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アイコン三国志  作者: 小金沢
第七章 軍神・関羽
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77/126

〇七六   樊城の戦い

~~~樊城(はんじょう) 北 于禁軍~~~



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「曹仁のダンナがしくじったか……」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「というよりも、やはり関羽は強いと言うべきですな」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「関羽はすでに我らの到来を察知し、

樊城(はんじょう)・襄陽(じょうよう)は遠巻きに包囲するに留め、

我らを迎え撃つ構えを見せている」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「曹仁のような単細胞と、

我々エリート部隊である七軍の違いを関羽には教えてやろう」



挿絵(By みてみん) 董超(とうちょう)

「噂の関羽が俺たちと少しは戦えるかどうか楽しみだな!」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「……劉備軍は先に五虎大将という官職を定めた。

我はそのうちの二人、馬超・趙雲と刃を交え、

その強さを身をもって心得ている。

関羽はその五虎大将の筆頭だ。ゆめゆめ油断めさるな」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「ふむ。馬超か。

そういえば貴殿はその昔、馬超に仕えていたそうだな。

今でも昔の主君は恋しいのか?」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「どういう意味だ」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「そのうえ貴殿の従兄も劉備に仕えていると聞く。

たしかに、ゆめゆめ油断しないよう心せねばと思ってな」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「我が劉備軍に寝返るとでも言いたいのか!?」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「言われてみれば龐徳殿は、

主君を二度も変えた稀有な御仁だったな!」



挿絵(By みてみん) 董超(とうちょう)

「二度も三度も同じだと思われたら怖い怖い。

龐徳殿には背中を見せないようにせんとな!」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「………………」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「そのくらいにしときな。

戦う前から仲間割れしてたんじゃ世話ねえぜ。

おれっちは龐徳のダンナを信用してる。

んで、おれっちはこの軍の隊長だ。

アンタらにはおれっちと同じようにダンナを信用してもらうぜ」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「これからあの関羽と戦うというのに、お主らには緊張感が足りん。

しかと于禁将軍の言葉を噛みしめよ!」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「はいはい」



挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

『反省してまーす(チッうるせーな)』



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「于禁将軍! 前方を偵察してきたが関羽軍に動きがあったぜ」



挿絵(By みてみん) 朱霊(しゅれい)

「どうやら樊城の包囲は一部隊に任せ、

主力は我らのほうに向かってくるようだ。

どうする于禁?」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「あん? なにうちの大将を呼び捨てにしてんだよ朱霊」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「お前は于禁将軍の配下に降格させられた身だろう?」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「身の程と言うものをわきまえて欲しいものだな!」



挿絵(By みてみん) 朱霊(しゅれい)

「ぐぬぬ…………」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

(龐徳殿に噛みついたと思えば次は朱霊殿に……。

七軍だかなんだか知らんが、

権威を鼻にかけなんと横暴な奴らだ!

このような連中とともに関羽と戦わねばならんとは、

先が思いやられる……)



~~~樊城 南 関羽軍~~~



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「援軍に現れた于禁のほうから先に仕掛けてきただと?」



挿絵(By みてみん) 周倉(しゅうそう)

「到着するなり先制攻撃してくるとは、

ずいぶんせっかちなお人でやすね」



挿絵(By みてみん) 趙累(ちょうるい)

「たしかに于禁の軍は4万と多く、我々に匹敵している。

だが陣を敷くのもそこそこに仕掛けてくるとは思わなかった」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「いかがいたしましょう父上?」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「さすがは父上! 向かってくるならば

有無を言わさず迎え撃つまで、というわけですね!」



挿絵(By みてみん) 趙累(ちょうるい)

「待った若将軍。

先の戦で廖化が負傷し、また後方からの補給も長雨で滞っている。

敵の動きにつられ、いたずらに戦いを急ぐべきではない」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「補給が滞っているだって?

さてはまた糜芳(びほう)がちんたらしているのだな!

魏軍を片付けたら次はお前の番だと伝えてやれ!」



挿絵(By みてみん) 周倉(しゅうそう)

「落ち着きなせえ若将軍。

聞けば于禁軍は内部で不協和音を起こしてるそうだ。

我々もそれに付き合ってやる必要はありやせんよ」



挿絵(By みてみん) 趙累(ちょうるい)

「そうだ。敵は内部分裂を起こす前に

自軍を取りまとめようと、戦いを急いでいるのだ。

我々はそれを逆手に取るとしよう」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「趙累には何か策があるようだな。言ってみろ」



挿絵(By みてみん) 趙累(ちょうるい)

「下手に正面からぶつかれば、我々もただでは済まないし、

せっかく乱れている敵の結束を固めてしまうことになる。

ここは撤退すべきだ」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「撤退だと! 関羽は敵に背中を見せぬ!」



挿絵(By みてみん) 趙累(ちょうるい)

「尻尾を巻いて逃げるわけではない。戦略的撤退というものだ。

この戦で関羽将軍は、戦わずして勝つのだよ……」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「………………」



~~~樊城 北 于禁軍~~~



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「罠……だったってことか」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「あの関羽がただ逃げているわけがないとわかっていた!

だが我々は追うしかなかった。

主力を担う董衡ら七軍は、調子に乗って追撃を選択したのだからな」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「そうして気づけば低地におびき寄せられていた。

まさか関羽は折からの長雨を利用し、水計を狙っていたとはな」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「ただ強いだけじゃねえ。頭も切れやがる。これが関羽か……」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「朱霊のダンナは水に囲まれる前に逃げ出したようだな。

さすがダンナは目端がきくわ」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「朱霊は一兵卒にも等しい扱いを受けていたから

簡単に持ち場を離れられただけだ。

責任ある立場の于禁将軍や我々が孤立したのはやむをえない」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「ま、なんにしろおれっちの監督不足だ。

七軍の暴走を止められればよかったんだが――」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「魏軍に告ぐ!

おとなしく降伏すれば我が軍の船で救助してやろう。

だが抵抗するならばそのまま溺れ死ぬがいい!」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「降伏……ぶはっ。するぞ。降伏する! あっぷあっぷ。

俺は魏軍をやめるぞ関平ーーっ!!」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「う、于禁将軍! 我々も降伏しましょう!」



挿絵(By みてみん) 董超(とうちょう)

「そ、そうです! 中洲に取り残された我々はもう戦えません!」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「……わざと退却する関羽軍をかさにかかって追撃し、

おめおめと罠にはまった貴君らに

意見を述べる筋合いがあると思ったか」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「ぐぬう…………」



挿絵(By みてみん) 董超(とうちょう)

「か、かくなる上は……。

隙あり龐徳うう!! 龐徳は捕らえたぞ!!」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「でかした董超! やいやい于禁ども! 手出しするなよ!

龐徳を手土産に俺たちは関羽に降るんだ!」



挿絵(By みてみん) 董超(とうちょう)

「一歩でも動いたらブスリと行くからなあ!」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「愚かな……。裏切り者に捕らえられるような我と思うてか!!」



挿絵(By みてみん) 董超(とうちょう)

「うわっ!?

ち、力ずくで腕をほどいて――ぎゃああああっ!!」



挿絵(By みてみん) 董衡(とうこう)

「ま、待った! じ、冗談ですよ?

やだなあ。ほんの軽い冗談に決まって――うげええええっ!!」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「……うだうだしてたら、またこういう馬鹿が出てくるだろう。

龐徳、成何、東里袞。最後の戦いとしゃれこもうぜ」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「お供いたそう!」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「へへっ。天下に名高き于禁、龐徳と死ねるなら本望だ!」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「待たれよ!!

……死ぬのは我だけでいい」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「なんだと? おいダンナ。

そいつはいくらダンナの言葉でも聞けねえぜ。おれっちは――」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「兵のことを考えられよ!」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「!」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「御覧じろ。水に落ちた兵たちは次々と関羽に降っている。

だが辛うじて陸地に取り付いた者どもは、

まだ我々の様子を見て抗戦を続けようとしている。

ここで我々が死に臨んだら、彼らもまた全滅の憂き目にあうだろう」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「むう…………」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「敗れたのは我らの失策だ。兵に罪はない。

忠節の士をあたら道連れにすることはあるまい」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「だ、だからってダンナが一人で死ぬことはねえだろ!

おれっちだって――」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「我は馬超、張魯とすでに二度主を変えた。

三度も変える不忠の者にさせないでくれ」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「それを言ったら、おれっちだって昔は

鮑信(ほうしん)のダンナに仕えてたんだぜ」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「魏王の盟友だった方だそうだな。

主君を失い盟友に仕えるならば不忠ではあるまい。

それに、聞けば鮑信殿に託されたことがあるのではないか?」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「……鮑信のダンナはおれっちに、

代わりに曹操のダンナの行く末を見届けろ、と言った」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「その願いはまだ達せられてはいまい。

于禁殿、総大将である貴殿には兵を助ける義務もある。

お主らは生きられよ」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「わかった。私は龐徳殿に加勢しよう。

于禁将軍と東里袞は敗残兵をまとめて降伏してくれ」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「なんと!?」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「いや、私が貴殿に加勢するのはただの確率の問題だ。

一人では関羽に勝てないが、二人なら勝算もあるだろう?」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「………………」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「東里袞、お前はまだ若い。于禁将軍を助けてやってくれ」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「成何殿…………」



挿絵(By みてみん) 龐徳(ほうとく)

「もはや何も言うまい。

行くぞ成何殿! 今日が我らの死ぬ日だ!」



挿絵(By みてみん) 成何(せいか)

「おう!!」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「関羽に逆らうとは愚かな! 目にもの見せてくれよう!!」



挿絵(By みてみん) 趙累(ちょうるい)

「気をつけられよ若将軍! 龐徳は弓の名手だ!」



挿絵(By みてみん) 周倉(しゅうそう)

「あっしが水中から敵の小舟を狙いやす」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「………………ッ!」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

(鮑信……。龐徳……。成何……。おれっちは……。

曹操のダンナ…………)



~~~許昌(きょしょう)の都~~~



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「于禁君が降伏。龐徳君が戦死したか……」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「于禁の奴め!

30年魏王に仕えたお前が、急に臨んで3年も仕えていない

龐徳に劣るとは思いもしなかったぞ!」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「やめたまえ王朗君。ここは戦場ではないよ。

于禁君がいかに降り、龐徳君がいかに死んだか

僕らにはわからないんだ」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「は、ははあ! さ、差し出がましいことを申しました。

そ、それなら敵前逃亡した朱霊は文句なしにけしからんですな!

……ですな?」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「朱霊君は于禁君のもとで一兵卒のような扱いだった。

彼がどう動こうと戦況は変わらなかったろう。

それに彼も水を避けて多くの敗残兵を助けたそうだよ。

そう責めないであげたまえ」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「そ、そうでありますか……」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「まあ、王朗君のそういった潔癖さは

大きな美徳だから大切にしたまえ」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「あ、ありがたき幸せ!!」



挿絵(By みてみん) 華歆(かきん)

(王朗は潔癖ではなく、他人の落ち度を探し、

あわよくば蹴落としたがってるだけだがな……)



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「華歆君。なにを他人事のような顔をしてるんだい。

潔癖ぶりなら君も王朗君といい勝負じゃないか。

僕から見れば君たちは似たもの同士だよ」



挿絵(By みてみん) 華歆(かきん)

「わ、私がですか!? そ、そんな……」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「なにを不服そうにしているのだ華歆よ! 私の方こそ心外だ!

……あ、い、いや。

こ、これは決して魏王の言葉が不服とか、

信じられないとか、そういうことでは――」



挿絵(By みてみん) 劉曄(りゅうよう)

「そんなことより関羽に対する方策を考えなければならん。

樊城、襄陽は水と兵で包囲するに留め、

関羽の本隊は宛城(えんじょう)へと向かっているぞ」



挿絵(By みてみん) 蒋済(しょうせい)

「本当に宛城を攻める気はないでしょう。

上庸(じょうよう)を攻める孟達(もうたつ)や、

長安(ちょうあん)を目指す劉備と足並をそろえてくるはずです。

関羽の狙いはあくまでも――」



挿絵(By みてみん) 賈詡(かく)

「樊城・襄陽を餌に多くの援軍をつりだし、

上庸や長安方面の守備を緩めるのが狙いであろうな」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「だからと言って手をこまぬいていれば、

一転して瞬く間に宛城も包囲されるだろう。

すでに上庸も落城寸前という情報を受けている。

怖いね。あの関羽君が近くまで来ているなんて恐ろしいよ」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「ぎ、魏王ともあろう御方がそんな弱気なことを……」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「彼は一時期、僕の配下になっていてくれたから、

その鬼神のような強さを目の当たりにしているんだ。

できることなら許都を離れて、もっと北へ遷都したいくらいだよ」



挿絵(By みてみん) 華歆(かきん)

「我らは関羽を直接は知りませぬが、

魏王にそこまで言わせるとは……」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「現にいまも曹仁君、于禁君をたやすく破って駒を進めている。

関羽君を相手にしたら僕でも及び腰になるさ。

……だが手を打たなければ、もっと彼の脅威は広がってしまう。

とりあえずは宛城を守る徐晃君に出撃を命じよう」



挿絵(By みてみん) 劉曄(りゅうよう)

「曹仁、于禁が敵わぬ関羽に徐晃で歯が立つとでも?」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「関中からも援軍を回すよ。関羽君に勝つ必要はないんだ。

もとより正面切って関羽君と戦い、

勝てる将なんてこの中華にはいないよ」



挿絵(By みてみん) 華歆(かきん)

「な、ならばいかにして関羽を止めるのですか」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「正面切って戦わなければいいんだよ。

間もなく、彼らが動くはずだ。

彼らならば、あるいは関羽君を破れるだろう。

僕らはそれまでに、関羽君の足止めをしていればいいのさ……」



~~~合肥(がっぴ)~~~



挿絵(By みてみん) 張遼(ちょうりょう)

「けっ。まったくいけすかねー連中だぜ。

孫権のヤローどもはオレらに降伏したんじゃなかったのかよ!」



挿絵(By みてみん) 夏侯惇(かこうとん)

「表面上はただ国境近くで軍の演習をしているだけだ。

責めることはできまい。

……まさかやられる前にやっちまえとか考えてないだろうな。

早まった真似はするなよ、張遼」



挿絵(By みてみん) 張遼(ちょうりょう)

「わーってんよ。

孫権どもはオレらと同じ魏王の臣下だってんだろ?

オレらの方から先制攻撃したら、

仲間割れで処罰されんのはこっちだぜ」



挿絵(By みてみん) 夏侯惇(かこうとん)

「わかっているならいい。

……俺だって孫家の小僧の面従腹背には、

はらわたが煮えくり返ってるんだ。

その俺が我慢してるんだからお前も我慢しろ」



挿絵(By みてみん) 張遼(ちょうりょう)

「へいへい。

李典や楽進がおっ死んじまって、

代わりに夏侯惇の旦那が来ると聞いた時にゃ、

もっと自由にやれんじゃねーかって思ったけどよ」



挿絵(By みてみん) 夏侯惇(かこうとん)

「あいにくだったな。

俺は20万の相手に800で正面攻撃を仕掛ける誰かと違って慎重なんだ」



挿絵(By みてみん) 温恢(おんかい)

「夏侯惇将軍! すぐに来てください」



挿絵(By みてみん) 夏侯惇(かこうとん)

「どうした?」



挿絵(By みてみん) 温恢(おんかい)

「孫権の使者が面会を求めています」



~~~建業(けんぎょう)~~~



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「決まりだ。オレらは関羽を討つ」



挿絵(By みてみん) 呂範(りょはん)

「そして念願の荊州奪取を果たす。うむ、よくぞ決断した!」



挿絵(By みてみん) 全琮(ぜんそう)

「しかし同盟を破棄して奇襲を仕掛ければ、

劉備は激怒するでしょうな」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「案ずることはありませんよ。今のあっしらは曹操の臣下なんです。

あくまでも曹操の密命を受けて動くだけです」



挿絵(By みてみん) 呂範(りょはん)

「だがそれで劉備はまだしも関羽は納得するか?」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「奇襲されて納得する御仁なんてこの世のどこにもいませんよ。

要は有無を言わさず関羽をしとめればいいんです」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「…………呂蒙、おめェ焦ってんな?」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「いいえ」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「いんや。そのツラ見てこいよ。

孫策の兄貴や周喩が死ぬ前と同じ顔色しやがって。

おめェ、隠してやがるけどあと一年ももたねェんだろ」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「あっはは。艦長は何か勘違いされてるようだ。

あっしはいたって元気ですよ。

関羽を討つための謀議を重ねて、ちいとばかし疲れてますがね」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「……まあ、そういうことにしといてやるよ。

だが、今回の戦でお前に指揮を任せることはできねェ」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「!? 艦長、それは――」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「最後まで聞け。

おめェが作戦半ばでくたばっちまうとは思ってねェよ。

お前は与えられた任務は必ずやり遂げる男だからな。

だから、それを逆手に取ってやろうってんだ」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「……関羽を油断させるため、ですか」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「そうだ。おめェが病気で職を辞したと聞きゃあ、

関羽はオレらへの警戒を緩めんだろ。

その隙を、オレらが突くんだ」



挿絵(By みてみん) 全琮(ぜんそう)

「しかし、呂蒙殿の代わりになれる者がおりますかな?」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「オレは知らねェよ。それは呂蒙が決めるこったろ。

てめェの代役はてめェが選びやがれ。オレにケツ拭かせんな」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「…………では、陸遜をお使いください」



挿絵(By みてみん) 呂範(りょはん)

「陸遜? あのような若輩者に任せるというのか?」



挿絵(By みてみん) 呂蒙(りょもう)

「陸遜に足りないものはありませんよ。

あえて言うなら年齢でしょうか。

もっとも、若いことを劣っていると言い換えるなら、の話ですが」



挿絵(By みてみん) 呂範(りょはん)

「……言うではないか。面白い。

呂蒙が推薦するならば私に異存はないぞ」



挿絵(By みてみん) 全琮(ぜんそう)

「私にもありません」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「なら決まりだ。呂蒙は引っ込む。陸遜が出る。関羽を殺す。

一連の動きに時間はかけられねェ。一気に勝負を着けるぜ」



~~~~~~~~~



かくして関羽は于禁の援軍をも打ち破った。

しかしその背後に刺客の影が迫る。

呂蒙、陸遜、そして孫権。彼らの刃は関羽の肺腑に届くのか?


次回 〇七七   関羽の不覚へ

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