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魔法の本

 ある日、年老いた魔女が本をくれた。

 きっと、いつも一人で本ばかり読んでいる私を不憫に思ったのだろう。


「これはあなたが望めば、どんな本だって読むことができる魔法の本だよ。

 読みたい本を頭に浮かべて、ページを開いてごらん」


 私が今よりずっと小さいころに、何度も何度も読み返した大好きな絵本を頭に思い浮かべて本を開いた。


「うわあ、懐かしい!」


 思わず声が漏れた。まさに私の記憶しているまんまの絵がそこにはあった。


「じゃあ、次は……」と、最近読みたいと思っていた小説を、同じように頭に思い浮かべて本を開いた。


 でも、今度は表紙しか出てこない。めくってもめくっても表紙だ。


 次に思い浮かべた漫画も同じだった。


 魔女が横から覗き込んで、こう説明した。


「最初の絵本は無料だけど、次の小説は広告を見たら無料のやつだね。三つ目のは……ああ、これはプレミアムに加入しなきゃ読めないやつだ。

 でも大丈夫、安心して。プレミアムプロに加入すればいいんだ。そうすれば、プレミアムに加入しなきゃ読めないやつでも最初の三ヶ月は無料で読めるから。それで、無料期間が終わるまでにキャンセルしたらいいんだよ。

 ただ、無料期間が終わるまでにキャンセルしないと自動更新だからね。そこだけ気をつけるんだよ」


「ええ、どういうこと?」


 結局、私はどうしたらこの本を読めるの? プレミアムとかプレミアムプロとかなんなの?


「わからないなら、アタシにまかせな。代わりに手続きをしてあげるから。とりあえず、プレミアムプロアルティメットプラスに加入しとくよ。無料期間は一ヶ月と短くなるけど、その代わり読める本の数は格段に増えるからね」


 私は何もわからないまま、何ヶ所かに名前を書いた。


「これで良し。これで好きなだけ、好きな本が読める。良かったね。ただ、言っとくよ。くれぐれもキャンセルを忘れないようにね。アタシはちゃんと言ったからね」


「ええ、キャンセルってどうするの?」


「それはここにほら」と、魔女は本の隅を指さした。


「キャンセルのやり方が魔法文字で書いてあるだろう、小さくて読みにくいけど」


 私が目を凝らしてどこに書いてあるのか探していると、魔女は「おっと、長居しすぎたよ。アタシの仕事はここまでだ」と言って、ほうきに乗ってどこかに飛んでいってしまった。


 もちろん、私が魔法文字を読めるわけはなく、キャンセルの仕方はわからないままだ。


「まあ、その時がくるまでになんとかなるかな」と、読みたかった小説を思い浮かべながら本を開いた。

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