新米勇者は寄せ集め
「まいど、頼まれてた薬草納品に来たよ」
左側を長く伸ばしたアシンメトリー銀髪、オッドアイの少年エリヤ・アルフォート。
最近、勇者として働き始めた新米。
勇者ギルドから発行されたクエストの依頼品を、受付の女性に納品する。
「お疲れ様です。こちらが今回の報酬になります」
報酬を受け取り
「ゲートを利用するには、まだまだかなぁ」
エリヤは呟き
(この足音、街に入った時からずっとついてくるな)
止まると、向こうも立ち止まる。
(こっちから、仕掛けてみようか)
エリヤが路地を曲がると、相手は好都合とばかりに距離を詰める。
なぜならその先はーー
「行き止まりだ」
黒いロングコートを纏った隻眼の青年。
しかし、誰も居ない。
「あのガキ……どこに」
完全に油断している青年の背後から、銀色の狼が襲いかかる。
「がはっ」
狼がオッドアイの瞳で青年を見下ろし
「何の用だ。男に追われる趣味はないよ」
問い詰める。
「俺だって、後を追うならグラマラス美女がいいんだよ」
その狼の正体が自分が追っていた少年だと気付き
「狼にもなるのか。とんだ化け物だな」
青年は鼻を鳴らす。
「お前は、僕の正体を知ってる側の人間だね」
狼姿のエリヤが背中から退くと
「今日が、貴様の命日だ。ようやく取り戻せるぜ」
青年は、左手に魔法で炎を作り出す。
「俺の左目、返してもらうぜ。寄せ集め野郎」
エリヤは溜息をつくと
「嫌だよ。これ、もう僕のだ」
「ふざけるな。俺は奪われたんだよ……」
あれは、三年前の話だ。
聞いてもいないのに自分語りを始めた青年を見て、エリヤは呆れ顔。
ユニアス・ハーヴェスト、炎の魔法使いと呼ばれそこそこ有名だった。
そんなある日、白衣を着た優男が接触してきた。
「あなたの話を、小説にしたい」と、男はグラマラス美女の居る雰囲気のいい店に招待。
上機嫌で自慢話をしながら、ユニアスは美女たちと酒を飲んだ。
そして、いつの間にか眠ってしまった。
そして、気がついたらーー
「左目がなかったんだ!!」
俺の炎の魔術の元は真紅の瞳に刻まれている聖痕だと語り、ユニアスは嘆く。
「そして、噂で聞いたんだ。能力の高い人間の部品を集めて、ホムンクルスを作っている男の話を」
人里離れた場所に、男の研究所はあった。
しかし、研究所の中はもぬけの殻。
唯一の手がかりとして、身体がつぎはぎだらけの子供の写真を見つけた。
そして偶然、エリヤを見つけて後を追ってきた。
「……取り戻した所で、専門の人間が居ないと無理じゃない?」
溜息をついたエリヤに言われ
「迂闊、俺としたことが……」
そこまで考えていなかった、とユニアスは頭を抱える。
「まあ、作った父さんに言うのが一番だろうけど」
「それだ! 貴様の親父はどこに居る!?」
「ゲートの向こう側の魔界」
エリヤの言葉を聞いて
「まさか、人間の世界では飽き足らず……魔界で悪行を!?」
それは許せんぞ、と拳を握るユニアス。
「さあね。僕は、お金貯めて会いに行く決めてるけど」
「だから、勇者やってるのか?」
寄せ集めの化け物が(ホムンクルス)が、真面目に働いてるのを見てユニアスは目を見張った。
「クエストは稼げるからね。でも、まだまだ新米だから」
せいぜい出来るのは薬草の納品くらいだ、とエリヤは言う。
「……親父に、捨てられたと思わないのか?」
他人の身体の一部を繋ぎ合わせて、化け物をつくるくらいだ。
それを置いて行ったということは、性格的に飽きて捨てるのも容易だろう。
「まあ、その辺も含めて会ったら聞いてみたい」
父さんとは、一度も話したことがない、とエリヤは言う。
ユニアスは外に跳ねた赤毛を掻くと
「あー、嫌なこと聞いちまった」
俺、こういうの放っておけねぇ、と続ける。
「おい、お前が親父に会うの手伝ってやる」