表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動かざる正義  作者: ふぁい(phi)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

第六章 制度の重さ

制度は、

人よりも長く生きる。


桐山がその言葉を思い出したのは、

再審請求の要件が並ぶ資料を

眺めていたときだった。


そこに書かれているのは、

冷静で、合理的で、

一見すると公平な条件ばかりだ。


新証拠。

判断を左右する重要性。

当時、提出不可能だった理由。


どれも、

否定しようがない。


だが同時に、

すべてが揃うことを

前提としていない条件でもあった。



再審制度は、

誤りを正すために存在する。


そう説明される。


だが、

実際に機能する場面は限られている。


それは、

制度が悪いからではない。


制度は、

「誤りが明白な場合」に

対応するように設計されている。


迷い。

曖昧さ。

判断の余白。


そうしたものは、

想定されていない。


正義は、

確信を伴った誤りなら正せる。

だが、

確信を欠いた正しさは、

修正できない。



桐山は、

過去の再審事例を辿る。


覆った事件には、

共通点がある。


決定的な証拠。

明確な虚偽。

誰の目にも分かる齟齬。


今回の件には、

それがない。


あるのは、

「もしも」の積み重ねだ。


もし、

あの瞬間に別の判断があったら。

もし、

その迷いが記録されていたら。


だが、

制度は「もしも」を扱わない。



内部検証についても同じだ。


検証は、

判断が手続きに沿っていたかを確認する。


判断そのものが

妥当だったかどうかは、

二の次になる。


なぜなら、

妥当性を問えば、

無限に遡ることになるからだ。


どこかで止めなければ、

制度は壊れる。


止める場所として選ばれるのが、

「当時の基準」だ。


その基準は、

いつも現在より緩い。


だが、

それを責めることはできない。


制度は、

過去を現在の尺度で裁かない。


それが、

安定の条件だからだ。



桐山は、

若手弁護士の言葉を思い出す。


「正義って、

 こんなに重いものなんですか」


重い。


それは、

間違いではない。


正義は、

一度制度に組み込まれると、

人の意思では動かなくなる。


動かすには、

個人の勇気では足りない。


構造ごと揺らすだけの

外力が必要だ。


だが、

外力が加わるとき、

そこには必ず

別の犠牲が生まれる。



桐山は、

資料を閉じる。


制度の重さは、

誰かを押し潰すために

存在しているわけではない。


むしろ、

皆を守るためにある。


だからこそ、

一度止まった正義は、

容易には動かない。


正義は、

人を救う前に、

制度を守る。


それが、

この社会の

選んだ順序だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ