PK指数測定Ⅰ
大きな分銅として使われているダンベルはわずかに膝下まで浮游し、
すぐに砂場へと落ちる。
「高橋奈々、PK指数3」
今日は9月18日。PK指数のモデル測定が学校でグラウンド代わりに
使用するらしい近くの運動公園で行われている。
「高橋雄二、PK指数未確定」
11階住人の測定は今の高橋夫婦で全員終わった。超能力運用指数、
PK指数は0から30まであり、今回の測定では比較的レベルが低い
5までが測定される。それ以上のレベルは、また後日ということらしい。
で、俺のレベルはというと、めでたく6以上である事が確定した。
程度はよくわからないが高いに越したことはないだろう。11階で
俺の他にレベル6以上となったのはさっき測定を終えた高橋夫婦の夫の方、
天日さんと香織だけだ。いや、全員レベルが5未満という階もあるから
むしろこれは多い方なのだろう。超能力を使うにはこれから自分が
起こす現象についてある程度の予測と知識が必要だ。故に超能力を
使用するために化学、物理、地学、生物をはじめとするあらゆる最低限の
知識が必要不可欠だ。なので、測定で行う現象は浮游のように誰もが
容易に想像できる現象でないと成り立たない。一応、あらかじめ物を
浮游させるためのイメージがレクチャーされる。もっとも、説明された
イメージは質量をなくしてただ念じるという極めてありふれた方法であった。
さらに、質量をなくすときなぜ質量が無くなるのかを考えずに念じるだけで
それが行えるのか、それはまだ解明されていない。超能力の原理はいまだに
とてもあいまいで、それらの解明されていない現象については念じたら
出来るんだからそのまま使えばいいという非科学的な見解すら出ている。
「天日さん、平然とトラックを浮游させていたな……」
「うん、あんなに可愛いのになんか凄かった」
「お前はトラックを破壊しかけたけどな」
「そういう界斗こそ、あれはいくらなんでもやりすぎよ」
「あれはまあ、まさか数十メートルも上に上がるとは思わなかったんだよ。
普通車のときはコントロールできてたのに」
「それにしても、普通車を持ち上げられるだけならレベル5でしょ?
だとしたらレベル30って、一体どこまで出来るのかしら」
「そりゃ神でしょ、レベル30までいくと」
レベル5、それは1t以下の物体を浮游させられる能力ということらしい。
そしてレベル6の基準は5t以下だ。
「えー、みなさんの測定が、終わりました。えー、全校生徒ね、
今月から新しい寮に住み始めた人含めてね、1560人になりました」
あれ、人数が増えましたというか桁が変わったぞ……
「でー、今回ね、レベル6以上になった人は、全校生徒1560人中ね、
54人でした。えー、この人たちは9月27日の高能力者向け説明会に、
行ってもらいます。以上、解散です。お疲れ様でした」
『本日の測定で高能力者に該当した生徒に連絡します。説明会に
ついての説明会を行うので至急、各寮最上階の談話室へ移動してください』
「説明会のための説明会ねえ」
夜、いつものように洗濯物を回収して部屋に戻ろうかというところで
呼び出しがかけられた。この第三寮でレベル6以上が確定したのは
わずか、わずかという表現が適切かはわからないが、全部で21人
いるそうだ。至急集まれと言われれば仕方ないので、洗濯物は
かごにリバースさせてもらうことにした。
「全員集まったか? 集まったな。説明はすぐ終わるから
立ったままその場で聞いてくれ」
ということは、あまり重要な連絡は無さそうだな。それならメール配信でも
してくれればいいものを。
「測定は月で行うという連絡がきた。各自、大至急パスポートを
用意するように。何か質問は?」
……とても重要な連絡だった。
「先生ー、月まではどうやって行くんですか?」
どこかの誰かが質問をする。
「この時代にいまさら何を言ってるんだお前は。地上の空港から
パスポートが必要な拠点、スペースターミナルまで超音速機で3、4時間。
そこから月までは40時間前後だろ」
「その地上の空港ってどこですか?」
他の生徒が質問をする。
「ああそれな、10月1日に開港する二分空港らしい。開港初日の
スペースターミナル行き一番機のほとんどと二番機をまるっきり
貸しきるんだとよ」
そこで先生は何かを思い出したように手持ちのタブレットを操作した。
「すまん、保護者への連絡を忘れていた。ついでにお前たちの
アドレスに政府から送られてきたスケジュールを送信しておいたから
目を通してくれ。以上、解散」