第十章 崩れない結論
結論は、
淡々と下された。
文書は短く、
言葉は慎重に選ばれている。
「再調査の必要性は認められない」
「新たに提出された資料は、
既存判断を左右するものではない」
想定通りだった。
桐山は、
その文書を読みながら、
一度も驚かなかった。
崩れない結論は、
崩れないように
積み上げられてきたのだ。
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報告書には、
今回の経緯が整理されている。
要請の受付。
検討の実施。
結論の妥当性。
すべてが、
正しく並んでいる。
だが、
そこには書かれていないものがある。
迷い。
躊躇。
語られなかった理由。
それらは、
制度の言語に
翻訳できない。
翻訳できないものは、
存在しないことになる。
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決定が公表されると、
反応は静かだった。
大きな批判も、
擁護の声もない。
それ自体が、
この結論の完成形だった。
問題にならなかった、
という事実。
社会は、
それをもって
納得したことにする。
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若手弁護士から、
短い連絡が来た。
「理解しました」
それ以上、
何も書かれていない。
理解したのか、
諦めたのか。
桐山には、
判断できなかった。
理解と諦めは、
この世界では
よく似ている。
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元警察官の証言は、
正式記録として保管された。
閲覧制限付きで、
誰の目にも触れにくい場所に。
消されたわけではない。
だが、
使われることもない。
正義は、
こうして静かに
収納される。
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桐山は、
文書を閉じる。
これで、
一つの区切りがついた。
事件は、
再び「終わった」。
だが、
終わり方が変わっただけだ。
疑念を抱えたまま、
終わった。
それは、
前よりも
重い終わり方だった。
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帰り際、
庁舎のロビーで、
遺族の姿を見かけた。
言葉を交わすことはなかった。
交わす言葉が、
見つからなかった。
正義は、
すでに語られている。
それ以上、
付け足す言葉はない。
⸻
桐山は、
外に出る。
空は、
特別な色をしていない。
日常は、
何事もなかったように続く。
崩れない結論は、
社会を安定させる。
だがその安定の中で、
何かが確実に
残っている。
それは、
違和感だ。
正義が動かなかったという事実だけが、
静かに、
そこに残る。




