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6年制高校の超能力者  作者: ZIP
前半
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二分島上陸Ⅲ

幾つもの折り目が付いた路線図に示されている駅の数は

ローカル路線バスの停留所のように多い。ターミナル駅

であるらしい海門駅を出てからはおよそ1分ごとに次の駅

へと停車している。もっとも、駅名を聞いてもそこが

どこなのかは路線図を見てもさっぱりわからない。

「次の駅で降りるわよ」

香織がそう伝えてきたのは、ゆっくりと動きだした車窓に

火流山遺跡博物館と書かれた駅名看板が見えたときだ。

だが、次の駅名は字が小さくて見失ってしまった。というのも、

今乗っている5号線は既に分岐した1号線、たった今分岐した

2号線、次の駅で分岐する4号線そして6号線と一部で線路を

共有する複雑な構造をしているみたいだ。そして、これから俺たちが

降りることになるらしい火流山遺跡博物館の次の駅は2つある。

『次はPSI二分政府庁舎、PSI二分政府庁舎です』

瞬き一つ分、俺の思考が停止した。

「えっ! 俺、PSIに通うの?」

「そうよ。ちなみに私もね」

どうやらそういうことらしい。

「いやいや、インターナショナルなんだろ?

つまりイングリッシュなんだろ?」

「名前にインターナショナルが入ってるだけで、

日本語で大丈夫よ。むしろ、生徒はほとんど日本人なんだから」

ああ、やたら国際やらインターナショナルを学校の名称につけたがる

日本人特有のあれか。それなら俺の悲しい英語力を悲観する

必要はなさそうだ。他に気になるとすれば……

「公立じゃないということは学費がそれなりに

かかるんだよな?」

両親と連絡がまだ取れていない以上、アルバイト経験ゼロ

の俺が学費を何かしらの手段で賄う必要が浮上した。

「学費なら要らないわ。なんというのかしら、

公立じゃなくて政府立? とにかく、

二分自治区の政府が運営してるの。島外の生徒でも

超能力を使える人に限って学費免除で入学できるのよ」

「それを一般に公立というはずなんだけど。ああなるほど、

だから政府庁舎とPSIがすぐ近くに建っているのか」

「そういうことなんじゃない? さあ、降りるわよ」

海門駅とは違って、PSI政府庁舎駅はとても簡素な構造をしていた。

地下鉄ということもあって、ホームはそれほど狭くないが

改札へ抜ける階段とエスカレーターで黄色い線の内側がふさがれる

程度には手狭だ。階段とエスカレーターが両方あるなら大抵の人は

エスカレーターを選択するだろう。俺たちも上るにはしんどそうな

階段を見てそうした。本土に比べてスピードがやや早い

エスカレーターを降りると申し訳程度のスペースの先に改札があった。

4つしかない自動改札の一つにカードをタッチして出口に向かおうと

案内板を探していると改札のほうからため息が聞こえてきた。

「疲れたのか?」

「疲れるとしたらたぶんこれからよ」

「どういうこと?」

「出口に行けばわかるわよ」

出口に行くだけで一体何がわかるというのだろう。

ようやく探し当てた向かって右側にあるPSIの出口に向かって

歩き出した。そして立ち止まって頭上を首の限界まで

見上げることになった。

「なに、この壁」

歩き出してほんの10歩、出口があるであろう通路の行き止まり

左を向くとはるか上の方から水滴が滴るコンクリートの塊が

俺たちを待っていた。

「……壁?」

「壁じゃないわ、階段よ。1200段の」

「1200段だって? 何でまたそんなすごいことに」

政府庁舎の最寄り駅がバリアフリー全否定とは恐れいった。

「二分島の地下鉄はね、あなたの手にあるパンフレットにも

書いてあると思うけど、勾配がないように造られたのよ。

で、PSIがあるのは山の上。もうわかるわね?」

偉そうな人は言った。階段がないならエスカレーターを

使えばいいじゃないと。

「エスカレーターはどこだ?」

「あるわけないじゃない。誰が健康的な学生の為に数百メートルもある

エスカレーターを作るのよ。まあ反対側の出口にならあるけどね」

「ならそっちに」

「ちなみに庁舎から学校までは登り坂だけど、歩くの? 

ていうか、炎天下の中で私を歩かせるつもりなの? 赤道に近いから

日焼け凄いんだよ?」

露骨な面どくさいアピールをされましてもね、答えは一つです。

「……帰る」

といって回れ右をしたら香織に両腕をつかまれて動きを

封じられてしまった。

「帰るって、どこによ? あなたにはこの島に帰る場所なんか

ないわよ」

「帰る場所が……ない?」

何を言っているのか即座に理解することはかなわなかった。

「PSIは全寮制なんだから当然、6年間寮で暮らすことになるわ。

知らなかった?」

「……今聞きました」

となると、残された道はこの階段を登るというできることなら

避けたい道だけか。いやまて、もし俺がこれから通うという

PSIが全寮制ではなかったらどうなっていたのか。なるほど、

むしろ毎日この恐ろしい階段をひたすら登る羽目にならずに

済んだことを感謝すべきなのか。現に、最初こそ何回か

登っているからと、どこか得意気で快調に登っていた香織も

あと400段あという所から徐々にペースが落ちていった。

地下鉄の発着は大方階段を伝わる風で察することができる

もので、登り終えるまでにそれらしき風は4回程感じた。

わかりきっていたことだが、階段を登り終えて炎天下の

地上へ抜けたときの安心感と疲れ様はとても自分達が

地下の改札から地上に出ただけとは思えなかった。

それにしてもこの出口は一体どこに抜けているのか、香織には

わかっている事だろうが地理的にも俺には検討がつかない。

なので、大きく深呼吸をして駅の出口がある建物を

見上げたときには驚き、反対側の出口に出ようと

していたことを心から後悔した。

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