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アイコン三国志  作者: 小金沢
第五章 赤壁の戦い
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44/126

〇四三   名無しの軍師

~~~荊州(けいしゅう) 新野(しんや)~~~



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「劉備軍は包囲の輪に入ったぞ。今だ!」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「呂曠! 呂翔! 側面から攻撃を仕掛けろ!」



挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 呂曠(りょこう)       呂翔(りょしょう)

『おう!!』



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「いかん! 退け! 退くんじゃ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「だから罠だって言ったじゃないのよ!!」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「…………」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「ここは我らが抑えるゆえ、兄者は逃げられよ!

……と父は言いたそうにしています」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「言いなさいよ! 言えばいいじゃないの!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「先輩! こっちッス! 自分の後をついてきてください!」



~~~新野城~~~



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「いやーこてんぱんにやられてしもうたな!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「本当にもう……毎度毎度そうだけど死ぬかと思ったわ。

どうにか城に逃げ込んだけど、

曹仁はじきに城に迫ってくるわよ。どうすんのよ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「そこでじゃ張さん。どうしてわしらは弱いんじゃと思う?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「なぞなぞやってる暇はないわよ!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「いやいや、これが大切なことなんじゃ。

いいか、わしらが弱いのはな……。軍師がいないからじゃ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「あっそう。それで?」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「軍師を探すんじゃ! 軍師を迎えればこれで勝つる!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「いま? これから? 軍師を? この新野で?

はあ…………。いっそのこと誰かこのバカ殺してくんないかしら」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「? なんか言ったか?

ほれほれ張さん、さっそく探しに行くぞ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「……マジでこれから探す気なのね」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「灯台下暗しと言うじゃろ。

探してみればこの新野にいるかもしれんぞ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「はいはい、がんばってね。

アタイはちょっといま籠城戦のこととかで忙しいから、

代わりに関羽でもつれてきなさいな」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「そうか。じゃあ行くぞ関さん!」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「…………」



~~~新野城~~~



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「うんうん、やっぱり半壊してる南門が狙われるわよね。

そこはアタイが守るとして――」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ただいまー、張さん。ねんがんの軍師をてにいれたぞ!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「マジで!?」



挿絵(By みてみん) ??

「……ども、軍師です」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「あー。ええと、誰だか知らないけど悪かったわね。

このアンポンタンは後でアタイが殴っておくから、帰っていいわよ」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「いや……俺は単福(ぜんふく)って者だが、

任せてくれれば、曹仁を撃退して見せるよ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「聞いたか張さん! 頼もしいじゃろ!

単さんは水鏡先生の紹介で、わしを訪ねてきてくれたそうじゃ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「噂の水鏡先生の? それなら少しは使えそうね。

ふーん。ガタイはまあまあじゃない」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「……剣の心得も多少はある」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「どうせ人手が足りないんだから、

手伝ってくれるなら歓迎するわよ。

で、曹仁を撃退する策とやら、いちおう聞いてやろうじゃないの」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「籠城してもジリ貧に陥るだけだ。

……野戦を挑み、打ち破るしかない」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「や、野戦? 5千ぽっちの兵で、10万の曹仁軍に?」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「曹仁もそう思っているだろう。

……その虚をつき、逆手にとって見せる」



~~~新野 北部~~~



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「は、八門金鎖(はちもんきんさ)の陣だと? 劉備軍が?」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「なんだそのパチモンなんたらと言うのは!」



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「休・生・傷・杜・景・死・驚・開……八つの門を陣に築き、

敵を迎撃する複雑きわまりない陣形だ。

劉備や張飛がそんな陣立てを知っているとは思えん」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「だが現にパツキンなんたらの陣を敷いてるのだろう!?」



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「ああ、どうせただの悪あがきだ。

兵法書からそのまま引き写しただけの付け焼刃に違いない。

呂曠、呂翔。

八門金鎖の陣は生門から入り、景門へ抜ければたやすく破れる。

5万の兵を率いて切り裂いてやれ!」



挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 呂曠(りょこう)       呂翔(りょしょう)

『おう!』



~~~新野 北部~~~



挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 呂曠(りょこう)       呂翔(りょしょう)

『そ、そんな……5万の兵がなぜ5千ぽっちの兵の中で

散り散りになってしまうのだ!?』



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「敵将は迷子になって孤立したわよ! それッ!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「隙ありッス!」



挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん) 呂曠(りょこう)       呂翔(りょしょう)

『ぐわああああッッ!!』



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「……うまく行ったな」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「うまく行きすぎよ! 単福、アンタすごいじゃないの!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「よーしよし!

この勢いで残る曹仁軍も蹴散らしてしまうんじゃ!」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「……その必要はない」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「へ?」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「もう済んでいる……」



~~~新野 北部~~~



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「ご、5万の兵が壊滅だと!?

陳矯! 何がどうなってんだ!?」



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「わ、私にもわからぬ……。ただ一つ言えることは、

あの八門金鎖の陣は悪あがきどころか、

練りに練られた必勝の策だったということだ」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「く、くそ! こうなったら俺が自ら突撃して蹴散らしてやる!」



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「し、将軍! あれを!」



挿絵(By みてみん) 関羽(かんう)

「…………」



挿絵(By みてみん) 関平(かんぺい)

「曹仁よ、逃げ出すなら今のうちだ!

三國無双の勇者・関羽ここにあり!」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「関羽が背後に現れただと!?」



挿絵(By みてみん) 周倉(しゅうそう)

「これは絶景かな。曹仁殿が泡を喰っていらっしゃる」



挿絵(By みてみん) 廖化(りょうか)

「単福殿の智謀はなんと見事なことであるか! 俺は感動したぞ!」



挿絵(By みてみん) 陳到(ちんとう)

「廖化殿、泣くのは曹仁の首を獲ってからにいたそう」



挿絵(By みてみん) 裴元紹(はいげんしょう)

「突っ込むぜ野郎ども!」



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「将軍! ここは退くしかない!」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「劉備め……この屈辱、必ず晴らしてやるからな!!」



~~~新野 北部 曹操陣営~~~



挿絵(By みてみん) 李典(りてん)

「手酷くやられたようですね、はい。

予定を早めて助けに来てよかったです、はい」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「世話をかけたな李典! お前が来てくれなければ危なかったぞ!」



挿絵(By みてみん) 陳矯(ちんきょう)

「つい昨日まではいつもの劉備軍であった。

張飛、関羽らの武勇に任せた突撃をくり返すばかりで、

容易に我らの策にかかった。

だがさっきの劉備軍はまるで別物だ!」



挿絵(By みてみん) 李典(りてん)

「誰かが知恵を貸したのでしょうね、はい。

丞相(曹操)は長雨で到着の遅れている

第二陣の夏侯惇将軍が合流するまで、

進撃は控えるように、とのことです、はい」



挿絵(By みてみん) 曹仁(そうじん)

「くそ! 多くの兵を失っちまったからな!

無念だがそうするしかあるまい!

だが惇兄が加わったらこうはいかんぞ!

目にもの見せてやるからな!」



~~~許昌(きょしょう)の都~~~



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「ふむ。劉備君に軍師がついたと。

これまで彼に欠けていた要素をついに補ったのか。

それも曹仁君を破るなんてただ者ではない。

いったい誰を味方につけたのか興味深いね」



挿絵(By みてみん) 荀攸(じゅんゆう)

「名前だけはわかっています。単福という20代の若者だとか」



挿絵(By みてみん) 程昱(ていいく)

「単福? 何か引っかかるな……。

単という姓は仮名にもよく用いられる。

荊州で福という名の若者なら、徐福(じょふく)という者がおるな」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「徐福なら聞いたことがあるぞ。

友人の仇討ちに協力して投獄されたが、

助け出されて放浪しているヤツだ。

剣の使い手で頭も切れるという」



挿絵(By みてみん) 劉曄(りゅうよう)

「脱獄者なら仮名を使っているのもうなずけるな」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「なかなかの傑物のようだね。

劉備君に預けておくのはもったいないな……」



挿絵(By みてみん) 程昱(ていいく)

「そうじゃ!

たしか徐福の母親は荊州ではなく都の近くに住んでおる。

母親を人質に取れば、きっと寝返るじゃろう」



挿絵(By みてみん) 曹操(そうそう)

「おいおい、人質だなんて乱暴なことはやめたまえ。

しかし、徐福君の御母堂が近くにいると聞いては黙っていられないね。

都にお迎えして、もてなして差し上げるんだ」



~~~新野城~~~



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「なに、表さんが倒れたじゃと?」



挿絵(By みてみん) 孫乾(そんけん)

「はい、襄陽(じょうよう)の伊籍(いせき)殿から連絡がありました。

曹操軍の侵攻や、兼ねてから頭を悩ませていた

後継者問題で心労が重なったようです。

持病もおありだったとか」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「そういえば長男と次男の取り巻きが激しく争ってたわよね。

殺しても死なないようなジジイだったけど、ああ見えて弱ってたのね」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「先日には重臣の黄祖(こうそ)さんも

孫権に討ち取られちまったからな。悪いことが続いとるわ。

お見舞いに行きたいところじゃが、

曹さんの軍がすぐそこにいるから離れられんのう」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「いや、それ以前に見舞いに行ったら

蔡瑁に殺されると思うッスよ……」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「…………ども」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「うん? どうした単さん、青い顔しとるけど大丈夫か?」



挿絵(By みてみん) 単福(ぜんふく)

「お別れに来ました……」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「お別れ? 急になに言ってんのよアンタ。

なにこの手紙? 読めっての?

ふんふん。あちゃー……。こりゃお別れだわ……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「なんじゃなんじゃ。わしにも手紙を見せい。

ふんふん。曹さんが単さんの母ちゃんをもてなしとるのか。

良かったな単さん! 母ちゃんは単さんに

わざわざ手紙を送ってくるほど喜んどるじゃないか。

――で、これの何がお別れなんじゃ?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「………………」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「張飛は呆れて物が言えんようだな。

つまりな劉ちゃん、これは脅迫状だ。

単福の母上は預かっとるから、おとなしく寝返れってこった」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「あーあー、言われてみればそういう見方もあるのう」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「そういう見方しかないのよ!」



挿絵(By みてみん) 徐福(じょふく)

「……実は俺は脱獄者です。

単福というのも偽名で、本名は徐福と言います。

母には迷惑をかけてきました。

これ以上、苦労をかけたくありません……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「おうおう、母ちゃんは大事にせんといかんもんな。

すぐに会ってくるんじゃ」



挿絵(By みてみん) 徐福(じょふく)

「短い間でしたがお世話になりました……」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「こっちこそ。アンタがいなかったら、

今頃アタイたちは曹仁の捕虜になってたわ」



挿絵(By みてみん) 徐福(じょふく)

「……俺なりに軍を指揮するための兵法をまとめて来ました。

よかったら参考にしてください。

でも、なるべく早く代わりの軍師を探すことをおすすめします……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「じゃが単さんの、おっと徐さんの代わりになるほどの

軍師なんてそうは見つからんからな~」



挿絵(By みてみん) 徐福(じょふく)

「……俺くらいの才能なんて掃いて捨てるほどいますよ。

たとえば伏龍と呼ばれるあいつとか……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「なに!? いま伏龍と言ったか?

その名は水鏡先生からも聞いとるぞ。すげえヤツなんじゃろ?」



挿絵(By みてみん) 徐福(じょふく)

「……たしかにすごいヤツですが、別の意味でもすごいヤツです。

でもあいつが人に仕えるなんてことありえるのかな……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「よくわからんが、とにかく徐さんは

伏龍の居場所を知っとるのか? 教えとくれ!」



挿絵(By みてみん) 徐福(じょふく)

「……できれば俺から聞いたとは言わないでください。

あとでどんな仕返しをされることか……。

……あいつの名は諸葛亮(しょかつりょう)、字(あざな)は孔明(こうめい)。

もしあいつを軍師に迎えられれば、間違いなく天下が獲れますよ……」



~~~~~~~~~



かくして名無しの軍師は母のもとへ帰り、劉備はまたも軍師を失った。

はたして劉備は"伏龍"と呼ばれる男を迎えられるのか?

そして"伏龍"は窮地を脱する策を胸に秘めているのか?


次回 〇四四   三顧の礼

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