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第1話 彼はというと

気分で書いてみた。後悔も反省もしている。しかし、やめない。

 二つの影が対峙。片方は獣である、そしてもう一方は人間。そして、交差する二つの影。数瞬後、獣の方がドサリと倒れる。その首は鋭い刃物で切られたようにぱっくり開いており、そこから血が溢れ出ていた。血溜まりができる。人間のほうはというと、獣の首を切った刃物の刃から血を拭き取っているところであった。そして、空に向かいこんなことをのたまった。

 

 

「俺、薬草取りの依頼受けたんだが…」

 しかし、空からはカラスの鳴き声以外何も返ってこなかった。

 

 

 

 第1話 彼はというと―――

 

 

 

 

 先程の人間、性別は男である。風貌は整っているとは言えないが、別段汚らしいというわけでもない。適度に整っている、という程度だ。服は茶色の無地の上着に、同じく茶色のズボン、腰には先ほど使った刃物、ナイフが鞘に収まりぶら下げてある。見た目170サンチほどの身長、別段珍しくもない黒髪の頭をしている。その瞳は青。澄み切った、淀みのない『青』である。

 

 そんな人物が賑わう街の大通りのど真ん中を歩いていたらどうだろう?いや、別にどう、ということはないだろう。その通りの界隈のなかでは、そこまで目立つことのない、その程度の人物である。

 

 太陽の節となり、さんさんと太陽が照る中彼は一切の迷いなくある場所に向かっていた。ギルドである。

 

 ギルド―――それは即ち、人の集まり。集会所と言っても良い。そこでは、あらゆる人物が依頼をしにやってき、あらゆる人物がそれを解決する。もちろん、その依頼に見合っただけの報酬をもらう、逆に報酬なしでは動かないのがギルドの人員である。彼らのことは皆こう呼ぶ『冒険者』と。別段、冒険をするわけでもないが、その自由翻弄な生活からそう呼ばれるようになった……らしい。

 

 この街――要塞都市ハイヴァルド――のギルドは街の中心部、すなわち市場のすぐそばにある。ともなれば、人が賑わい、雑踏と遭遇することは必然。彼は心の中で、鬱陶しい限りだと思っているに違いない。

 

「あぁ、暑い……」

 そして、この暑さである。参ってしまわない訳がない。

 

 そして歩くこと10数分、やっとの思い(精神的に)で彼はギルドへとたどり着いた。その木の扉を両手で押すと、両側に扉が開き中に入る前に、思わずうっとする感覚が襲う。

 そう――酒の臭いである。

 

 このギルド、実は酒場も兼ねている。そして、真昼間だというのに飲んだくれがいることいること……

 

 

 しかし、覚悟してしまえば酒の臭いなどなんのその、彼はまたしても迷いのない歩みで中に入り2階を目指す。階段を登ると、そこは1階の酒場より静かなカウンターと丸テーブルに席がいくつか置いてある。ここが、ギルドの本部というべき依頼を受ける場所である。それとともに依頼を頼む場所でもある。依頼をしにくる人の最大の難関は1階の酒場だろうこと、同情しえない。

 

 

 そして、2階の一番奥、カウンターにたどり着いた彼の所にいそいそと一人の女性がやってくる。その格好はウェイトレスである。

 

「ご要件はなんでしょうか?」

 しかし、ただのウェイトレスと思うなかれ、彼女等はこのギルドの受付、さしずめ受付嬢と言ったところだろう。

 

「依頼の完了報告にきました。えぇと、Gの35です。名前はリヒト・クーゼンで」

 先ほど述べたように、彼は薬草取りの依頼をこなしていた、そして帰り道に獣に襲われたのである。厳密に言うと、あれは獣でなく、獣に類似した魔物だったのだが、それはまた別の機会に紹介しよう。依頼にはランクと番号がり、彼の言う『Gの35』とはランク『G』の『35』番目ということだ。

 

「後、依頼中にウルフに襲われたんで、その分報酬とか増え「ません」ですよねー……働き損かよ」

 彼主観ではボソっと言ったつもりだろうが、しっかり周りにも聞こえていた。誰も何も言わないが。それも当然、冒険者とは報酬のみで動く。報酬とは即ち金、金、金である。世の中金で回ってるとはこのこと、なんとも悲しい世界だ。

 

「ではこちらが報酬の1銀貨です」

 そうして、手渡しされる報酬。鈍い銀色に光る金属の円盤であるが、世の中これで回っていると思うと何か感慨深い。

 

 その報酬を貰い、早々とその場を立ち去るリヒト。その表情には喜びの笑みが浮かんでいた。その理由は、この報酬、彼が初めて貰った報酬だからであった。更に言うと、リヒトは今日初めてギルドに登録し、初めて依頼を完遂させた。その報酬がたかが1銀貨だろうがなんだろうが、彼が自分で初めて稼いだ金には変わらない。

 

 そうして、リヒトはまた街の界隈に紛れながら家に帰るのであった。彼の家、それは即ちラーガス・クーゼンの家である。この二人、苗字は同じだが血が繋がっているわけではない、この話もまだ別の機会に。その家は街の外れの方にあり、行くのには裏道などを通らなければ割と時間が掛かってしまうのである。となると、リヒトの性格である、裏道を通らない訳がない。

 

 薄暗い、少し湿った地面を歩き、街の雑踏から少しずつ離れていく。

「ふっふふーん」

 手の中で報酬の銀貨を弄るリヒトは気づかない、追跡者に。

 

「あぁ、帰ったら何しようかねー。って言っても、することなんてあんましないかー……」

 両手を首の後ろで組み、空を見上げているリヒトはまさに無防備、そしてそれを見逃さなかった追跡者達は一気に距離を詰めるために駆ける。

 

「待ちな坊主」

 今から襲う予定の人物にまず声をかけるこの追跡者達は果たして馬鹿なのか親切なのか。

 

「ん?なんだおっさん。何か用か?」

 まるで自分が今から襲われることを分かっていないようにおどけた様子でリヒトは答える。

 

「金目の物全部置いて行きな、命だけは取らないでおいてやる」

 なんとまあ、定番と化してしまったような台詞を吐く物取りである。

 

「んー…」

 一瞬考える素振りを見せ、物取りの一人に向かい「嫌だ」と言う。

 

「じゃぁ、しょうがないな……恨むんなら自分を恨めよ」

 いや、そこは明らかにお前らが悪いだろうと呆れているリヒトの顔である。

 

「お前ら、なにか勘違いしてないか?」

 呆れ顔から一気に真面目な顔に戻るリヒト。

 

「俺も、金が欲しいところだったんだ」

 そう言い、一気に一番近い物取りの腹に一発拳を放つ。その一発で物取りは気絶にまで陥ってしまった。

 

「なんだ、弱いな……」

 少しがっかりしたように声を漏らす。しかし、それも一瞬の出来事。次の瞬間にはほかの物取り共にも拳が、腹やら顔面に飛び、全員が一発KOを決められる。

 

「あぁ、こっちのが金手に入るなんて、世の中間違ってるよな」

 そう言いながら物取り共のポケットやら腰の袋などを全部探り、金目の物を全部取っていくリヒトの手つきはどこか手馴れている。リヒトの手には銀貨が5枚ある。4枚は物取りから逆に取ったものである。

 

「まぁ、恨むんなら俺を恨めよおっさん達」

 まぁ、聞いてないだろうけど、と付け足す。

 

 そうして、彼はまた帰路に着いた。


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