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第2話 翌日のことでした―――

連続投稿とかしてしまった。

 リヒト・クーゼンの朝は早い。

 

 

 第2話 翌日のことでした―――

 

 

 朝食は自分で作らなければいけないのがこの家の決まりだ。非効率的でそっちのほうが金がかかると言われようと、家の決まりを覆すことはリヒトにはできない。その由縁はラーガスにあった。ラーガスは、リヒトにとっての父であり、師であると共に目標だ。そのラーガスが決めたことを覆すにはそれ相応の対価、この場合彼との勝負に勝つこと、が必要になってくる。しかし、このラーガス、齢48にして武の極みに至るほどの人物だ。しかも、なぜかチェスからカードまで如何なる勝負でもリヒトは勝つことができないのだ。

 

 ということで、今日も今日とて自分で作った別に美味しくも不味くもない朝食を食べるリヒトであった。そんな時、家の玄関が開き、そこから大男と形容せざるをえない男が入ってくる。その腕は筋肉が隆々と浮かび、まるで大樹の幹のようである。

 

「あぁ、良い汗をかいた」

 

「暑苦しいぞ糞爺」

 そう、その人物こそがラーガス・クーゼンである。

 

「五月蝿いぞクソガキ」

 武の極みに至り、現在リヒトの師である人物。

 

「なに爺が朝からハッスルしてんだ」

 リヒトの尊敬すべき人物。

 

「ふん、若いのに寝てるお主に言われたくないわクソガキ」

 ……なはずである。

 

 そんな日常会話を交わし、ラーガスと入れ替わりにリヒトは家を出る。

 

 

 そして昨日初めて行ったギルドにまた向かう。実のところ、彼がギルドに行く切欠になったのはラーガスにある。ラーガスに教えを請うていたリヒトだが、先日遂に卒業というか、仮卒業を果たし、ギルドに入ることを許されたのだ。ギルドに入れば、自分で自分の金が稼げる、と思っていたリヒトはそれを聞き、次の瞬間には玄関を文字通り、飛び出していた。

 

 

「さーて、今日はどの依頼を受けようかねー」

 掲示板とにらめっこをするリヒト。

 

「おー、これにするか」

 そうして見つけたのは『迷子の猫探してます』の依頼だ。報酬はまた1銀貨である。1銀貨あれば、あと2食は食べられるのでリヒトとしては別にそれ以上の報酬ももらわなくてもいいのだ。そうして、リヒトはカウンターに向かう。

 

 そして、またいそいそとやってくる受付嬢。昨日と同じ人物である。

「何か御用でしょうか?」

 

「Gの23の依頼受けます」

 受付嬢はカウンターの裏に行き、その依頼を確認する。そして、戻ってくる。

 

「はい、畏まりました。こちらの猫の捜索願で宜しいですか?」

 そして、依頼の紙をペンと共に差し出してくる。

 

「宜しいでーす」

 そうして、ペンで自分のサインを紙に書く。

 

「あぁ、またウルフとかに遭遇したら報酬とか増え「ません」はい……すみません」

 残業サービスなのか?タダ働きはしたくないリヒトであった。

 

 ため息をつきながらカウンターに背を向け1階に降りようとする彼に受付嬢は「いってらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀をする、リヒトは知らないが。

 

 1階に降りたリヒトはふと酒場のカウンターを見た。

「あぁ、暑いなー……」

 今日も昨日と似たような天候で、暑い。カウンターには冷えた水が置いてあるではないか。そしてそれを持っていくウェイトレスたち。リヒトは己の欲望にたやすく負け、カウンターについた。

 

「水一杯くれー」

 カウンターに突っ伏し手をひらひらさせながら頼む。

 

「はい、お待ち。銅貨6枚だ」

 いや、待っていないぞという風に驚くリヒト。

 

「今1銀貨しかないから釣りくれ」

 そう言って、カウンターに1銀貨を置く。それをカウンターのウェイターが取り、懐にしまい、その代わりに銅板9枚と銅貨4枚が返ってくる。通貨は、銅貨10枚で銅板1枚、銅板10枚で1銀貨、銀貨100枚で金貨1枚と言った感じだ。

 

「んっ……くっ…ぷはぁ!」

 出てきた水を一気に飲み干す。

 

「あぁ、生き返るわー」

 まだ、家から出てきて1時間ほどしか経って居ないことを彼は知らない。断じて知らないのだ。

 

 

 そんな時であった。

 

「あぁん!?こんなところにんなモン連れてくんじゃねー!」

 酒場の入口あたりで一人の男が大声を出したのだ。

 

 酒場にいる全員の視線がその男に向く。そこには、3人の男が少女を囲っていた。

 

「ここはギルドだぜ、お嬢ちゃん。お子様が犬の散歩で来るような場所じゃねえよ」

 

「わ、私はお子様じゃありません!ちゃんと17です!」

 論点はそこなのだろうか?と疑問に思ったリヒトであった。

 

「そ、それにギンは犬じゃありません!狼です!」

 少女の横には銀色の毛の狼が一匹。ははぁ、とリヒトは納得したように頷く。

 

「どっちにしろペットなんて連れてくるんじゃねえ」

 一番でかい男が狼を見下ろす。

 

「ギンはペットじゃありません!私の立派な相棒です!」

 それから、また口論は続き、男の無駄な剣幕のせいか間に入ろうにも入れない観客であった。

 

 しかし、そこに一人の人物が間に入る。言わずもがな、リヒトだ。

 

「おい、おっさん」

 一番でかい男の肩を叩く。

 

「ん?なんだガキ」

 当然のこと、リヒトのことを知る人物など、あの受付嬢しかいない。

 

「流石に、犬が苦手だからって追い出すのはだめだろ?」

 その瞬間、酒場の空気が凍った。

 

「人が何を連れていようと自由じゃないのか?それに見ろ!この毛並み!超モフモフだぞ!うおぉ、すげー」

 そう言ってしゃがみ、嫌々している狼の首当たりに抱きつく。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「あれ?」

 何も言い返さない男達に気付きリヒトも違和感を感じる。

 

「俺って、今ものすごい滑った?」

 

「ガキが……」

 男がプルプルと震えながら、怒りをこらえている。

 

「黙っとれぇ!」

 そうして男の拳が放たれる。しかし、そこまでの実力者ではないのか、それほど速い拳ではなかった。

 

「ほい」

 外受けでその拳を逸らし、男の懐に入り込み、空いている手でナイフを抜き首にあてがう。

 

「まぁ、そう熱くなりなさんな。こんな暑いんだからさ」

 そうして、男は尻餅を付きながら倒れる。所謂、戦意喪失だ。

 

 リヒトは少女のほうを向く。この少女、よく見ると美少女である。肩口まで伸びている茶色の髪はよく手入れされているのか見た目でもサラサラだと分かる。碧眼には強い意志を感じたり、感じなかったり。

「ほれ、お前も行け」

 そう言って、少女に先に行くことを促す。

 

「あ、ありがとうございます!」

 一度お辞儀をして、先を急ぐ少女。それに付いていく狼。

 

「猫よ待っていろー」

 そうして、リヒトも出口から出ていき、その場に残されたのは沈黙する酒場の観客、尻餅をついた男とその仲間2人であった。


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