慰め
ここしばらく、食うや食わずの生活が続いている。
先行き不安に眠れぬ夜には、自然と楽しかったあの頃のことが心に浮かぶ。
大好きな彼女と他愛ないことで笑い合っていたあの頃。
毎日が楽しかった。永遠にそんな時間が続くと思っていた。
でも、別れのときは突然来た。彼女の方から「好きな人が出来たから別れてほしい」と切り出された。
もちろん、納得できなかった。意味がわからなかった。
でも、僕への気持ちがないのなら、関係を続けても仕方がないと思い、あっさり了承してしまった。
もしかしたら、追いすがってもっと粘ってみたら案外「好きな人」の方と上手く行かなくなって、関係が続けられていたかもしれない。
もしかしたら、僕の気持ちを試していただけで、本当は好きな人なんていなかったのかもしれない。
もしあの時、彼女と別れていなかったら、今、どうなっていただろうか?
淋しい夜にはそんなことを考えてしまう。
きっとどんなに貧しくても、二人で笑い合って生活していただろう。
彼女は空腹を顔に出すこともなく、笑顔のまま仕事に行くのだろう。
そんな想像をするたびに思う。
良かった。そんなことにならなくて、本当に良かった。
彼女をこの貧しくて苦しい生活に巻き込んでしまうところだった。
彼女をこの生活に巻き込まずに済んだことだけが、今の僕の唯一の救い。
僕の知らないところで幸せな暮らしをしている彼女を想像することだけが、今の僕の唯一の慰め。




