PK指数測定Ⅳ
『…… いち、に、さんーし。ごー、ろく、しち、はち
……職員、PSI生徒の皆さん、おはようございます。
……吸ってー、吐いてー……10月1日起床時刻になりました、
只今より食堂の利用が可能になります』
未だに健在のラジオ放送で毎朝放送されるあの体操と、
朝の放送を協奏させた眠気も吹き飛ぶカオスな館内放送が流された。
「こんなとき、どんな反応をすればいいのかわからない」
「起きればいいと思うよ」
宿舎、と言っても旅客船の大部屋のような場所
(職員も同じ部屋で寝泊まりしている)で出発日の今日まで過ごしてきた。
「あ、君たち起きた? これから空港まで、というかスペースターミナル
まで引率するの僕なんだよ。大石です、改めてよろしくね」
引率らしい大石さんは見てるこっちが眠くなるくらいアクビをしながら言った。だが、これからすぐに空港へ向かって一番機に乗るから寝てはいられない。
「一番機に搭乗する生徒は食堂へ行かずに今からエプロン前に集合してくれ」
「エプロン?」
「駐機場のことだよ。まさか空港まで超音速機を使うってのか?」
「そんなまさかね」
まさかだった。
そして、ここは試験飛行場ではなく、今日からは二分第二空港として
細々と旅客運用を始めるという。
『二分エアライン301便、二分空港行きは只今を以って搭乗を終了します』
「あれ? 貸し切りなのに何席か空いてるぞ」
「ほんとだ」
二分エアライン、今日の空港開港に合わせて作られた公営航空会社だという。
24席の広めの座席に個人用液晶モニター、天井や壁には無重力下で
動けるようにとクッションが埋め込まれている。モニターには
飛行ルートが映し出され、それによると第二空港からしばらく南へ飛んで、
そこからゆるやかに旋回して二分空港へと向かうらしい、
超音速機を使うにはどう考えてもオーバースペックな短距離ルートだ。
「このままスペースターミナルまで行けばいいのにいいい」
思わず目をしかめる急加速、窓から見える風景は山から海、すぐに雲上に
広がる青へと変化した。モニターの速度計はマッハ1.2を指している。
『シートベルト着用サインが消灯しました』
「外しても何もできないよ」
『シートベルト着用サインが点灯しました。速やかに席へ戻ってください、
当機は間もなく着陸態勢に入ります』
シートベルトに手をかけようと右手を伸ばしたときにはもう既に着用サインが
点灯していた。この短時間で旋回する機内を出歩けるわけがない。
モニターに表示されているこの路線の飛行時間はおよそ5分。
確かに陸路より断然早いが、なんて無駄な路線なんだ。高層ビルが多く、
北からは着陸できない空港へそのまま降下を開始。
狭い窓からは空港開港までは唯一本土との交通機関があった二分外港が見え、
着陸。そして短い時間で、扉は閉められた。
『間もなく離陸いたします。シートベルト、酸素マスクをしっかり装着し、
Gに備えてください』
通常の離陸ですら従来型よりかなりかかるG。二分空港で少数の来賓客を乗せて
これから向かうスペースターミナルは宇宙、つまり大気圏突破のために相当な
速度が必要になるという。
「さっきのよりきつい加速ってどんな……」
ーーーーーー
気を失っていたらしい、再び目を開けた時には既に暗闇。
宇宙空間から見る地球は青く……ない?
「ここはどこだ?」
隣にいるはずの香織の姿、他の乗客の姿も、赤褐色と水色の星へと
加速する暗い機内には無かった。