〇三六 激戦!烏巣特戦隊!!
~~~烏巣~~~
「どうしたお前たち! 押されているぞ!
それに敵将の首はまだ持って来られないのか!」
「そ、それが敵に援軍が到着しまして……」
「援軍? ここからでは見えないぞバカヤロー!
いったい何人来たんだ!」
「数こそ百足らずですが、
いずれも我々と同じ隠密行動に長けた暗殺部隊のようです。
隊長格が次々と討ち取られています。
間もなくここにも現れ――ぎゃあああ!!」
「截天夜叉・何曼! 参上!」
「その薄汚い黄色い出で立ちは……
てめえ黄巾賊だなコノヤロー!」
「薄汚い黄色はお互い様であろう。
さあ、覚悟してもらおうか!」
「待てい!」
「なに!?」
「黄巾賊よ地の声を聞け!
いかに表面を取り繕おうと、犯した罪の重さは隠せない。
人それを『糊塗』という」
「何者だ!」
「お前たちに名乗る名はない!
喰らえ! ストームキック!」
「くっ! 私の仮面を真似るとはこしゃくな……」
「これは俺のオリジナルだ! 貴様こそ俺の真似をするな!」
「どうでもいいが張郃、お前の勘が当たったな。
曹操軍の本陣攻撃の命令を無視して、
烏巣の救援に行くと聞いた時は、耳を疑ったが」
「我が剣が導いてくれたのだ。
高覧、ここは俺に任せてお前は他の者を頼む」
「ああ」
「よ、よし。私も反撃に移るぞバカヤロー!」
「まずいな。早く貴様を片付けて戻らなくては……」
「早く片付けられるのはお前の方だ。トォーーッ!」
~~~烏巣~~~
「……俺相手に二人がかりとは光栄なこった」
「別にあなただからというわけじゃないわ。
単に二人でやったほうが、楽に勝てるというだけ」
「逃げ場はないぞ」
(まともにやったら俺に勝ち目はないな……。
すると選択肢は3つか。
1、色男の何儀は突如、反撃の名案がひらめく。
2、仲間が来て助けてくれる。
3、助からない。現実は非情である)
「何をブツブツと言ってるの? 死になさい!」
(俺の答えは2と行きたいところだが、敵にも援軍が現れたようだ。
仲間にもそんな余裕はないだろう。あばよみんな……)
「ん? なんだこの音は――あああああ!?」
「い、石!? 眭元進が石に押しつぶされたわ!!
ど、どこから石が飛んできたの!?」
「投石車は拠点攻撃にも有効です。
そのために私が烏巣攻撃に加わっているのです、はい」
「よ、よくも眭元進を……。お、覚えてなさいよ!」
「……まさか石が助けに来てくれるとはな」
「あなたを助けたのは石や私ではないです。
投石車を手配した曹操様です、はい」
「そういうことにしておこう。あんた、さっきの奴を追うぞ」
~~~烏巣~~~
「これぞ武人のたゆまぬ研鑽が産んだ奥義!」
「ほらほらどうした! オイラはこっちだよ!」
「一つ! 二つ! 三つ! 四つ! 五つ!」
「オラオラ、雑魚は道を開けろっつーの!」
「な、なんて常識はずれの連中だ。
敵の半数は蹴散らしてしまったぞ」
「ようやく小生も彼らの性格をつかんだ。
ある程度は制御できるようになってきたな。
まだまだここからであるぞ」
「お、おい! 賈詡、あれを見ろ!」
「敵の増援……であるか」
「烏巣が危ういという急報は確かでしたな。
この窮地を救えば我らは英雄となりますぞ!」
「英雄か……ぐふふふふふ。よし、かかれい!」
「あれは袁紹の東部方面軍を統括している袁譚だな。
ふむ、戦線を放棄してここに出張ってくる
愚策をとるとは想定していなかったな」
「お、俺たちは勝てるのか……?」
~~~烏巣~~~
「くっ! さらに増援が現れるとはさすがに苦しくなったな……」
「周りを気にしている余裕があるのか? そこだ!」
「させるか!」
「そうやすやすと隙を見せてはくれぬか……」
「そこにいるのは敵将か!」
「袁譚様! こいつは俺に任せて、あなたは他の敵を――」
「今だ射ていッ!」
「なっ!? なにをするのだ袁譚様!」
「フン、敵将を討ち取る好機だというのに、
そこにいるお前が悪いのだ。かまわん、張郃ごと射殺せ!」
「な、なんということを……」
「何をぼさっとしている! どけ! ぐうううううッ!!」
「お、お前! なぜ俺をかばった!?」
「さあな……。私の獲物を横取りされたくなかったの、かもな……」
「なにが獲物を横取りだ……ッ!
お前がそんな男でないことは、剣を交えてわかっている。
俺との勝負を邪魔されたくなかったのだろう?」
「フッ……。それより、これを受け取ってくれ。
そんなダサい仮面なんかより、かっこいいだろ……?」
「何曼……。黄巾賊と罵って済まなかった。お前は、お前は……」
「よせ……。私はただの、黄巾賊、だ……。
それで……いい……」
「何曼!!」
「やっとくたばったか。それにしても張郃?
敵にかばわれるなんて怪しいなあ?
お前ひょっとして曹操と内通し――」
「……許せん」
「な、なんだと?」
「それが名族の御曹司のやることかーーッ!」
「か、何曼とやらの仮面を着けてなんのつもりだ!?」
「知れたことを……。
これより俺は曹操に、いや何曼の遺志に味方する!
行くぞ! サンダーボルトスクリュー!」
「い、いかん! 退け! いや後方に向かって全力で走れ!」
~~~烏巣~~~
「曹操軍の指揮官はあそこだ!」
「かかってこい! シャァコンニャロー!」
「烏巣からも反撃に転じてきたぞ!
ど、どうするのだ賈詡!?」
「……よもやここまで想定していたとはな」
「な、なに?」
「一度でもあなたを殺せると考えた私が愚かだったのだな。
曹操殿、貴殿に小生はかなわぬようだ……」
「か、賈詡よ。さっきからいったい何を言って――」
「さらなる援軍の到着だ」
「まさか黄巾賊と共同戦線を張ることになるとはな」
「だが曹操は袁紹と違い、俺たちを山賊だと蔑視していない。
あの黄巾賊どもの命を張った戦いぶりを見れば、それがよくわかる」
「ああ。――これより我ら黒山賊は曹操軍を救援する!
なお烏巣の武具・兵糧は略奪し放題だ!」
「ウオォーーーーーーーーーン!!」
「こ、黒山賊だと?
奴らは袁紹と同盟していたのではないのか?」
「曹操殿は敵陣営の切り崩しが難しいと見るや、
外堀を攻めていったのだ。それにしても黄巾賊に黒山賊か……。
ククク、曹操殿にしか作れない援兵であるな」
~~~烏巣~~~
「ぐはあああああ!!」
「敵将討ち取ったり!」
「ちぇっ、徐晃に先を越されちゃったよ」
「これで敵は一掃したかな。
後方の賈詡のダンナが襲われてるそうだ。
張遼が向かってるけど、おれっちらも助けに行こうぜ」
「于禁殿、大事なことをお忘れではないか」
「ああそうだった。それが目的で戦ってたんだったな。
よし、一部の兵糧を奪って、後は火を放っちまいな!」
~~~烏巣~~~
「ああっ! か、郭図! 兵糧庫の方角から火が上がったぞ!」
「あの様子ではもう消火もできませんな。
これ以上、烏巣に留まる意味はありません。引き上げましょう」
「そ、そうだな。
我々は烏巣に来なかった! そういうことにしておこう。
東方に転進するぞ!!」
「ああ……烏巣が燃えている……。
袁譚様も逃げていく……」
「ドラ息子め……。持ち場を放棄して乱入しておいて、
ろくに働きもせずに逃げおったか!」
「こ、高覧! どこに行くんだコノヤロー!」
「張郃も曹操に降った。
ドラ息子はやりたい放題する。戦も負けだ。
かくなる上は斬り死にして最期を飾るだけよ!
淳于瓊、お前も覚悟を決めるんだな。さらばだ!」
「ぐっ……」
「将軍! ここにいらっしゃったのね!
こ、これからどうするのよ」
「お、俺は……」
「大将はそこか! この俺に首を渡せ!」
「な、なんなのあいつ!?
ヒゲに武器をくくりつけて振り回してるわ!
いやーー! キモい! キモいわ!」
「ウオォーーーーーーーーーン!!」
「なんて大声なの!? み、耳が……ッ!?」
「そいやあああああッ!!」
「きゃああああああ!!」
「趙叡!!」
「囲まれたか……」
「これで王手。さて、どうなさいますかな淳于瓊殿?」
「………………コノヤロー」
~~~官渡~~~
「どうした四十万サンよ! 雁首そろえてこの程度か!?」
「この夏侯淵が弓に射抜かれたい奴は前に出ろ!」
「左です! 左に敵は回り込もうとしています!
騎兵を向かわせてください!」
「ええい! たかが三千の兵にいつまで手間取っているのだ!
さっさと片付けて曹操の首を持ってきて――」
「!? ば……馬鹿な」
「う、烏巣が……」
「燃えている……」
「あの炎を見たまえ!
烏巣が燃えている! 僕たちの勝利だよ!」
「やってくれたかあいつら!!」
「さあ、一気に反撃じゃ! 敵は浮き足立っておるぞ!」
「もらったああああ!!!」
「みwなwぎwっwてwきwたwww」
「め……名族が……負けるのか?
三千に……。曹操に……」
「パパ、しっかりして!
もうここは危険だよ! 早く逃げないと!」
「曹操……お前の覇道は……名族を越えて……続いていくのか……」
~~~~~~~~~
かくして烏巣は落ちた。
曹操は大逆転勝利を果たし、袁紹は一敗地に塗れた。
名族はこのまま没落の一途をたどるのか?
次回 〇三七 小覇王の死
 




