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アイコン三国志  作者: 小金沢
第八章 夷陵の戦い
PR
84/126

〇八三   夢の終わり

~~~鄴(ぎょう)の都~~~



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「今日は呉質君の誕生祝いだと言って集まってもらったが、それは方便だ。

僕の即位を祝ってくれる諸君へのささやかなお礼のつもりだよ。

余興も用意したから、戦続きの疲れをこの宴で少しでも癒してくれたまえ」



挿絵(By みてみん) 桓階(かんかい)

「……陛下、恐れながら申し上げます。

南では劉備が孫権と激しく争い、その戦火はいつ我々にも飛び火するかわかりません。

このような時に宴を開くなどとは感心できませぬが……」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「桓階君は僕が皇帝になろうがそうやって諫言してくれるから頼もしいね。

でも心配は無用だよ。戦はもうじき終わりさ。

劉備君は桓階君と同じように戦を知らない。彼の敗北で戦は幕を閉じるよ。

だから高みの見物をしていればいいのさ」



挿絵(By みてみん) 桓階(かんかい)

「なるほど……。差し出がましいことを申しました。お許しください」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「いや、気づいたことがあればまたすぐに言ってくれたまえ。

諸君の進言もたまには参考になるからね。

それじゃあ僕はこれで失礼する。呉質君、あとはよろしく」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「あっはっはっ! 今日は私のためにこんなに大勢に集まってもらいうれしいなあ!

今夜は無礼講だ! 気軽に飲んで騒いでくれ!」



挿絵(By みてみん) 司馬懿(しばい)

「お誕生日おめでとうございます!

……ああっ、私ごときが真っ先にお祝いの言葉を述べるなんておこがましいことを!

申し訳ないです! どうぞ余興代わりに私の首をはねてください!!」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「あいかわらず超うぜえ……。

あ、いや、余興なら陛下はもちろん私も用意してあるから必要はない。

無礼講だと言っただろう。気にせず楽しんでくれ」



挿絵(By みてみん) 司馬懿(しばい)

「ご、呉質様はなんという深い懐の持ち主なんでしょう……。

呉質様バンザーーイ!!」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「……なにがバンザイだ。俺は曹丕に頼まれたから来てやっただけだ」



挿絵(By みてみん) 曹休(そうきゅう)

「曹丕陛下、でしょう?

口の利き方に気をつけないとデンジャラスな目に遭いますよ。

それにあなたは、ごちそうが目当てでやってきたんでしょうに」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「お前こそ合肥の守りを放棄してこんなとこに来ていいのかよ。

夏侯惇将軍や温恢が亡くなって人手不足なんだろ?」



挿絵(By みてみん) 曹休(そうきゅう)

「新たに満寵や賈逵が配属されたから問題ありませんよ。

ミーにとってはあなたに長安の守りが任されている方が

プロブレムですけどねえ」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「なんだと? 丸かじりされてえのかコラ」



挿絵(By みてみん) 王忠(おうちゅう)

「おいおい、いくら無礼講だからって

ケンカは良くないぞ、御曹司さんたちよ」



挿絵(By みてみん) 曹休(そうきゅう)

「何か臭いスメルがすると思ったらあなたでしたか。

そのマウスを閉じてはもらえませんかね」



挿絵(By みてみん) 王忠(おうちゅう)

「けっ。口の悪さじゃ陛下といい勝負だな」



挿絵(By みてみん) 桓階(かんかい)

「――ところで陳羣殿、あなたがこのような場に来られるとは珍しいですな」



挿絵(By みてみん) 陳羣(ちんぐん)

「いちおう私と呉質、司馬懿に朱鑠は陛下の「四友」と呼ばれている。

その一人の招きに応じず、余計な勘ぐりをされるくらいなら、

少しの我慢の方を選ぶ」



挿絵(By みてみん) 桓階(かんかい)

「な、なるほど……」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「――振り返ると、そこには誰もいなかった。

だ~れもいないんだ。だっているはずがないんだ。

そこは立つ場所なんてどこにもない、断崖絶壁だったんだから。

後で調べてみますとね。昔、その崖から飛び降りた少女がいたそうなんだ。

その少女が呼んでたのかなあ。あたしはね、そう思いましたね…………」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「そ、そうか……。あるんだなあ、そんな話が……」



挿絵(By みてみん) 杜畿(とき)

「……実は私にも似たような経験がある。

若い頃の話だ。自分は死神の使いだと名乗る女が現れてな――」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「と、杜畿殿まで怪談を話すのか? ご、ご冗談はおやめくだされ」



挿絵(By みてみん) 杜畿(とき)

「それが冗談ではないのだ。

一目でこの世のものではないとわかる女でな。おびえた私は命乞いをしたんだ。

すると女は、別の者を探してくるから、それまでこの話を他人にしないようにと言った。

まあ、もう昔の話だから大丈夫だろうが――」



挿絵(By みてみん) ??

「………………」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「ひ、ヒイイイイイイイ!?」



挿絵(By みてみん) 杜畿(とき)

「ど、どうしたのだ朱鑠殿。私の背後に誰か――うわあああっ!?

ま、まさか、私を迎えに……?

ま、待ってくれ! つい出来心で--」



挿絵(By みてみん) ??

「………………夫」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「え? いま何かおっしゃいましたか。

あたしたちに何か伝えたいことが、

この世に言い遺したことがあるんですかねえ?」



挿絵(By みてみん) ??

「………………夫はいる?」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「……へ? 夫?」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「騒がしいと思ったら妹の徳陽じゃねえか。

どうしたこんなところに来て?」



挿絵(By みてみん) 杜畿(とき)

「い、妹? 曹真殿の? 生きている?」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「夫の夏侯尚を探しに来たのか? ここにはいねえよ。

なあ徳陽や。もう夏侯尚のことは諦めろ。あいつは変わっちまったんだ。

また俺が別の亭主を探してやるから――」



挿絵(By みてみん) 徳陽郷主(とくよう)

「………………いないのなら、いい」



挿絵(By みてみん) 杜畿(とき)

「そ、曹真殿の妹御だったのか……。

私はてっきり――い、いや、なんでもない!」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「夫の夏侯尚がろくでなしでな。

あいつを放って妾ばっかりかわいがってんだ。

その上いろんなことがあって、妹はちょっと気を病んじまった。

面倒を掛けちまったな。すまなかった」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「い、いえいえ。めっそうもない」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「おーい。曹真殿に朱鑠。そんなとこで何をやっている。

こっちへ来てくれ。余興を始めるぞ!」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「余興だと?

………………なんだこりゃ」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「あっはっはっ! どうだ曹真殿に朱鑠よ。

この大道芸人たちは君らにそっくりだろう?」



挿絵(By みてみん) 王忠(おうちゅう)

「ハッハッハッ! こりゃいい! たしかにそっくりだ!

見ろよあの骨皮筋衛門を! 朱鑠にクリソツだぜ!」



挿絵(By みてみん) 曹休(そうきゅう)

「これは実にファニーですねえ。

あっちの芸人の太鼓腹は曹真と瓜二つですよ!」



挿絵(By みてみん) 司馬懿(しばい)

「あ、あはははは……。こ、これはおかしい……。あはははは……」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「ぐぬぬ…………」



挿絵(By みてみん) 陳羣(ちんぐん)

「………………醜悪な」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「おっと、ゲストはもう一人いるぞ。

なんと曹丕陛下が紹介してくださった、

こちらのドクロを頭にかぶった男は、世にも珍しい人食い人種だ!

……おやおや。よく見れば誰かに似ていますなあ」



挿絵(By みてみん) 王忠(おうちゅう)

「…………てめえ」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「うん? 何か言われましたかな王忠殿?

こちらは恐れ多くも曹・丕・陛・下のご紹介ですぞ。

それが面白くないのですかな? それともその昔、飢饉に苦しんで

つい人の死体を食べた時のことを思い出されましたか?」



挿絵(By みてみん) 王忠(おうちゅう)

「…………はっはっはっ。

こいつは一本取られたぜ。さすが曹丕陛下だ。

これは愉快。はっはっはっ……」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「いいかげんにしやがれ!!」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「ひいっ!?」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「俺たちはお前のように暇じゃねえんだ! 陛下の直々の頼みで、

任地から遠く駆けつけてやったというのに、この仕打ちはなんだ。

四友だかなんだか知らんが、武士を侮辱した報いを受けろ!!」



挿絵(By みてみん) 朱鑠(しゅしゃく)

「お、落ち着かれよ曹真将軍。

め、めでたい席にそんな物騒な発言はおよしください。

私は別に怒ってはいませんぞ。

ご、呉質。お前だって痩せてるじゃないか。

自分をさしおいて我々を馬鹿にするものじゃないぞ」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「は、ははは。た、ただの余興ではありませんか。

こ、これだから風流を解さぬ輩は困ったものだ」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「なんだと――」



挿絵(By みてみん) 曹洪(そうこう)

「やめろ曹真」



挿絵(By みてみん) 曹真(そうしん)

「お、叔父上」



挿絵(By みてみん) 曹洪(そうこう)

「俺が黙って見ているんだ。お前もこらえろ」



挿絵(By みてみん) 曹休(そうきゅう)

「そうですよ曹休。スマートじゃないのは身体だけにしなさい」



挿絵(By みてみん) 曹洪(そうこう)

「曹休、お前も口が過ぎるぞ。黙っていろ」



挿絵(By みてみん) 曹休(そうきゅう)

「う……ら、ラジャーです」



挿絵(By みてみん) 曹洪(そうこう)

「呉質殿」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「は、はい!」



挿絵(By みてみん) 曹洪(そうこう)

「曹真は気分が優れぬようだ。我々はこれで失礼させてもらう」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「え、ええ。お大事に……」



挿絵(By みてみん) 王忠(おうちゅう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 桓階(かんかい)

(先帝(曹操)の後を追うように夏侯惇様が亡くなられ、

曹一族の中で最も発言力を持つようになった曹洪様を、曹丕陛下は疎まれた。

些細な罪で投獄され、卞皇后の取り成しで助けられた今では地位こそ低いものの、

やはり曹洪様の言葉は重きを置かれている。呉質ごときでは歯向かえまい)



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「あ、アッハッハッ……。

き、興を削がれたな。孟達! なにか怪談話でもしろ」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「はいはい。これは益州に昔から伝わる話なんですが――」



~~~益州 成都(せいと)~~~



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「……いけすかねえ野郎だったが、諸葛亮の実力は確かだった。

だがもう諸葛亮はいねえ。漢中を奪った立役者の法正もだ。

そのうえ黄忠のジジイも倒れたし、なにより馬超将軍! あんたがいねえんだ」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「いや……。馬超は戦うぞ……。毒が抜けたらすぐに荊州へ向かうんだ……」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「さすがは将軍だぜ。だが遠征軍を見てみろ。

張飛まで死んじまったんだぞ。あの程度の戦力で孫権に勝てんのか?」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「馬超が行けば……勝てる……」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「戦力はまだしも、指揮をとるのはアホの劉備だ。

あいつらが呉軍に勝てるもんか。

だからよ、馬超将軍。これは千載一遇の好機だと思わねえか?」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「センダイヘイコウ……?」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「馬超将軍が外で兵を掌握し、俺が内で官吏どもを牛耳る。

そうすりゃ蜀は俺たちのもんだ。今の益州には俺たちを止められる者はいねえ。

なあ、やろうぜ将軍。俺たちで天下に号令をかけるんだ!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「馬超が……天下に……号令を……」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「そうだ将軍! 俺とあんたが組めば天下無敵の――」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「――ウチの亭主に馬鹿なことを吹きこまないでくれる?」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「な!? な、なぜお前がここに……。

留守にしていたのを見計らって来たのに……」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「アンタみたいな馬鹿をあぶり出すために留守だと偽ったのよ。

さて、亭主に反逆罪を犯させようとした罪はどうやって償ってくれるのかしら?」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「フ、フン……。ここでお前を口封じすればいいだけのことだ!

文官の俺だって女のお前には負けやしねえよ!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「あいにくやが、わてもいるで彭羕のオッサン」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「ば、馬岱…………」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「姐御、こいつどうしまひょ?」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「面倒くさいけど、こういう馬鹿なことを考える連中の見せしめのためにも、

獄へ送って処刑してもらいましょ。縛っちゃって」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「はいな。ほらほらおとなしくせえ、この反逆者が!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「………………董白」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「え? どうしたの? 何か欲しいの?」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「馬を出せ……馬超は天下に号令を……。

君のために……曹操を討つ……」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「…………バカ。そんなになってまで、なに野望に燃えてんのよ。

だいたい曹操はとっくに死んでんのよ……」



~~~呉軍 捕虜収容所~~~



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「………………」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「何をしているのだ馬鹿弟子があああっ!!」



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「うおおっ!? ま、また貴様か! いったいどこから湧いて出た?」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「質問しているのはこっちだ!

ようやく傷が癒えたばかりの半病人が何をしておる?」



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「知れたことを。劉備たちが関羽将軍の仇を討とうと戦っているんだ。

俺もそれに馳せ参じなくてはならん。わかったらそこをどけ!」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「だからお前はアホなのだあああっ!!」



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「うわあああああ!!」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「呉軍の捕虜のお前は厳重に監視されておる。

劉備に助太刀するどころか、ここを脱出する前に殺され――。

んん? また気絶しておるのか?

なんとヤワな奴だ。さては修行を怠っておるな!」



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「………………」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「……そういえば半病人だったのを忘れておったわ。

ワッハッハッ! ちょうどいい、このまま運んでいってやろう」



挿絵(By みてみん) 傅士仁(ふしじん)

「な!? き、貴様は何者だ!?」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「んん? 誰かと思えば傅士仁ではないか。

脇役の分際で関羽を裏切った後も二度も三度もしゃしゃり出てきおって。

どけ、酔舞! 笑傲江湖デッドリードライブ!!」



挿絵(By みてみん) 傅士仁(ふしじん)

「ぎゃああああああ!!」



挿絵(By みてみん) 呂常(りょじょう)

「しまった。ついワシが関羽の仇の一人を討ってしまったぞ。

まあそれも一興だ。ワッハッハッ!」



~~~夷陵 陸遜軍~~~



挿絵(By みてみん) 潘濬(はんしゅん)

「捕虜にしていた廖化が、傅士仁を殺して脱走したって? へえ」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「あんまり驚かないんですね?」



挿絵(By みてみん) 潘濬(はんしゅん)

「今のオレにとっちゃどうでもいい連中だからな。

――こことここ、それにここと……あと、ここもかな」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「ふんふんふん。なるほど~。いやあ助かりました!

荊州のことならやっぱり潘濬さんに聞くのが一番ですね。

これで劉備軍を残らず焼き殺せます!」



挿絵(By みてみん) 潘濬(はんしゅん)

「屈託のないヤツだぜ……。

いちおうオレ、かつての仲間を殲滅する企てに手を貸したんだぜ。

ちょっとは配慮を見せろよ」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「だってさっき、自分で昔の仲間はどうでもいい連中だって言ったじゃないですか?

実際そう思ってるんでしょ?」



挿絵(By みてみん) 潘濬(はんしゅん)

「…………ああ。思ってるよ」



~~~夷陵 張苞軍~~~



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「どけどけどけえっ! 俺の前に立ちふさがる奴は殺す!」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「無茶しすぎよ張苞あんちゃん! このままじゃ包囲されるわ!」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「うるせえ! 俺は范彊と張達らを殺すまで帰らねえぞ!

女は黙ってろ!」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「女はって……あたいだって張飛の娘よ

范彊たちを憎んでるのは同じだわ。

でも、それであたいたちにもしものことがあったら、

張飛ママが悲しむじゃないの!」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「ほら、関興だって無理せずここは引き上げようって言いたそうよ」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「…………ケッ。

まあ、俺たちの部隊があんまり突出したら劉備陛下の本隊も心配だからな。

ここはいったん引き上げて――」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「!?」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「ああっ! 本隊の方から火の手が上がったわ!

きっと敵に奇襲されたのよ!」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「こうしちゃいられねえ。早く本隊に戻るぞ!」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「!」



挿絵(By みてみん) 潘璋(はんしょう)

「おっと、どこへ行くつもりだ?

ほれほれ、てめえらの仇の潘璋さんはここにいるぜ」



挿絵(By みてみん) 馬忠(ばちゅう)

「ば、馬忠もここにいるぞ!」



挿絵(By みてみん) 范彊(はんきょう)

「は、は、范彊よぉっ!!」



挿絵(By みてみん) 張達(ちょうたつ)

「ち、張達だっているんだからね!」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「潘璋……馬忠……范彊……張達……」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「あ、あんちゃん! これはあからさまに罠よ!!」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「それがどうしたぁッ!?

仇が雁首そろえてんのを見過ごせるかよ!!」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「いけない! 関興ッ! あんちゃんを止めて!」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「…………ッ!」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「え? ダメよ! ここは私に任せてお前は本隊に戻れだなんて――」



挿絵(By みてみん) 張苞(ちょうほう)

「てめえらそこを動くなああッ!!」



挿絵(By みてみん) 関興(かんこう)

「ッッ!!」



挿絵(By みてみん) 星彩(せいさい)

「あんちゃん! 関興ーーッ!!」



~~~夷陵 劉備軍~~~



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「な、なんの騒ぎじゃ!?」



挿絵(By みてみん) 傅彤(ふとう)

「この本隊をはじめ、各陣営に次々と火を放たれています!

ここは危険です。一刻も早くお逃げくだされ!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「わ、わしは負けたのか……?」



挿絵(By みてみん) 王甫(おうほ)

「陛下、こちらです。

私の顔のように美しく脱出口を切り開きますので、ついてきてください」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「う、うむ」



挿絵(By みてみん) 丁奉(ていほう)

「待て! 逃がさんぞ劉備!」



挿絵(By みてみん) 傅彤(ふとう)

「ここから先へは進ませぬ!」



挿絵(By みてみん) 丁奉(ていほう)

「無駄な抵抗はよせ。見れば名のある将のようだ。

おとなしく降伏すれば厚遇するぞ?」



挿絵(By みてみん) 傅彤(ふとう)

「呉の犬めらに降る傅彤と思うてか! 行くぞ!!」



~~~夷陵 陸遜軍~~~



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「えへへ。劉備さんの陣営は長細~くなってたからね。

火攻めには弱いと思ったんだ。

潘濬さんに特に火のかけやすい所を教えてもらって、

劉備軍を分断するように燃やしてるんだよ。

ほら見て見て! 劉備さんたちったら散り散りになって逃げてるよ!」



挿絵(By みてみん) 吾粲(ごさん)

「そのうえ劉備の先鋒部隊を率いる張苞、関興らの軍を仇の潘璋らで釣り出し、

本隊を手薄にしたところを丁奉に襲わせる……。じ、実にお見事です」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「ありがと! でもこれからだよ。

逃げる相手を追撃する時が、一番効果的だからね。どんどん追撃しなくっちゃ。

韓当さんたちに合図を送って。あ、それから夷陵の孫桓さんたちも出撃させよう!

これから忙しくなるよ~」



挿絵(By みてみん) 駱統(らくとう)

「はッ! ただちに指示を送ります!」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「えへへへへ。燃えてるよ~。すっごい燃えてるよ~。綺麗だねえ……」



~~~~~~~~~



かくして戦線は破れ、劉備は窮地に陥った。

火計を用い戦況を逆転させた陸遜は、このまま劉備の首を挙げるのか?

桃園の誓いはいま、陸遜の前にあえなく夢と散ろうとしていた。



〇八四   蜀軍炎上へ

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