表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6年制高校の超能力者  作者: ZIP
前半
6/20

二分島上陸Ⅳ

「うわ……」

駅の出入口の表示といえば鉄道会社の名前が大きく書かれている

のが例であるが、それは文字が読める程度の規模に留められている。

この出入口にはどこか存在感のある、PSIという銀色の3文字が出入口

に掲げられている。ここは17階建てというだけでも周りの低中層ビル

群に埋もれない存在だが、横幅や奥行きがとても広いPSIの

校舎らしい。俺の知るかぎりでは、高校の校舎に地下鉄の駅が

併設されている例は今いる場所以外にはない。

気のきいたことに、地下鉄出口のすぐ隣にこれもまた校舎に併設

されている休憩所があった。そこには冷房や自動販売機、

ソファーにシャワーまでもが取り揃えられている。意識せず

とも自動ドアをくぐって涼しい場所を求め、気付けば空調でひんやり

としたソファーに腰を下ろしてくつろいでいた。

「まずは学校に転校の挨拶でもするのか?」

「そのつもり。事務所もちょうど隣だからそろそろ行く?」

香織はよく冷えた清涼飲料水を飲みながらソファーに全身を

委ねて疲れも大分和らいだようで、俺はその提案に乗ることにした。

「外暑そう……」

休憩所の出入口で早くも弱気になる香織にはお構いなく、

自動ドアは真夏の熱気に俺たちを差しだすつもりだ。ならば

温度を下げるまで、温度を高めてフェンスを焼き切った昨日

とは反対に空気中の分子運動を少しおさえれば丁度良い温度に

調節できるはずだ。数年間能力を使っていなかった故に使い所が

いまいちわからないけど、今がそうなんだろう。もっと日常的に

使うべきなのか、それともみんな使っているのか。人口が激増した

島での超能力の使い方はやはりまだよくわからない。

「界斗、ここから事務室のドアまで涼しくするからちょっと

手伝って」

どうやらソファーの主も俺と同じことを考えていたらしい。

「涼しくする方法は?」

「強風を起して体感温度を下げる!」

そんな台詞を風に吹かれたら困るであろう服装でよく言えたな。

まあ、当の本人が気にしないというのなら提案通りに体感温度を

下げよう。

「ちょとー、動けない」

やりすぎた、これじゃまるで雨がない台風だ。広い範囲に強風を

おこすわけにもいかないので俺の身体を軸におこした渦風は

荒ぶっている。発生元の俺はあわてて風を止め、香織に続いて

事務室に入った。

「こんにちは。私たちは9月からここに転入する……」

それは先に声を出した香織が自己紹介的に名前を名乗ろうと

したときだ。事務員らしき人が香織にぴったり続いて言った。

「真崎界斗君に神坂香織さんですね」

「えっ!?あ……はい」

俺は勿論、香織も先の言葉を知っていたかのような事務員には

単純なリアクションしか取れないほど驚かされた。人の心を読む

能力にはこれまで出逢ったことが無いのだから当然だ。

ともあれ、島についてからパンフレット収集家になりつつある

俺は入口にあった資料置き場から拝借したそれを手に取って

眺めていた。それによると、

このサイコ・サイエンス・インターナショナルハイスクール

(PSI)はやはり全寮制で、全6学年・約600人の生徒を抱える

島内で最も古い私立高校だそうだ。

「そうか、二分島の高校は6年制だったな」

などと独り言をぽろぽろ漏らしながら続きを黙読して

わかったのは、ここがとても特色のある学校のようである

ということ、それは学校施設の規模にも現れていた。


<主な施設>

第一生徒寮(3F40人)、第二生徒寮(10F332人)、

借り上げ寮(36人分)、第三生徒寮(18F192人)、

第四生徒寮(40F936人)、第五生徒寮(建設中40F936人)、

本校舎(17F)、旧校舎、天然の運動場


「な、なんだこの寮の大きさは!」

18Fや40Fという学生寮とは思えないこの規模はふもとに目を

向ければ森林のごとく見える、建設途中のマンションや

オフィスビルさながらだ。なるほど、つまりこれは敷金礼金

どころか家賃まで無料でマンションに住めるという

とてもおいしい話なのだ。聞けば学費もただという。

ならば、希望が通るならさっそく第二か第三寮に入居希望を

出しておきたいところだ。

「その心配は要りません。君たちの入居先は第三寮で決定

してますから」

「……会話をするように心を読むのやめてください」

「ああ、これは失礼しました。私はここの事務局長をしている

天日といいます。今日からの入居なので、今から表の車で

寮に案内します」

見ため40代のメガネが似合う天日さんの運転する

ワンボックスカーで、入居予定となる第三寮に向かって

移動を始めた。

「その、左に見えるのが第二寮です。ここは生徒数が急増

したので数年ですぐに満室になりました」

運転をしながら天日さんが指をさす方向に見える第二寮は

パンフレットにもあるように10階建てで、男子寮と女子寮が

下層でつながるツインタワーのような構造をしている。

そこを通り過ぎると、第二寮と比べて一段と高い第三寮が

見えてきた。今こうして走っている道路は山の中なのだが、

平坦に舗装された4車線の周りに中層ビルが並ぶ

この光景はさながら地方都市の中心地に見えなくもない。

「さあ、ここがこれから生活する第三寮ですよ」

開放的な寮の出入口を通り過ぎて、脇にある数台分の

駐車スペースで車は止まった。

「いやー、君たちは運がいいのか悪いのか。実はここもあと

3部屋で満室になってしまうのでね、後の人は最近完成

したばかりの第四寮に入居することになってるんだ。

中には希望で民間の指定寮に入る人もいるんだよ。そうそう、

今はもう夏休み期間だからしばらく休んでいてください。

学校内の見学はいつでも自由にできるから、暇なときにでも

行くといいよ。で、これが部屋のカードキーだよ。

電子マネー機能もあるから再発行は有料なので無くさない

よう気を付けて。じゃあ、僕はガソリンを入れに行かないと

いけないからこれで」

運転席のメーターの表示を見ると残量は残り僅かになっていた。

「いろいろありがとうございました」

天日さんに礼をして、帰郷している人が多いのか閑散と

している寮に入っていった。

「で、部屋は何階なの?」

「俺のカードキーには1101と書いてあるから、たぶん11階だな。

香織は?」

「私は……あれっ?」

「どうしたんだ?」

「私のカードキーも部屋番号が1101になってる」

「…………」

「…………」

なんだこの間は。

「ねえ、さっきの天日さんだっけ? 私その人にちょっと急用が

できちゃった」

「奇遇だな、俺もだ」

「「天日さーん!」」

「はい、何ですか?」

残りのガソリンではガソリンスタンドに行く余裕もなかった

らしく、天日さんは寮の中で給油車を待っていた。

「なんで俺たち同じ部屋になってるんですか」

「それは、単に空き部屋がないからです」

「でもさっき、あと3部屋で満室になるって……」

「ええ、そうはいいましたがあとの2つは既に入居者が

内定していますので。では、ガソリンが届いたので

私はこれで」

天日さんはそういって寮の前に停車している給油車の方へ

去ってしまった。

「……とりあえず、まずは部屋を見てみましょうか」

「そ、そうだな」

11階までは地下鉄の駅のように階段を使う必要はなく、

エレベーターですぐに着いた。第三寮の構造はいわゆる

内廊下になっていて、とても落ち着きを感じる。

突貫で建設された林立賃貸マンションよりもはるかに

快適な生活を送れそうだ。

「1101、1101……あった、ここだ」

エレベーターを降りて、向かって左に位置する1101号室は

2人部屋ということだが、一人部屋ならともかくとして

これはあまり広いとは言えない。変わりにというのも

変な話だけど、縦に長いこの部屋には家具家電から食器

まで一通りが備わっている。なるほど、だから引っ越しの

準備すらせずにこっちに来れたのか。さて、最大の案件は

どうしたもんかな。空いてる部屋はもう無いみたいだし。

「ねえ、この扉は何なの?」

既に部屋中を探索し終えた香織が、玄関すぐのところに

ユニットバスとはさまれる形で存在する謎の扉を指差していた。

「何だろう、開けてみよう」

古典的なひねるだけのカギがかけられてる扉を開けて

壁を抜けるとそこには

「……え?」

扉を抜けた先の反対側と同じような部屋がもうひとつ

そこにあった。バックから学校のパンフレットを取り出して

もう一度見てみると、寮の紹介が載っているページに

「2人部屋3人部屋でもルームメイト同士のプライバシーが

尊重されるように配慮した構造になっています」

とあった。それならはじめから1人部屋だけにしろよ……

「なんだ、そういうことなら今後の生活は問題ないわね」

こうして、俺の新たな高校生活は夏休みの寮で始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ