PK指数測定Ⅲ
『認証、二分政府宇宙庁職員。ロックを解除します』
「では、ホームに1列で進んでください。専用線として作られたので
かなりホーム幅が狭くなってます。1両目から順に乗車してください」
途中にいくつか扉があって入り組んだ通路を抜け、ホームへ到着した。
ホームといっても、幅は畳を縦にした程度しかない。そして、
これから乗る電車、いや電車というより客車だ。そして、
モーターカーと呼ぶのがふさわしいであろう小型の機関車に、
窓のない無塗装の、まるで金庫のような物々しく小さな客車が
2両だけ連結されている。客車の内部は旅客用途を全く想定していない、
軍の輸送機のような無骨さだ。座席と呼べばいいのだろうか、
公園にあるようなベンチが車両の両脇に並べられている。
「この機関車はどこかの鉄道で工事用として使われていたものを
譲り受けたものです。客車は乗り心地が良くないと思うでしょうが、
なにぶん貨物車に急遽ベンチを搬入しただけのものなのでご了承願います」
そう言うと、職員は車両に1つしかない扉を閉めた。どうりで
車両間の移動ができないわけだ。
「せめてクッションくらい付けてほしいです。固いです」
天日さんの言う通り、乗り心地はとても快適とは言えない。
汽笛が鳴るのが外からわずかに聞こえ、発車した。窓はもちろん、
車内の放送設備すら無いので、判るのは線路の繋ぎ目からの振動だけだ。
故に、いつ到着するのかは見当がつかない。一定の間隔で伝わる振動は
次第に間隔が長くなり、やがて停車したことで無くなった。
「時間かかって悪いね、かなり使い古された機関車でこの路線、
微妙な上り坂なもんで時速30キロメートルくらいしか出ないんですよ。
ここは試験飛行場の管理棟に直結してまして、そこから説明会会場の
本部棟まで移動します。それではついてきてください」
「大切な事なので2度言いますが、出発の日までは試験飛行場内の
宿泊所に留まってもらいますので、その点は留意してください。
これは皆さんの安全を確保するための措置です。以上で説明会を終了します」
「ねえ、やっぱり例の襲撃事件の影響かな?」
「違いないな」
あの襲撃事件で十数軒の住宅が半壊や全壊、近隣のマンションは
窓ガラスが吹き飛ばされ、住宅前の路面電車の線路は焼失した。
が、超能力とは改めて便利なもので、いつの間にか住人によって
窓ガラスは元に戻されていた。破壊された住宅も事件からわずか
数時間後には外見だけ元通りとなったという。さすがに、超能力では
粉砕された家具家電を修復するのは不可能だったようで、
これも外見だけは修復された家具家電が公園や自然保護区に
放棄されているのを見たことがある。
「それにしても、落石くらい超能力で破壊すればよかったのに。
なんでわざわざ専用線を使ったんだろ?」
「そりゃ、破壊はできるさ。でも結局、炎天下の道路に散らばった
落石の残骸を片付けるのは人の手か何かしらの車両だろ。
単純に面倒だったんじゃね?」
「確かに。ところで、このあとの予定はなんだっけ?」
「たしか……希望制で隣接する航空機工場の見学だったな。
ということはスペースターミナルまで乗る超音速機を見れるのか」
「周りに何もないし、あっても遠くには行けないのよね?
暇すぎて寝ちゃいそうだから行ってみない?」
あくびをしながら香織が言う。毎日眠そうにしているが、ストレスでも
溜まっているのだろうか。俺にはわからない。
「だな」
航空機工場、その一画にある格納庫で見学は行われた。
やはり暇を持て余したのか、生徒や引率教員(居たのか)の顔が多く見えた。
見学と言っても、行われたのは乗る予定の機体の内覧のみ。
通常の飛行機との違いは宇宙空間を航行するためのイオンエンジン、
大きめの酸素ボンベにスペースターミナル接続用の国際規格扉、
それくらいのものだった。機内は一般的な飛行機とさほど変わらず、
シートの幅がややゆったりであったり、シートベルトが
頑丈であったりとその程度。目的地というか中継地の
スペースターミナルにはどのような理論かは開示されていないが、
地球と変わらない人工重力が働いているらしい。
無重力下で歩くという人間離れした曲芸をする必要がなくて安心した。