最後の晩餐
魔王との決戦を翌日に控えたある夜。
勇者一行は酒場の一角を借りて、ささやかな壮行会を開いていた。
特別な料理の数々を前に、勇者はどこか苦渋を帯びた表情を浮かべる。
「これが最後の晩餐になるかもしれないな」
誰にも聞こえないように、こっそりとつぶやいたつもりだった。
だが、僧侶の耳にはしっかり届いていたようだ。
「大丈夫ですよ。死にやしませんって」
独り言を聞かれていた気恥ずかしさを隠すように、勇者は肩をすくめた。
「死ぬかもしれないだろ。……死んだらお前のところに化けて出てやるからな」
「なんで私のところなんですか。化けて出るなら戦士さんのところにしてください」
勇者は慌てて僧侶の口を塞ぐ。
「余計なこと言うなよ。戦士に聞かれたらどうする。士気に関わるだろ」
「なんか私の話ししてた?」
当の戦士が新たな料理を手にして戻ってきた。
勇者の苦渋の表情が深くなる。
「これはどういう料理?」
勇者が問うと、戦士は待ってましたとばかり嬉しそうに答えた。
「これはね、ワームの活造りよ。どれも腕によりをかけて作ったから、しっかり味わって食べてね」
そういって、テーブルに並べる。テーブルにはすでに、ゴブリンの脳みそ炒め、コボルトのレバ刺しなどが鎮座している。
異臭が立ち込める中、勇者は死の覚悟をして料理を口に運ぶ。
一口目ですでに意識が朦朧としてきた。
やはり最後の晩餐となりそうだった。




