表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6年制高校の超能力者  作者: ZIP
前半
17/20

PK指数測定Ⅵ

地上との連絡途絶は、俺たちの乗る旅客機が月の港、ムーン・ポートに

到着するまでの2日間、時間にして数十時間を以っても、

ついに回復することはなかった。幸いなことに、月面との通信は

航行中に回復したが、地球と連絡が取れないのは

月面でも同じことであった。

「月の都市と聞いたが、何もないな。ほんとうに人が住んでいるのか?」

「あの白い八角錐を横に倒したようなやつが居住モジュールらしい」

高橋先輩だけでなく、月面に来たことがない俺を含めた大半の

生徒は一様に疑問を浮かべていた。着陸機の厚い窓の外には

ムーン・ポートとその周辺に固まる居住区以外には文字通り何もない、

空の無い枯れた無風の地表のみが映っている。

「ねえ、ちょっと変じゃない?」

「何がだ?」

「地球と連絡が取れないのは磁気嵐のせいなんでしょ?

だったら携帯端末の電波が入るのはおかしくない?」

確かに……大気の無いここは磁気嵐が起きようものなら無防備に近い。

磁気嵐があれば月面とはいえ月ローカルのネットワークにも

繋がらないはずだ。

「ところで、いつになったら降りられるの? もう着陸してから

30分は経つと思うんだけど。寒いし宇宙服も配られないし」

香織の疑問に先生が呼びかける形で応える。

「あーみんな、勘違いしてるかもしれないが月の都市は月面には

無いぞ。だから月面都市じゃない、地下都市だ」

せっかくネットに接続されているので自由に編集できる

百科辞典を見ると、月の都市は地下数十から数百メートルの巨大な

いくつかの天然空洞にあって、それぞれに最大数万人以上が

持続的生活を送れるらしい。

『PSI生徒一行に連絡します。これよりコミュニティ・リクレイムへの

乗り継ぎ便とコネクトします。速やかに乗り換えてください。

10月3日、本日もご利用ありがとうございました』

乗客が日本人だけなので日本語の放送が流れる。

コミュニティ・リクレイム、日系人が首長を務める月最大の都市らしい。

「乗り継ぎって言われても、まさか宇宙服無しであそこにある

ちっこいやつのとこまで歩いてく訳じゃ、ないよな?」

先生、それ動揺しながら生徒に聞くことじゃないでしょ……

「おや先生、月は初めてですか?」

ターミナルにいた医者だ。

「ライト、地球ならともかく気軽に月へ下見ってわけにもいかないのでね」

「そうですか。ちなみにあの卵型の乗り物はコクーンという

少人数短距離移動用の、つまり宇宙の車みたいなものです」

「オーライ、乗り継ぎで乗るのは宇宙のバスってことか」

「そんなところです。それに、宇宙のバスにはターミナルと同じ方法、

地上の飛行機でいうタラップで移動するので宇宙服の心配は無用です、ほら」

医者が人差し指の先に視線をうつすと、どこから現れたのか比較的

巨大なタイヤを転がしながら平行なタラップが接続されていた。

「あー、いつの間に」

「大気がほとんどないのでね、音が聞こえなかったのですよ」

「はあ。と、いうわけで出発だ。念のため点呼取るぞ。

オーライ? えー第1班……」

「「え?」」

誰もが思った、そして発した。班分けなどしていなかったからだ。

「言ってなかったか? ならいまから班を言う。全54人中27人、

つまりちょうど半分いる、切りがいいから9人ずつ3班に分けた。オーライ?」

お、おーらい。

「えー、第1班。駒場、肥後、森、桜居、多田、河之内、大手台、

代々木、笹川。続いて第2班。真崎、神坂、リトルマイ……リトル、

高橋、天日、五反田、木曽谷、小石川、ぬく……ぬきさと?

第3班、それ以外だ。オーライ?」

「ノー、ノーだよ! ちゃんと名前読んでよ! ぬきさとじゃなくて

ぬくり、ついでに下は心と愛でここあ、抜里心愛です!」

「あーすまんな、今度からルビ振っておくよ、ライト」

キラキラネ……現代的で個性的な名前だな。どうやら班は住んでる

寮で分けているようだ。

「全員いるな? オーライ、出発だ」


宇宙の車、コクーンに唐突に作られた班で分かれて月最大の都市、

コミュニティリクレイムの地上部分へ到着した。地下道の入口のような

形状の地上部分に住人はおらず、遠隔操作でコクーンとタラップが

接続される。そこからはケーブルカーで移動、すぐに明るい空間に

たどり着いた。

「ここがコミュニティリクレイム……地下空洞って思ったより

全然大きいのね」

円状の空洞、耕作地帯を抜けて四方から流れる人工河川の水が

中心で集まり再び循環している。一戸建てと表現できる、

ムーンポートでも見た住宅モジュールが計画的な街並みに整然と並び、

それらを組み合わせた中高層の建造物もまばらに見える。

かなり開発が進んでいるようだ。

「ああ、重力の方はどうにもならないみたいだが」

普通に歩こうとしてもスキップになる、まるでギャグだ。

「それなら、重りでも付けておくといい。単に体重を増やすだけでも

大分ましになるものだよ」

国連の保坂さんだ。

「重りですか……超能力でなんとかなればいいっすけど」

「うーん、超能力で重力を操る方法か。残念だけど直ぐには

思い付かないなあ」

「やっぱそうですよね、原理が分かってないと……あれ。ぬき、

抜里さんなにしてるの?」

「なにって、体重操ってぷかぷかっと浮いてるだけだよー?」

そういえば島に来たとき香織が同じようなことやっていたような……

「さっきらなにスキップしてるよ、体重増やして重力を相殺

しちゃえばいいじゃない」

「そんな簡単に出来るもんなのかねえ……ところで、重力が制御

出来ないならここの住人は一体どうやって生活しているだ?

まさか一生を低重力で過ごすわけでもあるまいし」

「さあ、重りをつけるか超能力でなんとか、はできないわね。

ところで界斗……」

「うん?」

「さっきからどこ見てんのよ!」

たぶん蹴りを入れたかったのだろうけど、いかんせん浮遊中。

ピンク色の布が真正面に見えた

「オー、パンツィッラ」

「あんたね、フランス語風に言ったら許してくれるとでも思ったの!?」

「いやははは。そんなこっと、なんのサイレンだ!?」

密閉された空洞の壁に反響し、何処からか鳴り響くサイレンは

何重にも聴こえる。

「時間のようだね」

保坂さんが腕時計を確認して、重複するサイレンに

消されないよう大声で叫ぶ。

「みんな、直ぐに体重操作をやめるんだ! 重りをつけてる生徒は

速やかにはずして!」


一体なにが始まるんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ