嘘と月夜と狼男
「狼が来たぞー!」
村人たちはもういい加減に男の嘘にも慣れきってしまい、相手をする人はほとんどいなくなっていた。
それでも付き合いの良い数人が、のろのろと家の外に出てきてくれた。
「やっぱりいないじゃないか」
もはや怒っている素振りも見せず、仕方がないから相手をしてやるよ、といった風情だ。
「いるさ」
男はそう言って、にやりと笑った。
「ここにな」
きょとんとする村人たちを尻目に説明をはじめる。
「俺がその狼だ。狼少年から、狼男になったんだ。
今夜は満月だから広場に集まれ。見せてやる。
もし、満月の下でも俺が狼になっていなかったら、村から出ていってやるよ」
「もうお前の嘘に騙される馬鹿はいないよ。お前が狼男なわけはないだろう。
今夜が満月なんだったらちょうどいい。狼に変身するところを見せてみろよ」
村人たちは「男が狼男なわけがない」と思いつつも広場に集まり、みんなで満月が現れるのを待った。
少しして、日が完全に落ち、空に月が昇った。
それは見事な三日月だった。




