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6年制高校の超能力者  作者: ZIP
前半
4/20

二分島上陸Ⅱ

島の立地を生かしたトロピカルな朝食を税金で

楽しんでからスーツケース1つ分程に収まった荷物を

まとめていたら朝の11時、もう入域審査の受付が

始まるであろうという頃になった。

『大手よりご到着の819名様、まもなく受付を

開始します。フロントを出てゲートまで進んでください』

ちょうど受付開始を知らせる放送も流れた。

「あれ? 昨日は822名様って言ってなかった?」

「そういえば人数が減っているような気がするな。きっと集計ミスだろ」

「それにしても、港は随分きれいになったわね」

「そもそもこの宿舎なんて施設、5年前にあったか?」

「建てられたのは3年前、それまでは泊まりなしで

到着後に即日審査ね」

どうやらここ数年で観光地化がかなり進んできて、

訪問数もそれと同時に激増。パスポートの提示は

おろか荷物検査もままならないザル状態となっていた

入域審査を円滑に進める為に新しく建てられたという

ことらしい。宿舎の裏に隣接した高い壁でできた

ゲートで荷物検査とパスポートの提示だけで審査を

スムーズに終えて、5年振りの二分島にようやく

上陸した。

「…………」

5年振りの上陸にも関わらず第一声が無言なのは

目の前に、ゲートのそばにまで広がる高層ビル群を

見たからだ。たった数年前まではのどかな風景が広がっていた

この島に一体何が起きたというんだ……

「どしたの? 体が固まってるよ」

「いやうん、えっと。このビル群は一体何

なんだ?

見おぼえがないんだが」

「これ? 界斗が出ていった5年前くらいから

急に再開発が始まってね、確か天日元始さん

っていう大金持ちが島の発展のためにって

理由で全額自腹」

「これだけのビルをたった5年で……?」

「なんだっけ、インスタント建築だったかな。

とにかく、凄い工事方法が出来たみたいでね、

目の前のビルなんてたったの3週間で建った

らしいの。昔の面影は界斗の家も含めて殆ど

無くなっちゃったかな。それにしても

今のほうが本土からの物資に全部頼ってた

頃より断然暮らしやすいってみんなは納得

してるけど」

「そりゃそうだろうな…………ちょっとまて!

 俺の家が消えただと!?」

「私の家は再開発ができないような所に

あったから残ったけどね。って、引っ越した

時に界斗が5年後にまた戻ってくるだろう

からその時に新しい住所を伝えるように

頼まれてるんだった。すっかり忘れてたよ、

ごめんごめん」

「それで、俺の家どこ? というか、親は

仕事で海外のはずなんだけど」

「でも、立ち退き料が引越し分よりもどんと

貰えたら海外にいてもとりあえず引越しちゃう

でしょ。はい、引越先の住所。スティックフォン

に送っておいたから」

どこかの国で仕事をしているらしい両親の

伝言をわざわざ教えてくれた事は有難い。

しかしな、そんな大事な事は普通忘れないだろ。

いよいよ俺の脳内での香織は天然で固定され

つつある。

「えっと、住所は二分3区13街区5番地、

スリーウォードタワー3105号室か。いや、

正直何処にあるのかわからんな」

「4年前に住所の区割りがあってね。3区は

島の東側にあって、ちょうどいま建設中の空港に

とても近い場所。なんか、つい最近にも住所には

単に区の番号だけじゃなくて区という文字を

入れることになったみたい」

「へぇそうなんだ。ところでさ、この3105って

つまり31階だよな? 俺の両親の今の仕事って

一体なんなんだ?補助金が出たとはいえ高層

マンションは維持費とかそれなりに掛かるだろうし」

知っているも当然といわんばかりの俺の質問に

香織は少しばかり難しい顔をした。だが、

この5年間で俺よりも俺の事を詳しく知っている

という事実に変わりはない。

「……それがよくわからないのよ。けど、少なくとも

海外にいるのは確かよ。たまに電話とか掛けみても

いつも話し中か電源オフなんだけどね」

「俺の両親は、俺が戻ってきたことを知って

いるのか?」

「いやいや、戻ってくることを知っているからこそ

引っ越し先を伝えるように私が頼まれたんじゃない。

大丈夫?」

「ああ。そう、だったな」

そういえば、なんで俺の両親は俺が戻ってくること

を俺が出ていった直後に予言出来たんだ? 

いや、そもそもなぜ香織は俺の記憶を5年も

たってから戻しに来たんだ? 2年でも3年でも

よかったはずだ、なにか頭に引っかかる。とは

言っても、5年も前の俺の記憶なんだ。あてに

なんかしないほうがいいのかもな。

「ちなみにその再開発ってので、まあ変化は

一目瞭然だけど。この島にどんな変化が

あったんだ? このビル群以外に」

「うーん、一番大きな変化はやっぱり人口かな。

ありえないくらい増加しちゃったからね」

そういえば、本土の授業で人口は390万人ほど

とか何とか聞いたような……

無性に気になってスティックフォンのブラウザ

機能で二分島の10年前の人口を調べてみた。

「ええっと、俺が出ていった2028年の時点で

10万9000人か」

東京都の半分ほどの面積があるといっても、他の

離島と比べたら相当多いほうだ。

「そして今年、2033年には390万238人……」

いや、いやいや、ちょっとまて。いくら自治地域

になって税金が安いからといっても人口増加

スピードにも限度というものがあってだな……

ということは、あの船に乗っていたのは観光客

じゃなくてみんな移住者なのか?

「どうなってんだこの島は……」

「ねえ、界斗の家の跡地がどうなったか知りたい?」

「そりゃ、家の元居住者として知る権利があるな」

「界斗の家は、なんと」

「なんと?」

「なんと」

「じらすなよ」

「区役所になりました~」

「…………」

「あれ、反応薄いよ?」

うわー、すげー反応に困る。

「俺の元住所はなんだっけ?」

「忘れたの? 住所は二分20区2街区1番地。

ほとんどが山の20区では貴重な平地の一等地だった

じゃない」

そうだったのか、俺はそんないいところに住んで

いたのか。まったくと言っていいほど実感が

わかないけど。

「話は変わるけど、こっちの高校にはいつから

いけるの? ってもう夏休みだった」

高校か。香織は今のところ住んでる21区の二分

第21高校に在籍しているらしい。第21、つまり

第21区の区立高校だ。この数年の人口増加で

区立高校の受験倍率が急上昇しているらしい。

俺の記憶……といっても5年前のだけど、

とにかくこの島には区立高校と私立高校以外に

何か特有の高校があったはずだ。でも名前が

思い出せない……

「サイコ・サイエンス・インターナショナル

ハイスクール、PSIのこと?」

「そうそう、それ……お前はいつから人の心が

読みとれるようになったんだ」

「ごめんごめん」

「で、俺はいったいどこに通うことになって

いるんだ? まだ何も説明を受けてないんだけど」

「それはすぐにわかるわよ。目的地に着いたわ」

目の前に扇形の、周りのビルと比べると背の低い

建物が建っている。

「このかまぼこというよりはたくあんみたいな

ビルは何だ?」

「3分の1丸ビルよ、名前そのままの形でしょ? 

テナントはほとんど観光客向けのものがほとんど

だったかな」

香織につられるままそのビルに入ると、すぐに

地下へと続く階段が現れた。

「この階段は何だ? 駐車場かなんかの入り口

か?」

まさか、この年齢でもう免許でもとっている

のか? いや、確か二分だと15歳で小型自動車

免許は取得できたはずだ。別にありえない話

ではないのか。

「駐車場なんてここにはないわよ、どうみても

地下鉄の駅じゃない。目が丸くなってるけど、

そんなに地下鉄が珍しい? ああ、そうね。大手市

にはなかったわね」

珍しい? 地下鉄の存在自体はそう珍しいもの

じゃないさ。ここが本土からはるか東南の離島

じゃなかったらな。

それに、大手市だってそれほど田舎じゃないさ。

もっとも、今の二分島には完敗するだろうがな。

「ここは海門駅。ここからなら島中殆ど、

どの駅にもいけるからまさに二分島の陸の玄関口

みたいな所よ」

香織がプライベート観光ガイドに見えてきた。

「どこでもといっても、島の西側にある路線だけは

なぜか独立しちゃってるの。ねえ、地下鉄には

こんなうわさがあるのよ。”双子の環状線”、

聞いたことない?」

聞かれるまでもなく、つい昨日、島へ帰って

きてこの変わりように驚いている俺がそんな噂を

耳にするほどの余裕を持っているわけがない。

そもそも、地下鉄があること自体たったいま

知ったんだから。

「環状線か、あったら便利そうだな。この島の

変わりっぷりを見ると、もう何があっても不思議

じゃなさそうなのに」

「そう、それが不思議なのよ。なんでだと思う?」

「なにが?」

「環状線がない理由よ」

「そこまで不思議なことでもないけど、そうだな。

予算が回って来ないとか? いや、この再開発で

それはないか。他の理由はわからないな」

「でも、考えてみるとなにかひっかかるでしょ? 

まあそれはいいわ。それじゃあ、これからこの

地下鉄で私たちが新学期から通う高校に行くわよ」

「私たちということは、俺もお前と同じ高校に

通うのか?」

「ええ」

地図をとりだして学校の分布を確認してみた。

区立はともかく、庁立高校という部類の多さが

かなり目立つ。

「なあ、この短期高校ってのはなんだ?」

「ああそれね。二分の高校って本土と違って

6年制なのよ。で、本土と同じ3年制の高校が

短期高校って呼ばれてるの」

ここは日本であって日本でない、なるほどな。

俺が考えているより二分の自治権限は高度な

ものになっているらしい。

「それで、結局どこの高校なんだ? そろそろ

教えてくれてもいいじゃないか」

「地下鉄に乗ればわかるわよ」

「乗ればわかる……ねえ」

こうも変ってしまった島では仕方ない、香織に

ついていくほかないか。数年前に出来たばかり

らしい地下鉄はまだどこか新しさが残っている。

俺はコンコースを歩きながら大量においてあった

路線図を一枚拝借して海門駅の場所を探して

いた。どうやら地下鉄には路線名や愛称といった

ものが無いらしく、路線図には単に1号線や

2号線などと記載されている。路線名すら決める

時間が無いほどの突貫工事でこの地下鉄は完成

したのかもしれない。

「それで、俺たちがこれから乗るのは何号線

なんだ?」

「5号線、島の中央にある丘隆地帯を横断して

そのまま北西に直進する路線よ」

路線図には……あった。今いる海門駅がある1区を

抜けて4区、丘隆地帯を横断してそのまま北西

の18区まで直進する路線か。

「てことは、この18区にいくのか?」

路線図の左上を指で示しながら聞いても香織の

返答は変らなかった。

「さあね。とにかく、乗ればわかるわよ」

「乗ればわかる……ねえ」

俺は本日2回目となる台詞を発した。

目の前に広がるに海門駅の改札口は地上のビル

と同様、たくあんを大きくした物を床に置いたら

ピッタリはまるだらうという形状だ。内装は

とてもきれいで、屋根から壁まで赤レンガで

出来ていて昨日見た埠悼の路面を彷彿とさせる……

「またか! またコンクリートをレンガ状に

くり抜いて色を塗った謎の偽レンガなのか!」

「まあまあ、最初は誰でもいっそレンガで作れば

いいのにって思うけど、そのうち界斗も慣れて

くるから。だいたい、今のこの島でそんなの一々

指摘してたらきりがないわよ」

おいおい、この島にはコンクリートレンガ職人

でも住みついているのか?

「ところで運賃とかいくらかかるんだ? 

何処で降りるかもわからないから購入は

まかせるけど。というか、一度俺の新しい家

を見ていきたいんだけど」

「どこまで乗っても160円、便利でしょ?」

「そりゃ便利だな、定期券も安く済みそうだ。

ところで、俺の家に行きたいんだけど」

「定期券? 毎日どこに行くつもりなのよ」

「どこって、学校に決まってるだろ。ところで

俺の家……」

「なら必要ないわよそんなの。はいこれ」

完全に俺の家についてスルーしている香織が

カードを差しだしてきた。

「これは?」

「アイランドカードよ、本土にもあるでしょ?

こういうの」

アイランドカード……券売機の近くにあった

パンフレットによれば、島内のバスと地下鉄の

全てをたった1枚で利用できるいわゆる

交通系ICカードの類らしい。

「ありがとう、使わせてもらうよ」

カードの表には島の地図と地下鉄の路線図が

プリントされている。自動改札を抜けて再び

階段を降りると、直ぐ目の前のホームに電車が

入ってきた。

「電車までたくあん。いや、これはかまぼこ

に近いな」

さっき取ったパンフレットには車両の説明が

ぎっしりと載っていた。

「長い……」

ざっくり内容をまとめると、急いで作った

せいでトンネルの断面積が小さくなって、

その小さいトンネルに車両の形状を合わせた

結果、まるで動くかまぼこのようにになった

そうだ。

「間違えて違うホームにいかないでね」

「はは、そんな子供じゃないんだからさ。

それで、どのホームだ?」

「今あなたが乗ろうとしている1号線

ホームの2つ 隣りよ。そんなに家へ

行きたいの?」

案内表示も見ずになぜ適当に乗りこもうと

したのか、その答えはすぐに見つかった。

大手市の外れでほぼ 毎日利用していた駅

にはホームが1つしか無い、そのときの

くせがついていたんだろう。

なるほど、俺の家へ行くには1号線を使えば

いいのか。また新しく知識を増やして、

5号線に停車中の電車に乗りこんだ。


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