〇五一 南郡の戦い
~~~徐州~~~
「援軍が到着したぞ。我らの勝利だ。勝ちどきをあげよ」
「惑わされるでない! 援軍など来ておらん! あれは撹乱だ!」
「いや……今回ばかりは本当のようだ。
呂範殿! 後方に敵の増援が現れたぞ!」
「荊州攻めには組み込まれなくてムカついてたけどよ。
太史慈と戦えるってーなら話は別だぜ!」
「よーし張遼! おいらと競争だ!」
「がっはっはっ。孫権軍は動揺しているぞ。一気に押しつぶせ!」
「かなり敵の数が多い……。ここは退くしかないぞ呂範殿!」
「無念だがしかたあるまい。退け! 退けーーい!」
「フッフッフッ……。私の徐州は誰にも渡しはせんよ……」
~~~柴桑~~~
「徐州を攻めた呂範軍、合肥を攻めた
陳蘭軍はともに敗走しました」
「さすが曹操だぞ。東方の守りも万全だったぞ」
「お前は曹操と孫権殿のどっちの肩を持つ気じゃ!
まったく嘆かわしいわい!」
「東方に曹操軍の一部を引きつけたおかげで、
赤壁で大勝を得られたとも言える。
戦略的に見れば我が軍の勝利だ」
「なら次は荊州に居残ってる曹操軍の大掃除と行こうぜ。
南郡には曹仁のヤローがいるんだって?」
(うむうむ。今日は居眠りもせず熱心ではないか孫権殿!)
「はいはい。曹仁は1万の兵で立てこもっております。
我が軍が逃げる曹操軍を追撃できないよう、
足止めするのが目的かと思われます」
「まずはあ、南郡を落とさないことには始まらないってことッスね」
「南郡の攻略は引き受けた。集中攻撃を掛けるとしよう。
――ところで、劉備軍に動きはあったか?」
「襄陽を攻撃しようとしているが、
文聘に道を阻まれているぞ。
襄陽は徐晃の軍が守っておるし、そう簡単には落とせんぞ」
「それなら劉備は放っておけばいいでゲスね」
「……あの諸葛亮が無策で襄陽を攻めているだと? 何かにおうな」
「たしかに怪しいが、狙いがわからねェ以上、
放っとくしかねェだろ。
少なくとも劉備は敵じゃねェ。今はそれだけわかりゃ十分だ」
「わかりました。それでは主力を引き連れて南郡の攻略にかかります」
「おう、任せたぜ。
オレはおふくろに呼ばれてっから、
ちょっくら里帰りするんで、後はよろしくな」
(……妙に熱心に軍議に参加していると思えば、
さっさと終わらせたかっただけか。
まったく! こんな時に呼び寄せる御母堂もまったく!)
~~~南郡~~~
「うおおおおおっ! どけどけどけえええっ!!」
「そ、曹仁将軍!?」
「わっはっはっ! 助けに来てやったぞ牛金!」
「総大将が自ら包囲された味方を助けに来るとは愚かな……。
曹仁も包囲して討ち取れ!」
「この俺様の前に立ちはだかろうなんて百年早いぞ!
どけえええっ!!」
「敵はわずかです。落ち着いて取り囲みましょう」
「左に回り込むでごわす!」
「曹仁は必ず城に戻るんだ。城門前に防衛線を築き待ち構えろ」
「無駄だ無駄だお前ら! うおおりゃああああっ!!」
~~~南郡 孫権軍~~~
「――それで曹仁には逃げ切られたのか」
「ウイッシュ。ガチで化け物ッスよあんなの。
いったん城まで帰ったのに、まだ味方が取り残されてると知るや、
戻って助けて、無事に城へ逃げ込んだッス」
「赤壁から連戦で我が軍の兵も疲れていたのだろうが……
それにしても曹仁恐るべしだな」
「南郡城は孤立している。
無理に攻めず、兵糧攻めに切り替えるか?」
「そんなに悠長にしている余裕はない。
城の周囲を視察して弱点を見つけるとしよう」
(周瑜め。焦っているようだな。護衛もろくに連れずに出てきたぞ)
「フッ。なかなか堅固な城だな。
守将が曹仁でなくとも苦戦するところだ」
「こっちにも曹操軍みたく投石車があればいいんスけどね。
そういえば長沙に発明家がいるって
聞いたんでえ、連れてきて造らせ――」
「今だ射ていッ!!」
「ぐっ!?」
「周瑜!? やばい! 敵がいるッス!」
「よし、周瑜に命中したぞ! 引き上げろ!」
「フッ……。
私としたことが……これでは孫策の二の舞ではないか……」
「しっかりするッス! 周瑜!!」
~~~南郡 曹操軍~~~
「矢には猛毒を塗っておいた。
肩口に命中しただけだが、あれでは身動きもままならないだろう」
「これで我々の勝利は疑いないな!」
「おい陳矯!」
「ど、どうされましたか」
「お前、たしかに周瑜に毒矢を撃ち込んだんだよな!」
「ええ。しかとこの目で見届けましたが――」
「周瑜の野郎が元気に攻撃してきてやがるぞ!」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「フッ。この程度の矢傷で私が参ると思ったか?
覚悟はいいな曹仁よ」
「あれは影武者ではない、本人だ……。
ええい、もう一度毒矢を浴びせてやれ!」
「無駄だ。私に同じ策は二度と通用しない」
「や、やせ我慢に決まっている! 迎撃しやしょう将軍!」
「いや……ここは退却するぞ!」
「な、なんですと!?」
「周瑜の野郎は覚悟を示したんだ!
命に替えても南郡を落とすという覚悟をな!
もう十分に本隊が撤退する時間は稼いだ!
これ以上、周瑜と戦う必要は無え!」
「し、将軍……」
(たしかに我らの任務は時間稼ぎだ。
その任は十分に果たしたと言えよう。
だが、それ以上に将軍は、
周瑜の命を賭した覚悟の程に感じ入ったのだろうな……)
~~~南郡 孫権軍~~~
「曹仁は城を捨てて襄陽へと退却したッス。追撃しますかあ?」
「私たちの目標は南郡城の奪取だ。それには及ばない……」
(まあ、追撃しようにも、ぶっちゃけ周瑜がこの状態じゃ無理ッスね)
「後は我々に任せて、周瑜様は後方に下がり療養してくださいませ」
「フッ……。これでは諸君の足手まといになるだろう。
済まないが、お言葉に甘えさせてもらう」
「いや、お前の覚悟は見せてもらった!
後は我々が引き受けたから安心しろ!」
(周瑜が深手を負いながら陣頭指揮をとったことに、
老臣たちも心を動かされたみたいッス。
ようやく周瑜を中心に全軍がまとまりそうッスね)
「し、周瑜殿! き、急報が入りました!」
「どうした」
「我々が南郡城を包囲している隙に、劉備軍が南下しました!
荊州南部の四郡を攻めています!」
「なんだと!?
我々が身動きできない間に火事場泥棒のような真似を……」
「このままでは四郡をかすめ取られるでごわす!
劉備軍を止めるでごわす!」
「……いや、それは無理だ。我々と劉備軍はあくまで同盟関係にある。
彼らがどこを攻めようと止めることはできない。
それにあの諸葛亮の策だ。
すでに四郡は劉備の手に落ちているだろう」
「第一、いたずらに劉備軍と衝突すれば、
また曹操が喜んで戻ってくるッスからね」
「諸葛亮の狙いははじめから襄陽ではなく、
荊州南部だったのだろうな……。だがあわてることはない。
南郡さえ抑えておけば、曹操はもちろん劉備にもにらみを利かせられる。
我々はまだ戦略的には一歩、先んじているんだ……」
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かくして周瑜は南郡を攻略した。
しかしその隙をつき、諸葛亮は暗躍する。
狙うは荊州南部の四郡。いま伏龍の牙が四英傑に迫ろうとしていた。
次回 〇五二 荊州南部攻略戦




