壁ドン
―― The Male Side ――
『ドン』と大きな音を立てて壁に手をつく。
「お前、実際のところさ……俺のこと、どう思ってんの?」
さっきまで大声で騒いでいたのが嘘みたいに静かになる。
少しして、か細い声で返事があった。
「どう、って?」
煮えきらない返事だ。
「とぼけるなよ。俺が何を言いたいか、わかってるだろ」
しばらく待ってみたが、それ以上の言葉は期待できないようだ。
我慢の限界だ。
俺は部屋を飛び出して、そのままの勢いで隣人宅のドアを叩いた。
「壁が薄いんだから静かにしろ。いくら言っても、毎日騒ぎやがって。マジで俺のことどう思ってんの? マジでなめてるの?」
―― The Female Side ――
彼は間違いなく、私を溺愛している。
だって、テレビに出てきた推しに歓声をあげているだけで、彼ったら壁をドンと叩いて「お前、実際のところさ……俺のことどう思ってんの?」なんて言っちゃうくらいだもの。
嫉妬深いところも魅力的。
「どう、って?」
わざとわからないふりをすると「とぼけるなよ。俺が何を言いたいか、わかってるだろ」と焦り始める。
ふふ、可愛い。
安心して、愛してるわ、と心の中で呟く。
少しして、玄関のドアを叩く音がした。
「壁が薄いんだから静かにしろ。いくら言っても、毎日騒ぎやがって。マジで俺のことどう思ってんの? マジでなめてるの?」
来てくれた。いつも壁越しの会話ばかりだから、顔を合わせるのは初めてね。
やっと会えるのかと思うと、緊張して手が震える。
深呼吸をしてから玄関に向かう。
ついにスタンガンとロープの出番よ。今夜は帰さないから。




