアンタ!」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「他に敵兵はいないようだな。

よし、我々も出撃だ! 趙雲軍を包囲するぞ!」



挿絵(By みてみん) 馬雲緑(ばうんりょく)

「あんた、城からも敵が出てきよったで!

そない厄介な相手は放っといてはよ逃げんかい!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「しかたねッス。勝負は預けるッスよ!

自分は趙雲子龍ッス! アンタも名前を教えるッス」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「姜維…………それが亡き父の忘れ形見の一つ」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「よし、覚えたッス。アンタとはまた戦いたいッスよ!」



~~~蜀軍 本陣~~~



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ほう、天水くんだりに諸葛均の舌先三寸に惑わされぬ者がおるのか」



挿絵(By みてみん) 王平(おうへい)

「そいつは驚きだな!

諸葛均に嘘つかれんと、嘘だとわかってても騙されちまうもんな」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「策を見抜いたのは姜維っていう若者らしいッスよ。

一騎打ちしたッスけど、勝負がつかなかったッス」



挿絵(By みてみん) 張翼(ちょうよく)

「趙雲将軍と一騎打ちして勝負がつかなかった!? そ、それはすごい……」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「そういえば聞いたことがある……」



挿絵(By みてみん) 馬忠(ばちゅう)

「知っているのか李恢!」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「姜維といえば天水の麒麟児と呼ばれる若武者であろう。

丞相! それだけの逸材、できれば殺さず味方に迎え入れたいものです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「フン。言われるまでもない。貴様らの数倍は使えそうだ」



挿絵(By みてみん) 呂義(りょぎ)

「んぐっ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「南蛮名物・饅頭の開発者にあらせられる李恢殿ならば、

その姜維とやらを降す術も知っているのではないか」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「そ、その話はもういいでしょう!

――そういえば姜維は早くに父を亡くしましたが、母は冀城(きじょう)に健在です」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「なるほど。その老婆を人質に取れば良いのだな」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「そ、そこまでは言っていません!

しかしたとえば、我々が冀城を攻めれば

姜維を天水の城外へおびき寄せることはできるでしょう。そうしておいて――」



挿絵(By みてみん) 鄧芝(とうし)

「じ、じ、じ、丞相! た、大変です!」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「なんだ騒がしい」



挿絵(By みてみん) 鄧芝(とうし)

「わ、話題沸騰中のその姜維殿が――あ、いや敵に殿を付けるのも変か。

でも降伏するって言ってきてるし、

もう味方も同然だから殿を付けてもそんなに不自然じゃ――」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「な、なに? 姜維が降伏してきた――だと!?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「…………通せ」



~~~蜀軍 本陣~~~



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「古人は言った。時は金なりと。其の金言に従った迄の事」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「アンタらの手間を省いてやっただ」



挿絵(By みてみん) 高翔(こうしょう)

「手間を省いた……?」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「冀城の母を想わない日は非ず。

母の心胆を寒からしめるよりも運命に従うことを選ぶ」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「アンタらは冀城を攻めて姜維のおふくろを人質に取ったりするつもりだったろ?

この前は油断をついてやったけど、まともに戦ったら天水軍に勝ち目はねえだ。

だからおふくろを怖い目に遭わせる前に、降伏してやらあ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「…………気に入らぬ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「は、はい?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「崔諒や楊陵のような端役の顛末は描いておいて、なぜ姜維を省く?」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「御主人様、メタ発言は控えるです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「余の手間を省いただと? 姜維とやら。貴様ごときが賢しらに余を推し量るな」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「御主人様は自分の考えを読まれるのが大嫌いです」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「………………」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「なんかよくわからねが、おではもう帰るぞ。姜維をよろしくな」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「え? 待て待て。お前も降伏するのではないのか」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「おでが通訳してやらねと、

姜維が何言ってるかわかんねだろうから、親切で来てやっただけだ」



挿絵(By みてみん) 呂義(りょぎ)

「それならばなおのこと、お前がいなくては困るではないか!」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「姜維は友達だけんど、お前らはちげえ。おでは知らね。じゃあな」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「…………し、至急、姜維の言葉が我々にも通じるよう教育いたします」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「………………」



~~~天水~~~



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「き、姜維が蜀軍に寝返っただと?」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「蜀軍が冀城を攻撃したという情報が入っている。

姜維は母親思いで知られているからな。母親を人質にでも取られたのだろう」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「いや、取られてねえぞ。取られる前に降伏しただ」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「…………は?」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「ま、まだ人質に取られる前に寝返ったというのか?

先見の明ってレベルじゃねえぞ! ただの裏切りじゃねえか!!」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「り、梁緒! それでお前は姜維を引き渡しておめおめ戻ってきたのか!?」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「だっておでは蜀に降伏する気がねえもんよ。

おでは姜維がちゃんと降伏できるよう、友達として通訳してやっただけだ」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「ぐ、ぬ、ぬ…………。

梁緒、お前は蜀軍から何か密命を受けたのではないだろうな」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「は?」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「諸葛亮という男は権謀術数に長けていると聞く。

お前も本当は蜀に降伏していて、

この天水を内から切り崩す密命を帯びているのではないのか」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「た、太守。そのようなことを疑われては切りがないぞ。

だいたい梁緒は、そんな器用なことができる男では――」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「黙れ黙れ!

尹賞、そういえばお前も姜維とは仲が良かったな。

お前も姜維が出て行く前に何か策を託されたのではないのか!」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

(だ、駄目だこいつ早く何とかしないと……)



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「ええい、裏切り者の顔など見たくはない! 下がれ下がれ!

蜀軍のもとにさっさと帰るがいい!」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「…………太守は頭に血がのぼってるようだ。ここは下がんぞ尹賞」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「お、おう……」



~~~天水~~~



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「こ、これは夏侯楙様! よくぞご無事でお帰りに……」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「なんかね、よくわかんないけど

ショクグンの人が帰ってもいいよって放してくれたんだ」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「きっと夏侯楙様の威徳を恐れ、手出しができないと気づいたのでしょう」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「イトク……? もう! ぼくちゃんにわからない言葉を使わないでよね!

――あ、そうそう。姜維ちゃんにね、

これを梁緒ちゃんに渡してって頼まれたんだ。はい」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「これは姜維からの書状……?

…………なんだこれは。蜀軍に降伏する労を取ってくれたお礼の文ではないか。

あいつ、手紙は普通に書けるんだな。い、いやそんなことはどうでもいい!

なぜこんな物をわざわざ夏侯楙様に託したのだ?」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「なんかね、絶対絶対に梁緒ちゃんに渡してねって、

何度も何度もしつこく言われたんだよ」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「何度も何度も……?

わかった、読めたぞ。これは暗号だ! 梁緒に内応を呼びかける暗号なのだ!」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙(かこうぼう)

「アンゴー?」



挿絵(By みてみん) 馬遵(ばじゅん)

「こうなったら一刻の猶予もない。誰か梁緒を呼び出せ!

そうだ、尹賞もだ! あいつもどうせ裏切るに決まっている!

梁緒と尹賞を呼び出して殺すぞ!」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

(………………)



~~~天水 梁緒の居室~~~



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「…………そうか、太守はそう言ってただか。太守ははめられただ。

姜維は手紙でも話すのと変わんねえ言葉使うぞ。その手紙は偽物だ」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「俺が物陰で聞いているとも知らず、大声で殺せ殺せとまくしたてていたぞ。

一刻の猶予もないのは俺たちの方だ。かくなる上は本当に蜀軍に降るしかあるまい」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「んだ。上邽(じょうけい)城にいる弟も危険だな。あいつも誘うぞ」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「俺は手勢を集め、先手を打って逆に馬遵と夏侯楙を捕らえる。

お前は城門を開き、蜀軍を迎え入れるんだ」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「おう」



~~~天水付近 蜀軍~~~



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「おお……天水城の城門が開いていきます。梁緒が白旗を振っていますぞ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「フン。姜維の策は当たったな」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「孟達への手紙は失敗したですが今度は成功です」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「あれは孟達がしくじっただけだ。余の辞書に失敗の二文字はない」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「おでらは降伏するだ。こっちはおでと姜維の友達で尹賞ってヤツだ」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「は、はじめまして。降伏の手土産に

夏侯楙と馬遵を捕らえようとしましたが、逃がしてしまいました」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「お詫びってわけじゃねえが上邽城を守ってる梁虔(りょうけん)はおでの弟だ。

説得して降伏させてやるぞ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「城さえ手に入れば良い。駄馬を2頭逃がそうがどうでもよいことだ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「我々はこのまま長安を目指して進軍する。

お前たちには姜維の指揮下で天水・南安・安定の兵を率いてもらうぞ」



挿絵(By みてみん) 尹賞(いんしょう)

「は、はい!」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「姜維、別れたばっかりなのにまたお前と戦えてうれしいぞ」



挿絵(By みてみん) 姜維(きょうい)

「生者は必滅し会者は定離する。されど世の習いはそれだけに非ず……」



挿絵(By みてみん) 梁緒(りょうしょ)

「んだ。姜維の言う通りだ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「…………お、お前には姜維の通訳も頼むぞ」



~~~~~~~~~



かくして夏侯楙は敗走し、三郡は蜀の手に落ちた。

天水の麒麟児を加えた北伐軍は一路、長安を目指す。

だがその前には異邦より来たる刺客が待ち受けていた。


次回 〇九九   西羌の戦車団

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