新学期Ⅳ
遠くに誰かの声が聞こえる。
『…………ます……』
頭が重い。
『……ますか?』
目を開けると白い光が眩しく飛び込んできた。ここはどこだ?
「ドクター、真崎さんの意識回復しました。はい、すぐに」
ドクター? ということは病院か?
「うっ!」
「あ! まだ動かないで!」
「ここは?」
「ここは政府庁舎の病院です。自分が誰かわかりますか?」
「はい……俺はなんで病院に……」
「覚えてないんですか? 真崎さんは4日前の襲撃事件に巻き込まれて
意識を失っていました」
4日……前だと? 俺はさっきまで会長の家にいたはずだ、
お茶をもらったような気がする、そのあたりから記憶がない、
そのお茶を飲んだのかすら覚えていない。
「あの……今日は」
「今日は2033年9月6日です」
会長の家に行ったのはたしか2日のはず。ということは本当に4日間
寝ていたのか……
「襲撃事件って何ですか?」
さっきの看護師?の代わりに答えたのは男の声だ。
さっき看護師さんが呼んでいたドクターだろう。
「非PK、つまりはプロターだ。そいつらの反政府組織が二分丘、
ここ政府庁舎とPSIがある場所に無差別襲撃をしたんだ。
ロケット砲弾が使われたみたいだが奇跡的に死者は出なかったんだ。
最も、君のような負傷者は何十人もでている。君は特に
被害が大きかった住宅エリアの空き家、いや空き家のガレキに
埋もれていたんだ。どうしてそんなところに夜遅くいたのか疑問だよ」
空き家? いや、確かに会長の家……に行く途中で襲撃に巻き込まれた
ということなのか? だめだ、記憶が曖昧になっている。
「ふむ、どうやら君は頭を強く打ったみたいだね。意識も戻って
生活にも支障は無さそうだけど、学校のほうも校舎損壊の被害が
あって新学期の開始を2ヶ月延期したことだし、数日は安静にしてるといい」
ようやく視界がはっきりしてきた。俺がいるのは病院の大部屋のようだ、
そして2つ隣のベットに香織がいた。
「友達かい?」
「はい」
「友達の方はたいして外傷もないし、意識も既に回復していまは
休んでいる所だよ。ただ……」
「ただ、何ですか?」
「君と同じように襲撃、いやあれはテロだな。その時の記憶が
曖昧になっている。これと同じ症状の患者が分かってるだけで
8人はいるんだ。おや、ちょうどテレビで事件の特集をしている。
私の説明を聞くより目て見たほうがいいだろう」
ベット脇にある小型モニターがテレビ放送に切り替わる。
『……今回の二分丘テロでは多数の戸建て住宅が破壊され、
101名の負傷者を出しました。高層エリアの被害は微塵ですが、
PSI校舎は一部に損壊を受け、始業を2ヶ月延期することが決定しました。
二分政府はテロに屈っすることなく、先ほどの会見で非PK過激派組織を
一刻も早く逮捕すると誓いました。一方、二分では少数派である
非PKに対する暴行事件が相次いで……』
俺が寝たいる間にこんなことになっていたとは…………
「……非PKにそういう感情を持つ気持ちをわからないとは言わないさ、
そんなことをしても何も解決しないということも」
そういえば、会長はどこに。
「あの」
「なんだい?」
「ここの、テロで運ばれてきた患者に浦部さんという人は
いませんでしたか?」
「さすがに101人の名前は覚えていないなあ。名簿を確認してみよう」
そこに会長の名前は無かった。そもそも、何の会長だったのか、
思い出せない。