表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動かざる正義  作者: ふぁい(phi)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/12

第五章 動かしたい者たち

動かそうとする声は、

決して大きくない。


だが、

確実に存在していた。


若手弁護士は、

再調査要請が形式的に処理されたことを知っても、

引き下がらなかった。


追加資料。

過去の判例との比較。

学説の引用。


どれも、

制度の内側で戦うための言葉だ。


だが、

その言葉が増えるほど、

周囲の反応は鈍くなっていく。


「まだやるのか」


誰かが、

そう思っている空気が伝わってくる。


桐山は、

その視線を、

何度も見てきた。



遺族もまた、

動いていた。


署や検察に足を運び、

丁寧に、

しかし何度も同じ質問を繰り返す。


「本当に、

 これで終わりなんですか」


答えは、

変わらない。


「手続き上、

 問題はありません」


それは、

否定ではない。


だが、

肯定でもない。


曖昧な言葉の中で、

遺族の時間だけが、

静かに削られていく。



内部にも、

迷いを抱えた者はいる。


会議では黙り、

廊下で視線を逸らす。


桐山のところに来て、

小声で言う。


「本当は……

 少し、引っかかるんです」


だが、

それ以上は続かない。


引っかかりは、

共有されない。


共有されない迷いは、

個人の問題として処理される。


正義は、

個人の違和感を

拾い上げる仕組みを持たない。



若手弁護士は、

ある日、

桐山に直接会いに来た。


「動かせないんですか」


率直な問いだった。


責める口調ではない。

ただ、

理解できないという顔をしている。


桐山は、

すぐには答えなかった。


「動かす理由が、

 弱い」


そう言えば、

嘘になる。


「動かすと、

 困る人が多い」


そう言えば、

冷たすぎる。


結局、

桐山はこう言った。


「制度は、

 正しさよりも

 安定を選ぶ」


若手弁護士は、

納得しなかった。


納得できない人間だけが、

正義を動かそうとする。



その夜、

桐山は資料を読み返す。


動かしたい者たちの声は、

すべて、

理屈としては通っている。


だが、

それぞれが孤立している。


点はあっても、

線にならない。


制度は、

点を怖れない。


線になった瞬間にだけ、

反応する。


だが、

線を引くには、

誰かが最初に

立ち続けなければならない。



桐山は、

自分がその役割を

引き受けないことを、

知っている。


少なくとも、

今は。


動かしたい者たちは、

正しい。


だが、

正しいだけでは、

正義は動かない。


それを、

桐山は痛いほど知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ