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ガジェット怪盗ヒカゲモノ!!

作者: 黒子明暦
掲載日:2026/03/25

ドラ〇もんを元に書きました。楽しんでいってください。あと、多少のガバは見逃してほしいです。

 2126年、某月某日。様々な摩訶不思議なガジェット(道具)が存在するこの世界の、とある博物館の一階。そこは「科学が作り上げた神殿」と形容されるに相応しい、異様な熱気と静寂が支配する空間だった。


 中央の台座に鎮座するのは、伝説の秘宝『太陽の石』。内部から微かな脈動を放つその深紅の宝石を囲むのは、厚さ三メートルの強化ガラスではない。目に見えない、だが物理的な死を意味する数重の「境界線」であった。


「……残り、三十秒」


 警備責任者の佐藤刑事は、刻一刻と迫るデジタル時計の数字を睨みつけ、掌の汗を制服のズボンで拭った。彼の視線の先には、空気を震わせるほど強力な出力で展開された『分子干渉バリア』がある。


「佐藤刑事、落ち着いてください。この部屋は今、地上で最も『硬い』場所なのですから」


 傍らで腕を組み、余裕の笑みを浮かべているのは、科学捜査の権威として招かれた青年、通称『先生』だった。彼は眼鏡の縁を指先で押し上げ、展示台を囲む複雑な装置群を指差す。


「いいですか。何度も言いましたが、ここは『分子干渉バリア』に加えて、ダメ押しに『四次元妨害装置』の放つ電波で満たされています。ワープや時間の停止といった『物理法則を無視したイレギュラーな動き』は、神ですらここでは不可能なのです。まあ、つまり『魔法のような真似は出来ない』と言う事です。物質である以上、このバリアに触れた瞬間に原子レベルで分解されます」


「しかし先生……相手はあの『ヒカゲモノ』ですよ。過去の犯行では、施錠された金庫の中から忽然とお宝を――」


「それは彼が隙間を突く天才だからですよ。この部屋に、隙間など存在しません。我々が生まれる遥か前から定められていた『物理法則』で完全に埋め立てました。安心してください。予告状の時間はあと十秒。彼がここへ入るには、正面からこじ開けるか、私たちがこのバリアを解除するのを待つしかない。そしてそれは、現在の科学では不可能です」


 十、九、八。

 無機質なカウントダウンが部屋に響く。

 佐藤刑事は腰の電磁警棒に手をかけ、周囲を完全に見渡せる位置に背を預けた。


 七、六、五。

 展示室を照らす数百個の超高輝度LEDが、全方位から『太陽の石』を照射し続けている。

 四、三、二。


 心臓の鼓動が耳元でうるさいほどに鳴り響く。


 一。


 零。


 ――異変は、音もなく訪れた。


「……? 先生、これは!?」


 佐藤刑事が叫んだ。

 光源は動いていない。風も吹いていない。


 だというのに、佐藤刑事自身の足元から伸びていた「影」が、床の上で分離し始めたのだ。


 それは、光源との位置関係を無視し、まるで意志を持った漆黒の生き物のように、変幻自在に形を変え、床の上を這い出した。


「馬鹿な……影が、光源を無視して動いている!?――まさかっ!!」


 先生の驚愕を余所に、黒い影は床を走り、壁を駆け、バリアの発生源である床の隙間へと滑り込んだ。


 本来、分子レベルで侵入を拒むはずの「分子干渉バリア」は、何一つ反応を示さない。


 なぜなら、影には「質量」がない。


「位相」もない。


 それはただの「光の欠落」という現象に過ぎないからだ。


 四次元的な干渉波も、質量のない現象を縛ることはできない。


 黒い影は、バリアの内側――『太陽の石』の真下まで到達すると、不気味に広がり、渦を巻き始めた。


 そして、二次元的だったその存在が、突如として立体的な厚みを持ち始める。


 床から黒い腕が突き出し、続いて漆黒の外套を纏った人型が、影の沼から這い上がるようにして出現した。


 バリアの内部。絶対不可侵の聖域に、その男は立っていた。


 顔の半分を奇怪なガジェット――多機能レンズが組み込まれたモノクル――で覆い、口元には不敵な笑みを湛えている。


「こんばんは、紳士諸君。この石の輝きは、影から見ても実に眩しい」


 男――怪盗ヒカゲモノは、まるで散歩のついでに花を摘むような軽やかさで、台座から『太陽の石』を手に取った。


「ヒカゲモノッ!!」


 佐藤刑事の叫びを無視して、ヒカゲモノは手にした宝石を軽く放り投げ、再びキャッチすると、モノクルの奥の瞳を妖しく光らせた。


「先生の仰る通り、ここは素晴らしい檻だ。だが、残念ながら影までは縛れなかったようだね」


 ヒカゲモノの足元では、実体化した彼自身の生み出した影が、主の勝利を祝うように不気味に波打っていた。


「バリア解除! 突入せよッ!!」


 佐藤刑事の怒号が響き渡ると同時に、空気を震わせていた半透明の壁が霧散した。


 待機していた十数人の精鋭警官が、重厚なプロテクターの音を響かせ、獲物へ向かって一斉に跳躍する。だが、その中心に立つヒカゲモノは、ただ無言で不敵な笑みを深くしただけだった。


 タンッ、と踵を鳴らす小さな音が響く。


 次の瞬間、飛び込んだ警官たちの拳は空を切り、彼らの視界から怪盗の姿が掻き消えた。


「上です!」


 先生の鋭い声に、全員が首を撥ねるように仰ぎ見る。


 そこには、『重力操作シューズ』の青白い光を放ち、天井に逆さまに張り付いたヒカゲモノがいた。彼は自身にかかる「重力」という物理定義を書き換え、あたかも天井が床であるかのように悠然と歩を進めている。


「馬鹿な……『分子干渉バリア』は解いたが、『四次元妨害装置』はまだ稼働しているはずだ!」


「落ち着いてください、佐藤刑事。彼は魔法を使ったわけじゃない」


 先生は天井を見上げ、冷ややかに分析を口にする。


「この部屋の電波は、今も正常に漂っています。ただ、彼はガジェットによって重力の『方向』を定義し直したに過ぎない。この空間は『あり得ない現象』を禁ずるが、無重力や重力反転といった『理論上あり得る物理状態そのもの』は否定しないのですから。……逆に言えば、さっきの現象だけは説明がつきません。ヒカゲモノ!いったいどうやって質量保存の法則を潜り抜けたのですか!」


先生の放った張り詰めた声を余所に、影から這い出したヒカゲモノは優雅に一礼する。


「質量のある影ならバリアを通れず、無い影ならばあなたは人型になれないはずでしょう!」


剥き出しの苛立ちをぶつける先生に対し、怪盗はフフ、と小さく喉を鳴らした。


「答えは、あなたたちが用意してくれた『光』の中にあったのですよ」


彼は手袋を整えながら、月明かりと防犯ライトが混ざり合う空間を見上げる。


「ええ、影に質量はありません。だからこそ、私のガジェットで『意識』という質量なき情報を影に同期させ、バリアを通り抜けさせたのです。……おや、肉体の再構築に必要なカロリーですか? ご心配なく。この部屋を照らす忌々しいほどに強力な無数の防犯ライト――そして、窓から差し込む静かな月明かり。それら全ての『光のエネルギー』を変換すれば、私一人の肉体と少々のガジェットを再構成する事は容易い」


「御託はいい!ええい、理屈はどうあれ逃がさんぞ! 撃て! 捕縛弾だ!」


 佐藤刑事の合図で、警官たちが一斉に特殊な銃型ガジェットを構えた。


 放たれたのは、着弾と同時に広がる『追跡ペンキ弾』、そして当たった対象を瞬時に硬化させる『カチコチ弾』の雨だ。狭い室内、逃げ場のない天井での全方位射撃。しかし、空を飛ぶ数百の弾丸はヒカゲモノに当たる直前に急激に速度を落とし、ヒカゲモノにかかっている重力とは違う、本来の重力に従って地に落ちた。


 直後、ヒカゲモノは落ち着き払った動作で、懐から小さな笛を取り出した。


 ガジェット名は『落とし物ホイッスル』。


 ピィィィィィィィィィィィッ!


 鼓膜を突き刺すような高音が響いた瞬間、床に転がっていた弾が、放たれた時以上の速度で「持ち主に帰り」始めた。


「なっ、うわあああああ!」


 銃口を向けたままの警官たちに、自分たちが放った弾が直撃する。室内は瞬く間に鮮やかなペンキと、彫像のように固まった警官たちの山へと変わった。


「……見事です。ですが、まだ種は見えています」


 静寂の中、唯一無事だった『先生』が、静かに一歩前へ出た。


「あなたに近づいた弾丸の速度が急激に遅くなっていましたが……あれも、あなたが作った、何かしらの違法なガジェットの仕業ですね?」


 天井の怪盗は、逆さまのまま先生を見下ろし、初めてその口を開いた。


「流石は『先生』と呼ばれるだけあって、お詳しい。……なるほど。私を捕らえようとするその知的好奇心だけは、『四次元妨害装置』でも封じきれなかったようですね」


 皮肉めいた称賛を投げかけながら、彼はモノクルの奥の瞳を細める。


「ですが、先生。知識が豊富であればあるほど、人は不可能の境界線を引きたがる。……例えば今の私は、この空間で巨大な武器を扱うことはできない。物理的な『質量』を無視できないこの檻の中で、光だけでは圧倒的な暴力は得られない。……そう、計算されているのではありませんか?」


 天井の怪盗は、くすりと笑った。


「その通りです。だから――大きな『質量』は、ここで盗ませてもらうことにしました」


 ヒカゲモノが懐から取り出したのは、小さな拳銃型のガジェットだった。


 それを天井にある「あるもの」に向けて打つ。


 パリン、と硬い音がして、スプリンクラーのヘッドが破壊された。


 直後、凄まじい勢いで水が噴き出す。


「水……? 何をするつもりですか!」

「今打ったのは、ただの弾ではありません。『乾燥怪獣』。水をよく吸う……いえ、『盗む』のですよ」


 ヒカゲモノが打ち出した弾が、降り注ぐ水を猛烈な勢いで吸収し始めた。


 みるみるうちに膨れ上がり、粘土のような質感を持った巨大な怪獣の姿へと変貌していく。


 グオォォォォォッ!!


 大量の水を得た怪獣が咆哮を上げ、博物館の床を揺らす。


 先生の顔から、余裕の笑みが消える。


「まさか……水を吸って『質量』をこの場で調達した……のですか……!?いや、だったら…… 『洗濯物瞬間乾燥剤』!」


 即座に冷静さを取り戻した先生が懐から投じたのは、一錠の黒い錠剤だった。それが当たった瞬間、スプリンクラーの直撃を受けていた怪獣は、一瞬にしてその構成成分である水分を弾き飛ばされ、元の小さな弾へと退行した。


「盗まれたというなら、取り返せばいい!『太陽の石』も、返してもらいますよ!」


 先生は間髪入れず、細いタクトのような指揮棒を振るった。


 ガジェット名は『即席ロボットタクト』。


 彼が床を叩くと、鋭い振動が波紋のように伝わり、怪獣に破壊された石材やタイルの破片が、意思を持ったように吸い寄せられていく。それらは一瞬で組み上がり、数体の無機質な石の兵隊へと姿を変えた。


「お返しです!!これ以上は『太陽の石』も『ただの石ころ』も、何も渡しません!!」


 石の兵隊たちが、天井のヒカゲモノへ向かって一斉に跳躍する。


 だが、天井に張り付いた怪盗は、不敵に口角を上げた。その視線は、スプリンクラーから弾き出された水飛沫を浴びて濡れた先生や警備兵、そして石の兵隊たちに向けられている。


「……生乾きですよ」


 ヒカゲモノが落としたのは、親指ほどの小さな小瓶。


 ガジェット名は『雷の元』。


 それが床に転がり、割れた瞬間。


 ――凄まじい青白い閃光が、部屋中を埋め尽くした。


「ぐわぁぁぁぁっ!」


 悲鳴が上がる。


 先生の『洗濯物瞬間乾燥剤』は怪獣を無力化したが、周囲にぶちまけられた水までは消し去れなかった。むしろ、乾燥によって霧状になった水分と、びしょ濡れの人間、そして鉱物である石のロボット……それらすべてが、逃げ場のない完璧な導電体と化していたのだ。


 閃光が収まったときに立っていた者は、天井にいた事で水飛沫を浴びていなかったヒカゲモノだけだった。


 石の兵隊たちは内部回路を焼かれて物言わぬ礫に戻り、佐藤刑事たちは痺れに身をよじらせている。


「……幕引きとしましょう」


 ヒカゲモノが静かに着地する。


 彼は再び「影」の姿になり、床を滑るように出口へと向かった。


 痺れた頭で、先生が最後の力を振り絞って叫ぶ。


「逃がす、な……! あの影を追えッ!!」


 遠くから駆けつけた応援の警官たちが、廊下を走る「黒い影」を見つけ、一斉に追跡を開始する。角を曲がり、影を追い詰めた先で――彼らが見たのは、自走する黒いガジェットだった。


「……偽物だ!」


 その頃。


 もぬけの殻となった展示室の天井付近。


 『光学迷彩外套』を羽織り、ついさっき影になったフリをした、透明な姿になったヒカゲモノが、悠然と開いた窓から夜風に吹かれていた。


 進入時に与えた「影」という先入観を与えれば、人はそれ以外を「見ない」。


「今夜の月は、影を濃くしてくれて助かる」


 彼は手の中の『太陽の石』を月にかざすと、そのまま夜の帳へと溶けていった。


 数分後。ようやく動けるようになった先生が、展示台の前で悔しさに拳を震わせていた。


「……申し訳ありません、佐藤刑事。みすみす逃がしてしまいました。あいつは……ヒカゲモノは、想像以上の天才です」


 先生は、自分のポケットにいつの間にか差し込まれていた一枚のカードを抜き取った。そこには、奪われたはずの『太陽の石』が放つ光を象った、優雅なサインが記されている。


「彼には物理法則を利用されました。この完璧な防衛システムという『光』が強ければ強いほど、彼という『影』はより濃く、自由になる……」


 先生はカードを指先で弄びながら、恐怖とも、奇妙な敬意とも取れる溜息を吐き出した。その視線は、空になった展示台の向こう、闇が広がる夜の街を向いていた。


「ガジェット怪盗ヒカゲモノ。……恐ろしい男です。次に会う時は、太陽の下ですら、私達は彼を見失いかねませんね」


 その言葉に応えるように、博物館を照らすサーチライトが、どこまでも深い夜の闇を切り裂いていた。


(完)

いかがでしたか?名前の由来は勿論、日陰(影)とモノ(者・物)で「ヒカゲモノ」です。好評ならばこれを元にした連載版も作ろうかな……と考えています。現在連載中の「(完結保証)ネトゲの嫁が妹だった件」も宜しければ見て行ってください。丁度、あらすじに当たる22話分が掲載されたばかりなので、今から追うと、明日から楽しめます。本作のブクマ、高評価、感想やレビューなどもお願いします。ありがとうございました!

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