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6年制高校の超能力者  作者: ZIP
前半
3/20

二分島上陸Ⅰ

『二分丸をご利用いただきましてありがとう

ございました。あと5分ほどで、二分域内港に

入港いたします。

ただいまの放送を以って本船は日本政府の行政、

司法下より外れ、二分自治政府の管理下に入ります。

今夜の入港後から翌朝の手続き終了までは必ず

入域管理宿舎にてお過ごしください。入域審査が

終わるまでは港の外には出ることができません。

違反者には罰金200万円以下、治安監視庁

監視2年以下、保健衛生庁特定事例局移送などの

刑罰が科せられます。

父島行きへの乗り継ぎ便をご利用の方は荷物検査場

へは行かずにそのまま国内線到着ロビーで

おまちください』

到着前から物騒なアナウンスが流れた。

「荷物の確認終わった?」

「大丈夫だ」

「ならそろそろ1階に降りましょうか」

「だな」

5階建ての二分丸は満室のようで、通路は出口へと

向かう人であふれていた。数年前から超能力ブーム

が訪れているとは聞いていたけど週1便しかない

とはいえ想像以上の乗客数だ。

「足下に注意してください。この先、本船と

タラップの間に段差があります」

港の旅客ターミナルはまるで地方の中規模空港の

ような構造をしている。

乗船タラップを抜けると透明度の高いガラスで

囲まれたターミナルビルの国内線到着ロビーに出た。

『822名様、ご乗船おつかれさまでした。

荷物検査場にて宿舎の部屋振りをします。

個室乗船の方は家族、友人等の同行者とはぐない

ように注意して進んでください』

「だってよ、神坂」

「昔みたいに香織でいいわよ」

「な、なぜこのタイミング? てか、そういう

ことは2ヶ月前に学校の屋上で再会したときに

言ってくれよ」

一度自分の中で定着した呼びかたを変えるのは

簡単な事じゃないんだぜ。

「ごめんね、なんか言うタイミングを

のがしちゃって」 

荷物を検査用トレーに載せ、微笑みをうかべて

そんな言葉を返された。

「ああ、うん。なら仕方ないな」

「せっかく島に帰ってきたんだし、近いうちに

お願いね」

「おう」

「こちら宿舎のカードキーになります。

本館5階までお進みください」

「おう……あ、すみません」

「どうしたの?」

「いや、なんもない」

『ただいま、グアム行きの最終乗船案内を

しております。手続きが済んでない方は

荷物検査場まで速やかにお越しください』

検査場を抜けたエントランスの放送が聞こえる。

このまま宿舎に直行することにした。

「え、グアム?」

「グアムよ、驚くほど珍しい?」

「何でグアム?」

「本土より圧倒的に近いからよ。二分島は

北マリアナ諸島の一番北側にあるから同じ

北マリアナ諸島のグアムとは兄弟みたいな

ものだって学校で習わなかった? 

感覚的には北海道の稚内から船でロシアに

行けるのと同じね」

今まで知らなかったぞそんなこと。それに、

北マリアナ諸島の一番北にあるのは珊瑚礁で

出来た浜島のはずだ。

「ということは、父島よりも本土から離れて

いるんだよな?それにしちゃ本土から

24、5時間で行き来出来るのは早くないか?」

「今は高速船が就航してるからね。15年前

までは39時間かかっていたそうよ」

「つまり、本土からはたったの週1便だけど

グアムからの便ならもっとあるとか

そんなことも?」

「たしか……旅客船だけでグアムから週6便、

あとパラオからも週1便あるわ」

「おいおい、それくらいしかないならこの

ターミナルビルはオーバースペックだろ」

「そうね、その上もうすぐ空港ができる

からますますこのターミナルビルの存在価値

が無くなっていくと思うわ」

「空港ができる……だと? あの今まで

不自然なくらいに計画が立ち消えていた

という空港が? たしか当時の都知事が

どうのこうのって」

「それ、私たちが生まれるまだかなり前の

ことじゃない?それこそ二分島が自治区

になる前、まだ東京都二分町だった頃の」

「そんな30年以上も昔のことだったのか。

で、いつできるんだ?」

「今年の10月1日、あと数ヶ月ね。本土

とのアクセスは飛躍的に改善されるのよ。

大手市の位置だと静岡空港に羽田空港、

調布空港という選択もできるわ。需要が

間違いなくあるのは私たちが乗ってきた

満員の船を見れば一目瞭然ね」

「それは良いな。それにしても、

ずいぶんと詳しいな」

「暇なときにスティックフォンでよく

ニュースとか見てるからかな、自然と

そういう知識が入ってくるの」

「ああ、昔から記憶力よかったもんな。

それにしても、この埠頭かなり長く

ないか? さっきからもう10分は歩いてるぞ」

まっすぐ進めば宿舎に着くという単純な

ことはわかりきっているがもうすっかり暗く

なっているせいもあってか、歩いても景色が

全く変わらない。

「こんなことなら平行エレベーターに乗れば

よかったといまさらながら後悔しているわ。

二分に戻るとき毎回ね」

「まて、平行エレベーターがあるなんて

聞いてないぞ」

「まさかエレベーターの存在に気づいて

なかったの? 足元照らして地面見て

みなさいよ」

言われるがままにライトで足元の地面を

照らしてみた。

「無駄な公共事業の典型例みたいなレンガ

造りの埠頭に埋め込まれたこの直線状の鉄は

何だ?」

「線路を見てそんな表現をする人は初めて

見たわ。あと、これレンガじゃなくて

レンガの形に掘って色を塗ったコンクリート よ」

「無駄な公共事業の優等生! そして線路、

気づかなかった」

表現関連に関しては、記憶が死んでいるなどと

トンデモ表現を使うお前にだけは言われたくないな。

「この線路は平行エレベーターの軌道よ。もう

ライト消したら?」

「とっくに消してるけど」

「なら段々強くなってきてるこの光は一体

なんなの?」

いやまさかな、自分の勘が正くないことを祈りつつ

後ろを振かえった。

「……逃げるぞ! っていない!」

「何してるの、ひかれるわよ」

しれっと逃げていた香織に続いて迫りくる

平行エレベーターから間一発のがれることができた。

「あ、見えてきた」

香織が指さす方向に宿舎の明りがぼんやり見える。

そして周りに人は殆どと言っても良いくらいいない。

考えられる理由は一つ、みんな平行エレベーターに

乗るという賢明な選択をしたのだろう。

「その、平行エレベーターには途中から

乗ることできないのか?」

「その手があったわね、確かそこに設置して

あるボタンを押せば停止してくれるって

聞いたことがあるわ」

「これか」

殆ど使われることがないのか、四文字の漢字が

読めないほどに赤錆をかぶった状態で放置

されている。高さ1メートルくらいの鉄柱の

上にあるボタンの周りは黒と黄色のテープで

綺麗に装飾されていた。

「……香織、そのボタン絶対に押すなよ」

「それは押せという振りなの?」

芸人のようなノリを覚える必要は一切ないことを

早急に教えてやりたい。まずい、人指し指が

今にも非常停止ボタンに触れそうだ。これを

押したらどんな面倒な事がまっているのか、

言うまでもない事だ。しかもここは日本で

あって日本でない。法律だって色々と変って

くるわけで、最悪、鉄格子の中で夏休みを過ごす

羽目になるかもしれないというわけだ。

「いいか、そのボタンは非常停止ボタンだ。

あとはもうわかるな?」

「ということは、今みたいな状況で使うために

あるのね」

「いやいや、今は非常事態でもな……」

辺りを見回してみると、鉄格子がそこにあった。

どうやらいつの間にか線路を囲むフェンスの中を

歩いたようだ。

そして迫まりくる折りかえしの平行エレベーター

か、なるほどな。

「これは非常事態だ! ってまたいない!」

「来てる来てる!」

「い、いつの間にフェンスの外まで逃げたんだよ」

「さっさと超能力でフェンスを壊せば

いいじゃない」

そうだよ、なぜ今までその発想に至らなかったんだ。

このフェンスは直接地面に刺さっているわけ

じゃない、つまり超能力を行使できるじゃないか。

超能力を使うときにはただ念じればいい、

そう教える教師が本土には多い。その説明は完全な

間違いではないけれどかなり不十分だ。

例えば超能力を使ってフェンスを壊すときにはまず、

フェンスを分子レベルか原子レベルで完全に

破壊するのか、あるいわ網の繋ぎ目を切断

するのかを決める。完全に破壊するのは

後々まずいことになる。日本の法律でいう

器物損壊だ。直ぐにでもフェンスの外に出たい

のでここは繋ぎ目だけ切断させてもらおう。

繋ぎ目を破壊する。つまり、フェンスの材料である

金属の金属結合をほどくことを想像すればいい。

やり方自体は想像次第でいくらでもあるけど

今は時間がない、単純に繋ぎ目周辺の空気の

分子運動を急加速させて金属の融点より高く

するイメージで念じることにしよう。

「早く逃げて!」

香織の声が聞こえるこの一瞬の間にどれだけの

熱量が発生したのかはわからない、フェンスは

手で揺らした時にでるような金属音も全く

立てずに四角くスッパリ切断された。

「うおっと」

フェンスに作った穴を頭から飛びこんでつま先が

通り抜けた瞬間に無人の平行エレベーターが

生身の人間が正面衝突したらおそらく軽傷では

済まないスピードで通りすぎていった。高速と

までは言えない中途半端で一定の速度が無機質で

一層不気味に感じる。切りとったフェンスの縁

からは局地的な高熱に耐えきれず燃えた塗料が

白煙を出している。

「あ、危ねえ……」

「界斗、まさか本当にフェンスを壊すなんて……

ほんの冗談のつもりだったのに」

「冗談には聞こえねえよ、そもそも壊す以外に

選択肢はないだろ」

「いやいや、フェンスを登るっていう単純な方法が

あるじゃない。私もそうしたし」

「はっ? 何言ってんだよこんな高いフェンス、

普通の高校生があんな短時間で登れる

わけないだろ」

「そのままならね。でも無重力なら話は別でしょ?」

「ここは月のような軽重力じゃないんだから、

重力は当然あるだろ。あっても人工無重力装置が

学校とかにあるくらいで……」

「そう、だから私の体から質量を無くして無重

力に似た状態を再現したの。重さが殆どない

状態だったから結構上まで飛ばされちゃって、

降りるのがかなり大変だったけどね」

「そうか、それならフェンスくらい軽く一蹴りで

飛びこえられる。わざわざ破壊する必要はない

…………結構上まで飛ばされて一体どうやって

戻ってきたんだ?」

俺の問いかけに腕を組んで何やら考えこんだと

思ったらこう答えた。

「何かにぶつかって……落ちてきた?」

もう意味がわからない、そもそも俺が香織の姿を

見なかったのは時間にしてほんの40秒程度だ。

カップ麺の麺がお湯を吸いはじめるかどうかの

短時間にこいつは一体何をしてきたんだ?

「う~ん、そこから先はよくおぼえていないの。

でも結果的には無事だったわけだし」

「そうだな、無事で何よりだ。これ以上は

俺の脳が処理能力の限界を突破しそうだから

考えない事にするよ」

なんだかんだで色々あったものの宿舎には

残り徒歩20分ほどで無事、辿りついた。

やや広い2人部屋のベットに備え付けてある

木目調の電子時計は船を降りてから既に1時間

も経過していることを今にも睡魔に押し殺され

そうな俺たちに示している。そろそろ思考回路が

停止しそうだ、もう寝よう。

_______________


『あと5分で起床時間です』

アラーム、君はなぜ起床時間の5分前にそんな

音声を鳴らしてくれてるんだ……

あと5分なんて寝ぼけた台詞を日常的に言って

しまいそうな隣のベットにいる香織のような人

のためなのか? 

「……んん、あと5エオンだけ」

エオン、アメリカの化学者が提唱した時間の

単位で1エオンはおよそ10億年になるらしい。

果てしない膨大な時間、この幸せそうな

にやけ顔で寝ているつもりなのか。それとも

よほど昨日の疲れが溜っているのか。

「だめだ、まだねむ…………」

俺が二度寝の衝動に駆られて目を閉じていたのは

ほんの1分、フライングの放送ではなく全部屋で

同じ時間にアラームが起動するはずの

午前9時0分までだ。

「寝気がスッキリ綺麗に無くなってる……」

「でもアラーム鳴ってないよ?」

ついさっき50億年間の睡眠を宣言していた香織も

完全に目が冴えている。昨日の重い疲れと寝気が

一緒に、まるで霧が晴れるように消えるのは

なんとも不思議な気分だ。

「ねえ」

香織は長財布の口を開け、昨日フロントで

受け取った2枚の朝食券を取り出した。

「気持よく目ざめたついでに混まない内に行って

おかない?」

この提案を断る理由は何処にも見当たらない。

気前の良いことに、宿舎の朝食はニ分政府の

観光移住庁なる組織の予算に組込れているので、

宿泊者は無料で頂けるらしい。

「あ、また放送だ」

『宿泊者の皆さん、おはようございます。

脳覚醒機能塔載の最新式無音アラームは

いかがでしたか? 私は毎日使っていますよ~。

スッキリした朝を実現する無音アラームは

フロントにて好評発売中~。

気になるお値段は一括払いでなんと、

なんと、99800円!そして今回は特別価格、

56000円にて提供します!!』

「宣伝かよ!」

俺たち2人以外は誰も乗っていない

朝食会場へのエレベーター内でおもわず

心の叫びが声に変換された。

「え、42000円も割引きされるの?」

「らしいな」

なんて現金なやつなんだ。

「買う?」

「割引商法にのせられちゃだめだ」

「割引商法?」

「例えば……この丸椅子が数万円で

売られているとする」

エレベーターに丸椅子がある理由はよく

わからない。

「なにそれ高い、詐擬じゃん」

「いやいやそれは詐擬でもなんでもなくて、

ただ高いだけ。そこでだ、この椅子が実は

数十万円で売られているもので、期間限定で

特別に安くなっていると言われたらどうだ?」

「買っちゃうかも……」

「だろ? そう思わせることが狙いなんだ。

しかも、実際の椅子の価値は販売価格の数万円

よりも低いことだってある」

「ほう、そんな君にはこの椅子の値段が

わかるかな?」

知らぬ間にエレベーターに乗ってきた初老の

男性が話しかけてきた、この丸椅子の価値か。

「ざっと数千円くらいだと思います」

どこにでもあるようなデザインによくある色だ、

ざっとそんなものだろう。

「そうか、君はありふれた形状をしているから

安いものだと思ったか」

なぜ俺の考えがわかったんだ。

「それは私の超能力レベルが高いからだよ」

何者だよ、この人。

「私か? 私の名前は大田黒矢だ。帝命グループ

の代表といえば見当がつくかな」

帝命グループ、大学経営から路線バスまで何にでも

手を出しては成功を収めている日本で知らない人は

いないマンモス企業の名前だ。

「路線バスはまだまだ拡大させるつもりだ、

ちょうど1階に到着したようなので私はこれで

失礼するよ」

「ねえ界斗、いま何か話してたの? さっきの人が

独り言を話していたようにしか見えなかったけど」

「会話をしていたというより、考えている事を直接

読みとられていたよ。超能力を数値的に表す事が

できるのならさっきの大田という人は相当高い数値

になるんじゃないか」

もう目のまえに朝食会場が見えてきた。

結局、この丸椅子の値段はいくらだったのだろうか。

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