お祭り女
当直業務中に高齢女性が救急車で運ばれてきた。お祭りの最中に転んだらしい。
「どこか痛いところはないですか?」
女性は耳が遠いのか何も答えない。
口をもごもごと動かしているので、耳を近づけてみたら「早く帰らせてくれ。祭りが終わる」と弱々しく繰り返している。
祭りを気にする余裕があるのなら、すぐに帰らせても良さそうだ。だが、相当派手に転んだらしく、家族が「レントゲンを撮ってください」と強く希望する。
念のため、レントゲン撮影をしておくことにした。
祭りで派手に転んだと言っても、まさか神輿を運んでいたわけでもあるまいに。どんな転び方をしたんだか。
そういえばどんな祭りかは聞いてなかったな。
縁日で夜店を回っていたのか、それとも山車が来るのを待っていたのか、身内が神輿を担ぐのをみて興奮していたのか。
レントゲン室に運ぶため、今寝ているベッドからストレッチャーに移し替えなければならない。
しかし、高齢女性の割にしっかりとした体格で、とても一人では移せそうにない。
そこで、移乗用マットを使うことにした。マットの四つの角に持ち手がついていて、四人が四隅に立ち、それぞれ持ち手を握って持ち上げれば、軽々と移乗させることができるのだ。
私は三人がしっかり持ち手を握ったことを確認して、掛け声をかける。
「いくよ。いち、にの、さんっ」
ぐっと持ち上がった途端、女性は救急外来に響き渡るような大きな声で叫んだ。
「わっしょーい!」
どうやら彼女が参加していたのは、神輿を担ぐタイプのお祭りだったらしい。




