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アイコン三国志  作者: 小金沢
第六章 天下三分の計
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67/126

〇六六   その名は錦馬超

~~~雒城(らくじょう)~~~



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「あたしの古い友人に霍峻(かくしゅん)って男がいましてね。

ここから北に行った所にある葭萌関(かぼうかん)って砦を守ってるんだ。

これが馬鹿の付くくらい真面目な男で、冗談なんて一切口にしない。

そんな彼が「孟ちゃん、俺の砦を馬超が攻めてくるよ」

なんて言うんだ。

あたしは「よせや~い。馬超が来るわけないだろ」ってね。

だって馬超は漢中(かんちゅう)にいるんだ。

葭萌関を攻めてくるわけがない。夢でも見たんだろってね。

その時は思ったんだ。

でも霍峻は「本当だよ。本当なんだよ」ってしつこく言う。

あたしも彼の正直さはよく知ってるからね。

これはおかしいぞ。本当に馬超がいるんじゃないかって

だんだん思ってきてね」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「あわわわわわわわわ」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「そしたら霍峻が「孟ちゃんあれだよ!」って急に叫んだ。

あたしはびっくりして彼の指差す方を見た。

でも誰もいない。だ~れもいない。誰もいないんだ。

てっきり冗談だと思ってね。

あたしは「おどかすなよ~」って笑った。

でも霍峻は笑ってないんだ。

真剣な顔のまま「馬超が来る。馬超が来るんだよ」って

繰り返すんだ。あたしはだから

「どこから来るんだよ。馬超はどこから来るんだよ!」って。

彼に聞いた。そしたら彼は……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「彼は…………?」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「お前の後ろだあああっ!!!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ぎゃあああああああああああああ!!!」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「本当に馬超の軍が攻めて来ていたと。そういうお話です……」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「長い! 長すぎるぜよ!

つまり、葭萌関に馬超が攻めてきたと、それだけの話じゃな?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「曹操を窮地に陥れたっていうあの馬超ね。

これは劉璋と戦ってる場合じゃないわよ。急いで迎撃しないと」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「そうだ。貴様らはさっさと葭萌関に向かえ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「し、諸葛亮!?」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「亮さん! 来てくれたんか!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「貴様らでは馬超に勝つことはできぬからな。

余がじきじきに采配を振るってやろう」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「お、おまんが諸葛亮か……。

噂に聞いてたより強烈な奴じゃな」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「あいかわらず神出鬼没のバケモノみたいな男ね……。

でも残念だけど諸葛亮、アンタの出番はないわよ。

馬超なんてアタイが踏んづけてやるんだから!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ほう。貴様なら余の力を借りずとも馬超を破れると?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「馬超ってのは策もなんもない、猪武者らしいじゃないの。

それに豪傑と戦えると聞くと、

喜んで一騎打ちに応じるって言うわ。

それなら兵も策もいらないわ。

アタイが馬超を討ち取ってやるわよ!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「貴様が馬超を一騎打ちで破る……?

クックックッ……これは傑作だ。面白い冗談ではないか」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「なにがおかしいのよ!!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ならば問おう。貴様はこれまで一騎打ちで誰を討ち取ってきた?

さぞや名のある将の首を挙げてきたのだろうな」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「んぐ……。そ、そうね。

いちいちそんなこと覚えちゃいないけど、たとえば……。

ま、まず鄧茂(とうも)でしょ。

そ、それに郝萌(かくぼう)。あと魏続(ぎぞく)とか……」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「鄧茂(笑)。郝萌(笑)。魏続(爆)」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「そ、そうだわ! 呂翔(りょしょう)も討ち取ってるわよ!」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「呂翔(核爆)」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「これはこれは。さすが劉備軍の重鎮、世に名高き張飛将軍だ。

燦々たる実績であらせられるな。

――おお、よく見ればそこに趙雲がいるではないか。

参考までに聞くが、劉備に仕官してから

張飛の半分も経っていない貴様は今までに誰を斬った?」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「自分は大した実績ないッスよ。無名の相手ばかりッス。

呂曠(りょこう)、晏明(あんめい)、夏侯恩(かこうおん)、淳于導(じゅんうどう)、張繍(ちょうしゅう)、高覧(こうらん)。

あと侯成(こうせい)、何儀(かぎ)、邢道栄(けいどうえい)、陳応(ちんおう)、鮑隆(ほうりゅう)――」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「ちなみに私は張勲(ちょうくん)と曹純(そうじゅん)を殺してるです」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「う、うっさいわね! だまんなさいよ!

アタイだってそこにいる厳顔も、

あの張任だって、その気になれば討ち取れてたのよ!」



挿絵(By みてみん) 厳顔(げんがん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「それにアタイは官軍にいた頃は

一つの戦で八百八人の兵の首を挙げて――」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「要するに弱い者いじめが得意なのか」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「お前、意外としょぼいんだな」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「うるさいうるさいうるさーーい!!

見てなさいよ! アタイ一人で馬超の首を持ってきてやるんだから!!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ち、張さんが怒って出て行っちまったぞ。

本当に馬超さんと戦いに行ったんじゃろか……。

たしかに言われてみれば張さんの実績はあんまり大したこと無いけど、

ちょっと酷いんじゃないか亮さん」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「馬鹿め。

勝ち戦続きであの偽女は天狗になっていた。

油断せぬよう少々、お灸を据えて鼻をへし折ってやっただけだ」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「ということは、馬超の相手は張飛に任せるのか?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「言うまでもない。馬超の蛮勇に正面から立ち向かえる者がいるなら、

それに任せれば話が早いではないか。

余は貴様ら暇人と違い忙しいのだからな」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「…………と、とにかくここはワシが引き受けるから、

おまんらは張飛の後を追い、葭萌関に急ぐぜよ!」



~~~葭萌関 馬超軍~~~



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「おのれ葭萌関め! 馬超の攻撃をしのぐとは見事だ!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「すんまへん殿、葭萌関に劉備の援軍が入るのを防げんかった。

援軍を率いてる張飛ってのがえらい強くて歯が立たんわ」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「張飛か! その勇名は馬超も聞いたことがあるぞ!

特に誰か名のある大将首を獲っているわけではないが、

ものすごく強いとな!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「……それって本当に強いのかしら」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「ならば本当に強いかどうか馬超の槍が確かめてやる!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「はいはい。例によって待ちなさい。

アンタ一人で突っ込んだら危な――」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「見よ。葭萌関から誰かが一騎で出てきたぞ。

あれは噂の張飛ではないのか?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「アタイの名は張飛!

馬超! 今すぐアタイと戦いなさい! 一騎打ちよ!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「おお! 張飛が馬超を呼んでいる! 今行くぞ張飛!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「だから待ちなさいって!

せっかく敵の大将格がのこのこ出てきてくれたのよ。

遠くから矢を射かけて討ち取っちゃえばいいのよ」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「董白、君の言葉でもそればかりは聞けないよ!

そんな卑怯な真似は星になった父ちゃんが許さない!

馬超は正々堂々と一騎打ちをする!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「で、でも敵の罠かもしれないし、

そうじゃなくてももしアンタが負けたら――」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「馬超は負けない!!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「……あかん。病気で漢中に置いてきた龐徳がいればまだしも、

こうなった殿はもう止められへん」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「何を迷うことがある。要は馬超が勝てば良いのだ。

行け馬超。張魯師君のために戦うのだ」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「行くとも! 董白!

君のために張飛の首をかっ飛ばして見せるよ!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「……その董白は別にそんなこと望んでないんだけど」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「行くぞ張飛いいいいいいいい!!」



~~~葭萌関 劉備軍~~~



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「馬超おおおおおおおお!!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「張飛いいいいいいいい!!」



挿絵(By みてみん) 霍峻(かくしゅん)

「あ、あれが音に聞く張飛殿か。

あの馬超と互角に打ち合うとは……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「うんうん。どうじゃ、うちの張さんは強いじゃろ?」



挿絵(By みてみん) 鄧賢(とうけん)

「その調子よ張飛! 女のド根性見せてやんなさい!」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「本当に五分と五分だな。これはちょっと決着がつきそうにないぞ」



挿絵(By みてみん) 孫乾(そんけん)

「い、いいのですか軍師殿? このままでは張飛殿に危険が――」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「良いも悪いもない。

なかなかの余興ではないか。貴様ももっと楽しめ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ほれ張さん右じゃ! いややっぱり左じゃ!

左に回り込め! 正面にも気をつけるんじゃぞ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「アンタは! 黙って! 見てなさい!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「やるな張飛! 馬超とここまで戦えるのはお前で四人目だ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「結構いるのね! アンタ実は大したこと無いんじゃないの!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「お前こそ大した将を討ち取っていないと聞いていたぞ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「それ関中にまで知れ渡ってんの!?

だ、だったらそういうアンタは誰を討ち取ったのよ!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「郭援(かくえん)! 李通(りつう)! あと許褚とも互角に戦った!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「フ、フン……。まあまあやるじゃないのさ!

でもこれまで誰を討ち取ったかなんて関係ないのよ!

ここでアンタの首を挙げればいいんだから!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「同感だ!!」



~~~葭萌関 馬超軍~~~



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「……もう日が暮れてまうで。馬や武器を3回取り替えて、

食事休憩まで2回挟んで、それでも決着がつかん」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「だがあれだけの相手だ。張飛とやらを討ち取れば、

劉備軍の士気は地に落ちるだろう。

そうなれば葭萌関を落とし、劉備軍を蹴散らすこともたやすい」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「大丈夫か姐御? 顔色が真っ青やで。帰ったほうがええ」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「…………あたしは馬超の戦いを見届ける」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「ヒッヒッヒッ。殊勝な心がけだ。

張魯師君のためにもせいぜい夫の勝利を祈るのだな」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「………………馬超」



~~~葭萌関 劉備軍~~~



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「きゃあ危ない!!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「何をやっとるんじゃ張さん!!」



挿絵(By みてみん) 孫乾(そんけん)

「日が沈んで相手もろくに見えないのでしょう。

労も溜まっているしこれ以上戦うのは危険です!」



挿絵(By みてみん) 孟達(もうたつ)

「人間ってのは暗闇を恐れますからねえ。

あたしも以前、山に登った時に――」



挿絵(By みてみん) 霍峻(かくしゅん)

「孟ちゃんの長い話を聞いてる暇はない。

劉備殿、早く撤退命令を!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「もうちょっと見てたい気もするんじゃが……。

しかたない。撤退させとくれ」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「……駄目だな。ドラを鳴らしてもまったくの無視だ。

今の二人には雑音は聞こえないようだ。

これは劉ちゃんが自ら止めに入るしかないぞ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ええっ!? ち、張さんと馬超さんの間に割って入るんか?

わ、わしは嫌じゃぞ。誰か代わりに行ってくれんか」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「だが力ずくで止められそうな趙雲も黄忠も魏延も、

法正と一緒に雒城の守備に置いてきちまった。

いちおう義兄の劉ちゃんが命令するのが一番だろう」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「そ、そうじゃ、亮さんの知恵なら

二人を止められるんじゃないか?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「余は肉体労働は好まぬ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「な、なら月英さん!」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「嫌です。いやーん。月英こわーい。です」



挿絵(By みてみん) 孫乾(そんけん)

(女に頼ろうとしたぞこの男……)



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「お、お願いじゃ。後生じゃから誰か、誰か代わりに――」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「さっさと行け」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「うひゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「劉備!? ちょっとアンタ、馬で突っ込んできてどういうつもりよ!

ここは危ないから下がってなさい!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「だ、だって亮さんが的盧さんの尻をぶっ叩いて無理やり……」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「お前が劉備か? 何の用だ。見ての通り馬超たちは忙しい!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「そ、そのー。なんというか……。

もう暗いし、帰ったほうがいいってみんなが言っとるし……」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「子供か!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「うん? そういえば辺りが暗いな。これでは戦いづらい。

待っていろ、部下に火を持ってこさせる」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「そう来なくっちゃ!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「じゃ、じゃが――」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「なんやなんやお前は! ――劉備だと? 敵の大将がなんのつもりや。

一騎打ちの邪魔すんなら、わてが相手になるで!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「馬超の邪魔をするな!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ひいっ! わ、わしはそんなつもりじゃないぞ。

ただ、こう暗くては戦えぬからもう辞めたほうがいいと――」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「だから灯りを用意すると言っている!

馬岱! すぐに篝火を百本用意しろ!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「いや……劉備はんの言うことももっともや。

今日はここまでにして、明日改めて戦ったらどうや?」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「いいえ。すぐに火を用意しなさい。

言ったはずよ。あたしは最後まで見届けると」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「董白…………」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「べっぴんさん…………」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「待て! この勝負はここまでだ!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「次から次へと誰だ!

んん? よく見れば父ちゃんの旧友の李恢じゃないか。

劉備軍に降ったと聞いているが今さら何の用だ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「馬超、お前が劉備殿と戦うと聞いてあわてて飛んできたのだ。

諸葛亮殿は何も言わずいなくなるのだから困る……。

とにかく間に合ってよかったぞ。

お前たちは心得違いをしている。なぜ劉備殿と戦うのだ?」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「張飛を倒すためだ!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「あかん。また目先にだけ神経が行っとる。

……ええと、張飛を倒し、劉備を倒し、さらに劉璋を倒し、

益州を制圧するんが目的やで」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「そんな瑣末な目的は聞いていない。お前たちの最終目的はなんだ」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「…………曹操を倒すことよ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「ならばなぜ劉備殿と戦う?

劉備殿こそ長年にわたり曹操と戦ってきた方ではないか!

お前たちは目先の利にとらわれ、張魯に踊らされているだけだ。

劉備殿とともに曹操と戦うことこそが、真に歩むべき道であろう。

早く目を覚ませ!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「むむむ」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「何がむむむだ!

お前や董白がついていて、なぜ馬超に道を誤らせる?

死んだ馬騰も草葉の陰で泣いているぞ!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「父ちゃんが……泣いている……?」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「……李恢の言う通りね。

あたしたちは本当の目的を見失っていたわ。

劉備、聞いての通りよ。アンタに降伏するわ。

受け入れてもらえるかしら?」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「も、もちろんじゃ! 強い人やべっぴんさんは大歓迎じゃぞ!

……断ったらこの場で斬られちまいそうじゃし」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「董白のことだ。それも計算に入れているのだろう。

馬超、お前もそれで良いな?」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「よくわからないが馬超は董白に従うだけだし、

父ちゃんを泣かせるようなことはしない!

それに劉備陣営に入ればいつでも張飛と戦えそうだ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「ずいぶんと虫のいい話ね。でもまあ、アンタたちなら歓迎す――」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「今だ! うなれ業火よ!!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「な!?」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「ヒッヒッヒッ。馬超よ、お望み通り火を用意してやったぞ!」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「くっ! すっかり火に囲まれてしまった」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「しまった! この展開は予想できたはずなのに

あたしとしたことが……」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「ご苦労であったな馬超よ。

劉備をおびき寄せてくれた礼に、お前もろとも地獄へ送ってやる」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「おのれ裏切ったな楊白!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「先に裏切ったのはアンタの方でしょ!

……って突っ込んでる場合じゃなかったわね。やばいわよこれ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「あわわわわわわわわわ」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「ヒッヒッヒッ。裏切り者の馬超はもちろん

劉備まで討ち取ったとあれば、師君もさぞお喜びに――」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「くだらぬ」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「へ?

……お、おれの業火の術が……扇の一あおぎで……消え……た?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「興醒めだ。余興を楽しんでいたところに水を差しおって」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「火を消したのだから水を差したのは御主人様の方だと思うです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「黙れ。殺せ」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「はいです。殺すです」



挿絵(By みてみん) 楊白(ようはく)

「く、来るな! な、なぜだ! なぜ火が放てぬ!?

ひ、ヒィィィィィィィイイ!!」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「殺したです。11回刺したら死んだです。

手から火を出してたですけど仙人じゃないみたいです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「当然だ。

余ではなく劉備を先に葬ろうとする愚者が仙人になれるものか」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「助かったぞ! さすが亮さんじゃ!」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「あ、アンタが諸葛亮……? と、とりあえず礼を言っとくわ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「貴様の礼など不要だ。それよりもすぐに成都へ進撃しろ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「今すぐ成都へ? ずいぶん急じゃないの」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「降伏したという話が伝わるより先に馬超が成都へ現れるのだ。

クックックッ……。劉璋め、さぞや肝を潰すであろうな」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

(こいつのほうが曹操よりよっぽどラスボスっぽいで……。

もしかして、えらいヤツに降ってもうたんやないか)



~~~成都~~~



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「劉璋! 聞こえているか!?」



挿絵(By みてみん) 劉璋(りゅうしょう)

「な、なになに? 誰かがぼくを呼んでるよー!」



挿絵(By みてみん) 秦宓(しんふく)

「あれは――馬超!!」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「馬超は劉備に力を貸すことに決めた!

もはやお前たちに勝機はないぞ!」



挿絵(By みてみん) 劉巴(りゅうは)

「むう……。黄権(こうけん)は南方の防衛に向かっておるし、

戦える将がいない。たしかに厳しいな」



挿絵(By みてみん) 龐羲(ほうぎ)

「龐徳はどこだ! なにゆえ我々を裏切った!?」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「龐徳は置いてきた!

冷たいようだが、病でこの戦いにはついて行けない!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「わてらの真の目的は曹操の打倒や。

目的を同じにする劉備はんと組むのは当然のこっちゃ。

悪く思わんといてや」



挿絵(By みてみん) 龐羲(ほうぎ)

「くっ…………」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「成都は完全に包囲されてるわ。

おとなしく降伏しないなら一斉攻撃させてもらう」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「だ、そうだ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「劉璋さんやーい。悪いことは言わんから降伏してくれんかのう?

今さらじゃけど、わしは劉璋さんと戦いとうないんじゃ」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「本当に今さらだけどな」



挿絵(By みてみん) 劉璋(りゅうしょう)

「どどどどどどうすればいいの!? ぼく怖いよー……」



挿絵(By みてみん) 許靖(きょせい)

「こ、降伏しましょう!

馬超が敵に回ったらどうしようもありません!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「さっきから馬超馬超ってアタイのことも話題に出しなさいよね!

その馬超と互角に戦った張飛もいんのよ!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「及ばずながら趙雲もいるッス!」



挿絵(By みてみん) 厳顔(げんがん)

「劉備軍だけではない。

すでに益州軍の重鎮たちも多くが降っておる」



挿絵(By みてみん) 雷銅(らいどう)

「俺たちもあんたらとは戦いたくねえ」



挿絵(By みてみん) 呉蘭(ごらん)

「我々からも劉備殿に口添えいたす。心配せず降られよ」



挿絵(By みてみん) 呉懿(ごい)

「はいはい、それがいいですよ」



挿絵(By みてみん) 馬超(ばちょう)

「降るか戦うか早く決めろ! 馬超は気が短いんだ!!」



挿絵(By みてみん) 劉璋(りゅうしょう)

「怖いよー。えーん。えーん」



挿絵(By みてみん) 劉巴(りゅうは)

「………………ここまで、か」



~~~~~~~~~



かくして錦馬超は劉備に降った。

劉備軍は益州の首都・成都に迫り大勢は決した。

天下三分の計、その第一歩がいま刻まれようとしていた。


次回 〇六七   天下三分の計

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