ミュートとブロック
「ちょっと! 先生の話をちゃんと聞きなさい」
肩を掴んで振り向かせると、彼女はしぶしぶといった感じでイヤホンを外し、それを学校指定のものより大きめのカバンの中にしまいこんだ。カバンは重たいものでも入っているのか本来の丸みを帯びたフォルムが崩れ、底が四角く歪んでいた。
「やっぱり、現実だとミュートは効果が薄いな。ネットと違って、物理でくるもんな。ブロックしないとダメかな。最終手段だから、軽々しくは使えないけど」
目の前に私がいるというのに、独り言のような調子で喋る。
いや、実際独り言なのだろう。こっちを向きはしたものの、目を見ようとはしない。
私は彼女の顔を両手のひらで挟み、無理やりこちらに顔を向かせる。
「イヤホンで声を遮断しても、現実では『ミュート』はできないの。目を見て話して」
彼女はわざとらしく盛大にため息をついた。
「FF外から一方的に批判をぶつけてきて、その上命令までしてくるなんて結構なマナー違反じゃない?」
今度は私がため息をつく番だった。
「あのねえ。先生はインターネットごっこをして遊んでるんじゃないの。生身のあなたに用事があるの」
いくら顔をこちらに向かせることができても、視線までは操れない。
彼女は黒目を左上の方にやっていた。絶対に目を合わせないという強い意志を感じる。
「確かにミュートは効果が薄いけど、現実でもブロックは効果あるんだよ。知ってた?」
「どういうこと? 現実でブロック? 嫌いな人でも無視せず向き合わなきゃダメだよ」
「うるさ。あなたも物理でブロック決定」
彼女はカバンから血のこびりついたブロックを取り出し、両手で両端を持って私の頭の上に振り上げた。
その一瞬だけ、彼女は見開いた目で私の目をしっかりと見ていた。
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